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エージェント・チキンチック!!  作者: 織星伊吹
◆episode3.いいニュースと悪いニュースなら、俺は最高にいいヤツを注文するね。

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第21話

 ――約二時間後、防弾ガラスが左右に開き、中から出てきたのはクロウと、クジャクだった。


 クロウは研究員らしく白衣を靡かせながら、クジャクとこちらへ向かってくる。


「どうやら……ビンゴみたいだな。ヤツら何かしらで繋がってやがる。それを隠してるんだ」

「……クジャク先輩に怪我を負わせたのは、クロウ先輩ではないってことですか?」

「わからん」チキンは目を細めて、「だが、もう少し様子を見てみよう」


 チキンは身を乗り出して距離を詰めた。


「いいか、静かにしてろ」

「こんな距離から聞こえるんですか?」

「俺を誰だと思っていやがる」


 クジャクとクロウの会話に耳を澄ませる。――徐々に聞こえてくる。


「……刺すのは気が引けたよ。僕はグロテスクなのがどうもダメでね、タイロープブレードを自らの腹部にねじ込むのには結構勇気が必要だった」

「…………それで、現状私がその犯人に仕立て上げられてるってことか、はた迷惑な話だな」

「まあまあ、お互いの利害は一致しているし、構わないだろう? 君だってあの男にいいように使われるのは面白くないだろう、僕がそれを解放してあげるのだから、むしろ感謝してほしいくらいだよ」

「……減らず口を。アンタは何も考えず為べきことを果たせばいいだけだ」


 クロウが口を閉ざすと、クジャクが口元をにやりとさせて目を細める。


「………………ところで、僕に何か用かい? チキンチックのお二人さん」

「化け物がッ」


 チキンがそう吐き捨てると、茂みに蛇のような無数の影が迫ってくる。


「チクショウ、チック! ヤツの影に絶対に触れるな! 奪われるぞ!」


 チックはこくりと頷いて、チキンと共に転がるように身を投げ出した。


 お互いの距離は一〇メートル程だ。クロウの能力『影の強奪者』の真の能力とは、自らの影を使役して、対象の影を奪うことにある。例えばチキンの影の右腕を奪われた場合、影と現実の肉体がリンクし、約一分間は腕をクロウにもぎ取られる形となる。


 とても強力で、特殊な能力であるが、それだけに扱いづらさもある。


「影の泥棒さんってことですよね、話では。わたしの腕を盗んだとしても、約一分間はそれをずっと持っておかないといけないのだそうで。黙ってそんなこと――させると思いますか?」


 チックはぷくっと頬を膨らませて、拳を口の前に作る。――『爆焔吹き矢による一矢』だ。


 数秒遅れてから、チックの前で爆音が発生し、空域が破裂する。


「……爆発は美学です。世は爆発なんです! 爆発ッ!!」


 チックがまたいつぞやの夜のように、瞳をエメラルド色に煌めかせて頬を上気させる。


「おいおい、冗談だろ? 勘弁してくれよ」


 チキンは頭を抱えた。

 突如中空に発生する小爆発に驚愕しながらも、クジャクがネクタイを外す。


「初めて見るが、とても強力な能力だね。いきなり放つとは思わなかったけど」


 クジャクの手元で、タイロープブレードは彼の思想を具現化するように直立し、名の通りの刃となった。


 くるくる手元で回しながら、微笑を浮かべて、チックとの距離をゆっくりと詰める。


「……チック、わかってるよな、ヤツの能力は意識できてれば怖いものじゃねえぜ」


 クジャクの能力は戦闘向きではない。それに、長時間一緒にいる仲間内だと効果も薄れるし、アドレナリンが過剰分泌している今、フェロモンに惑わされる確率は低いといえる。


「僕の能力なんて名刺代わりみたいなものさ。戦闘においては、あまり意味をなさない。それに僕はね――」クジャクは突然間合いを詰めて、刃を一閃。「コレもなかなかイケる口だよ」


 空に剣戟が迸る。


「奇遇だな、俺だってイケる口だぜ」


 かろうじて、クジャクの刃をチキンは受けきっていた。同じ黒い布の刃で。


「刃物の扱い方をママに教えてもらわなかったか? おい色男」


 チキンはクジャクの刀身を弾くと、横に刀剣を振り払いながら中空に身を投げ出す。着地地点は噴水の水面。あめんぼのように立ち尽くして、自らの獲物をクジャクへ突き立てる。


 タイロープブレードは、エージェントの標準的な近~中距離戦闘用の武器であり、使用者によって戦闘スタイルが大きく異なる。チキンは防御主体の型であり、変幻自在の硬度を、ほぼ一〇〇パーセントに硬化させた状態で、己を軸に滑らかな円を描くように攻撃を打ち落とすスタイルを得意としている。攻撃という選択肢をかなぐり捨てた、防御の型である。その刃を相手に向けることは決してない。


「ふふ、君は相変わらず優しい、そんなに僕に刃を向けるのが嫌なのかい」

「俺がコイツを向けたら、お前は一発でミンチだからな。行き過ぎた才能ってのは隠すもんだろ。いいか、よく聞け。俺は誰が相手でも他人に暴力を振るわない。絶対にだ!!」


 自らの信念を曲げることなく高らかに叫ぶ。そう決めてから、破ったことは一度もない。


「何をバカなことを言ってるんです、チキン先輩」


 チックが構えるチキンの身体を押しのける。「よそ見、しちゃ、ダメじゃないですか」


 クジャクに気を取られていた隙に、クロウの影が背後から迫り来ていたらしい。どうやら気配を消して、障害物の影で肥大した影を上手く活用したらしい。


 醜く太った大蛇のような影が、チックを襲う。何とか寸前で教科書通りの緊急回避を行ったおかげで、大蛇の噛みつきを避けた――と思われたが、


 影は無情にもチックの左腕を剥いだ。


「痛ッ……」


 クロウの影が、チックの影を引き千切ることで、チックから左腕の外形が消失した。はらりとスーツの黒い裾だけが宙で揺れる。


 蛇のようなクロウの影が食いちぎった影を、主人へ献上する。やがて彼の右手にチックの左手が握られた。


「安心しろ、一分間だけだ。痛みはあると思うがな」


 クロウが無表情に告げる。


「……なっ、チック、テメェ――」チキンは言葉を詰まらせた。

「ふふ、チキン先輩……貸し、一つですよ。……何を余計なことしやがるんだ、って言わないんですか?」


 チックは目元を青ざめさせて、唇をひん曲げる。


「痛いですけど、何も問題ありません。だって、わたしは生粋のエージェントですから」


 チックは痛みを堪えながら残った右手に力を込めて、息吹く。

 数テンポ遅れて小さな爆発が再び巻き起こる。


「わたしばかりずるいです。チキン先輩の能力、早く見せてくださいよ」


 チックの微笑みを直視し、チキンは地面に己の手をめり込ませた。

 ぐわし、とコンクリートをゼリーでも掴むようにえぐって、即席の石を創り出す。


「クロウ、テメェが俺に借りを作らせやがったってことでいいよな。チビっちまいな、兄弟」


 チキンは五センチ強にもなる石を軽く空に浮かせて、自身の親指で弾いた。

 ぱきん――という気持ちよい音が辺りに反響しながら、目標へと銃弾を優に超えた速度で到達し――クロウの頬、数ミリ横に弾丸が通り過ぎ、障害物を盛大に破壊した。


「……それほどの力を持っていながら、何故君は爪を隠そうとする」


 クジャクが振り返ってクロウを確認しながらに言う。


 チキンの能力、『極めし者の指先マスター・フィンガー』は、指先に込めた力を極限まで強めた肉体強化系の能力である。地面や壁を素手で掴み取り、つぶてを作り、指弾で牽制、近距離戦の際はタイロープブレードにおける防戦を開始するのが、チキンの通常スタイルだ。


 本来であれば、近距離戦に持ち込んだ際、相手の部位を指先で破壊したほうが、圧倒的に強力な能力になるわけだが、チキンはそれをしない。


 チキンはクロウを一瞥する。表情を微動だにせず、脅威が過ぎ去ったあとの頬からは、鮮血が伝ったままだ。


「別に隠してねえ、こんなもん、牽制でしかねえんだ」

「チキン先輩、さっきは隠すとか言ってたじゃないですか、嘘つきなんですか」

「う、うるせえな、テメェは黙って隅で怪我の手当してやがれってんだ、頭フッ飛ばすぞ」


 片手を失いながらも軽口を投げかけてくるチックに反論しながら、クジャク逹に向き直る。


「テメエ等が何を企んでんのかは知らねえ、だが、俺たちとは相反してるってことだけは確かだ。テメェらを捕らえて、ボスに引き渡――」


 チキンがまだ喋り終えていないうちから、クジャクは寝首を掻くアサシンのような身のこなしで跳躍し、タイロープブレードを鞭のようにしならせて、痛々しい中距離打撃を叩きつける。


 地面に無数の切り傷が残る。しかし、チキンはすべての攻撃をはたき落とすことに成功した。


「君は……お喋り過ぎるのが玉に瑕だよ、だからほら、こうなった」

「……テメェ」


 叩きつけた無数の攻撃は、どうやらダミーだったらしい。チックの身体に絡みつくタイロープブレードは、彼女の柔らかそうな四躯を弄ぶようにして、締め上げる。


「……SMプレイですか……クジャク先輩、残念ですが、あまりそういう趣味はないです」

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