第10話
・仮に人員の誰かが超人類を発見した際、敵が突発的な攻撃態勢に入った場合に考えられるうえで、最悪とされるリスクはなにか。(最悪でも一秒以内の物理攻撃が予想されるものとする)→物理攻撃を受けた人員の即死、もしくは移動や、手足の行動が制限されるほどの深手を負うこと。その上にミッションの内容を尋問され、機密情報が露見されること。
・どうしたらその状況を未然に阻止することができるのか、また、避けられない事実である場合、どうやって突破することができるのか。→人員配置は、必ずペア行動を原則とする。一人行動の禁止。また、事象が起きてしまった際は、タイロープブレードでの防御を第一に、接近距離の遠いペアが、攻撃を受ける人員のサポートに必ず回ること。一人が重傷を負うより、二人で肩代わりをする考えを必ず持つこと。
――といったような事柄が、ずらずらと一〇個以上は書かれている。ホワイトボードが真っ黒に埋め尽くされている。
「……ふむ、どうだ。他、なんかないか? ……クロウ」
オウルがクロウを名指す。
「……とくにない」
「……そうか」
「おいこら根暗野郎、パーティーの七面鳥かなにかのつもりか? いいか、俺とお前は決して仲良しなわけじゃないが、一応チームだ。テメェの一瞬の油断が、この俺の命に繋がってくる場合もあるってことを忘れてるわけじゃないだろうな。死んだら千年祟ってやるぜ、感謝しな」
「……要は……一つくらい意見でもだしたらどうなんだ、ってことが言いたいんですね」
チックが代弁する。
「……とくにない。ないと思ったものはない。私はこのミッションで失敗など犯さない」
「ああ、最高に頼もしいね、この完璧超人が」
チキンが皮肉を言って、ふんと鼻を鳴らす。
クロウはミッションの規模がどれほど大きかろうと、必要最低限の会話しか交わさない。自分はお前らとは違うとでも言いたげに、高みの見物を決め込んでいる。それ故に後輩のくせに、やたらと偉そうに感じるのが、チキンは気にくわなかった。
「……まあ、そうだな。クロウに限ってはそれでもいい。お前にはそれだけの実績があるからな。……だが、少しずつでもいい。自分の意見というもんを俺たちにぶつけてみちゃくれないか。仲間内の議論、楽しいもんだぞ」
オウルは困ったように頬を掻いてから、にっこり笑った。
「……了解」
「くくく、お前は言えば聞くからな。チキンとは違って」
オウルはそのままチキンに視線を滑らせる。
「お前は? なにやらいい感じのことを言ってたが、お前だって対策を一つあげただけでリスクの洗い出しは一つもしてないだろ」
「……そうだな、じゃあこの俺が一つ案をあげよう。耳の穴かっぽじってよく聞け、えー」
チキンはもったい付けて大きく息を吸う。
「――それは……この秘密結社に裏切り者がいた場合、だ」
質素で賑わっていたアジトが途端に静まり返る。
メンバーの瞳孔が微かに揺れる。沈黙を消し去るように口火を切ったのはチックだった。
「……もしそれが事実だった場合、わたしたちはこの場で敵にすべてをさらけ出してる、ってことになりますね」
「ああ、最高のパーティーになる予感しかしないぜ」
おどけるようにチキンが笑って呟く。
「……ほっほ~! 感心したぞチキン、お前からそんな鋭い意見がでるとはな、なかなかいい着眼点だ。採用、ガッハッハ、俄然面白くなってきやがった」
「何がガッハッハ採用だ、だ!! 俺は真面目に考えて言ってるんだぜ? オウルさんよ!」
「いいんじゃないかな。考えようじゃないか、もしそうあった場合、どう対処すべきなのか」
クジャクも賛成する。
「んじゃあみんなで考えるとしよう……こうして俺たちの作戦が全てスパイ、そうだな仮に“A”としよう。Aに全てが公となっている状態で俺たちは――」
オウルがまたも楽しそうに、裏返したホワイトボードにペンを走らせる。
一方クジャクは薄い笑みを浮かべながら、長い足を組み直す。
大きな瞳をぱちくりさせて、チックは真剣にホワイトボードと睨めっこ。うーんと唸りながら黒い髪を耳にかけた。
そしてクロウはつまらなそうに腕を組んで、傍目からその光景を眺めていた。
このとき放ったチキンの一言が――やがて訪れる絶望への予兆だということを、彼らは知ってか知らずか、黙秘を行使し続けるのだった。
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