システム・ソシャゲ
欠けた記憶。
未来を見ていたかのような曖昧な時間の流れ。
世界の破滅の予兆。
なんていうソシャゲに在りがちなプロローグはなく、私は転生した。
まあ。
「いやー、申し訳ありませんねー。貴女は召喚の本命ではないんですけど、本命の召喚時のシステム運航テスターとして事前に選ばせていただきました!」
「え、そんなこと急に言われましても」
「大丈夫!貴女にはシステム・ソシャゲという心強い特典が付与されます!」
「ソシャゲ!?ソシャゲっていいました!?確かに私ソシャゲは嗜みますけども!異世界でもソシャゲって!」
「ソシャゲと言えばガチャの闇とか、課金圧とか、暗黒の要素を感じるかもしれませんが、ソシャゲ黎明期からすると最近のソシャゲはかなり良心的になりました」
「そ、そうなんですか?」
「天井の仕様とか、無料ガチャの敷居とか、定額課金の特典とかですね……この度のシステム・ソシャゲはかなり手厚いシステムになっているので異世界を楽しめると思いますよ」
「でも、魔王とか倒さなきゃなんですよね?」
「いえ、貴女がテストを行うシステム・ソシャゲを用いた転生はソシャゲ大好き小池さんへのご褒美転生なので、予備試験・本番ともに倒すべき敵などはいませんよ」
「自分の好きな要素のあるチートで転生させてもらえる小池さんはどんな徳を積んだんですか……」
「捨て猫・捨て犬などを保護して里親を捜すボランティアを10年ほど継続していましたね」
「徳が、徳が安い」
「いうて10年ですよ。動物好きでも苦労が多い事業をボランティアでやっていたのだから当然の報酬では?」
「そうかな……そうかも……」
「まあそんなわけでして、貴女にはシステムを存分に試していただきたいですね」
「まあ、はい。私自分が死ぬな……っていう状況だったの思い出せるので反抗はしません」
「今時珍しい……いえ、今時だからこそでしょうか。盲腸で受け入れ先が決まらずそのまま……ですからね」
「滅茶苦茶痛かったです」
「まあ、その分健康な体でソシャゲチックな能力をもって異世界で楽しく暮らしてください」
「あ、そのー」
「なんです?」
「ちなみに、システムに適応されるゲームの名前は……?」
「ゲーム名は特にないです」
「ない、ですか?」
「異世界・現代・神界の3つのレアリティを持つ日用品・装備ガチャと、貴女との相性がいい異世界の過去・未来の英雄を模したキャラクターガチャの3種類ですので」
「あ、そこらへんオリジナルなんですね」
「そういう事です。あ、ちなみに課金に当たるシステムには異世界の魔物から取れる魔石が必要ですから、その入手の方法は考えておいた方が良いですよ」
「……魔物から取れる石が必要なら戦え……戦え……戦わなければ生き残れない!っていうところでは?」
「なにも直接手に入れる必要は無いんですよ。ソシャゲの課金だってお金は必要でも職業色々、働き方色々じゃないですか」
「そういうもんですか……」
「でもそうですね、貴女の分身である主人公が初期ユニットにいるソシャゲも参考にしているので、ユーザーレベルが上がることを考えると装備ガチャを引いて自分で直接魔石を稼ぐのは、異世界の普通の人より有利だと思いますよ」
「へえ、それもシステム・ソシャゲのうちなんですか?」
「結構古いタイプですけどね、主人公がユニットとして存在するのは。一応最近の放置ゲー要素も取り入れて定期的に資材を入手できる放置モードも設定できますよ」
「あ、いやそれはブラックになりそうなんで遠慮します……」
「そうですか?それでは後は……ああ、転移後にはチュートリアルガチャでSR英雄一体確定の10連が引けるので、自分が戦うのはちょっと……というなら忘れず引いておいてください。SR英雄は英雄だけあって装備がない貴女にくらべると100人分くらいの能力が素でありますからね」
「そんなに」
「あと、完全戦闘しないスタイルでも人間関係がちょっと……という場合以外は引いておいて方がいいですね。引いた英雄は貴女の記憶倉庫に格納しておけば維持コストもかかりませんし。お店をやり始める時に店員を頼みたい、という場合に助けになるはずです」
「すごく手厚い」
「そりゃ、私は貴女を苦しめるために異世界送りにしたいわけではありませんから。ご褒美の為のシステムのテスターなんですからね」
「そういえばそうでした。はぁー、なんかそうなると異世界も楽しみになってきました」
「ふふ、楽しんでくださいね。理不尽なことは……時々あるかもしれませんが、それは元居た場所でも同じこと。そんな逆風に負けないように、強く生きてくださいな」
「はい。解りました。テスターの件、しっかり務めさせていただきます」
「あ、そうそう。テスターらしく時々でいいのでご意見・ご要望を送ってくださいね。システム・ソシャゲにそういった機能も組み込んでありますので」
「解りました。後からくる小池さんの為にも快適なシステムになるように意見を上げたいと思います」
「その意気その意気。それではそろそろ……いってらっしゃい」
「いってきます。短い間でしたがご親切にありがとうございました」
「どういたしまして。貴女の行く先に幸あらんことを」
というようなテンプレはあったわけだけれども。
さて、周囲を見渡すと森の中の街道の曲がり角近く、と言った所。
街道のどちらに行けば街が近いかは分からないけど、道を辿っていけば確実に街に着けるだろうロケーションはありがたい。
さて道から森の浅いところに入ってチュートリアルガチャを……と思って移動してシステム・ソシャゲを脳裏で起動すると。
燦然と輝く新着メールマーク。
それなりにソシャゲを嗜んでいる私は「あ、これ事前登録キャンペーンとかの初期プレゼント配布メールだ」と察した。
「どれどれ……」
メールマークに意識を合わせて開封。
すると届いたメールは。
『異世界初ログインボーナス:転移該当地域周辺で通用する身分証』
『異世界初ログインボーナス:銅貨100枚・銀貨100枚・金貨100枚セット(銅貨1枚あたり100円とお考え下さい)』
『異世界初ログインボーナス:Eランク魔石10個』
ふーむ。
身分証は素直にありがたい。
異世界転移後に下手すると詰む要素の一つですからね。
通貨セットもタスカルタスカル。
でも銅貨何枚で銀貨になるかとかの表記がないからこれは後でご意見メールかな?
で、魔石。
Eランク魔石10個の価値が解んない……10連できるの?
まさか単発1回とか。
最近のソシャゲ事情に寄せてるなら石は1500個で10連とかありうる話だから……うーん。
でも、そんな理不尽な石の数の要求をあの優しい人たちがするかぁ?というのはある。
あんまり考えずにガチャ画面見てみるのが早いかな?
というわけで日用品ガチャの画面を開く。
すると脳裏の(感覚的に)右下の方に「魔石のランクごとの回転数の違い」という項目があった。
それを見ると……。
『Eランク魔石……10連
Dランク魔石……50連
Cランク魔石……100連
Bランク魔石……200連
Aランク魔石……300連
Sランク魔石……500連』
という、若干狂ってるのかな?という回転数がばがばの表記が躍っていた。
いや、基準が優しい分には嬉しいんですけど。AランクとSランクの差が200回転もあっていいの……?
と、不安になりそうになった私だったけれど、すぐにはっとしてしまった。
AランクやSランクなんていう、位の高い魔物がそんなほいほいいるとは思えない。
居たとしてもかなりの討伐難易度であろうことは想像に難くない。
つまり実質的に想定している討伐何度はCまでで、それから上は「とりあえず」の値なんじゃないかな。
Cランクの魔物がどんな相手かは分からないけど、実質100連チケットが1体から取れるということはそれなりの相手なんでしょう。
Eランクは多分、ゴブリンとかそういうメジャーで強さもそんなでもないイメージの相手だと思うんだよね。
つまりそういう、安楽な狩りをしててもガチャを楽しめる設計にしてるってわけですね、はい。
そういうことを考えて納得を得た私はご意見メールでSランク魔石はいっそのことUR50枠確定チケット扱いの方が嬉しいかも、と書いて出すことを決めたのでした。
と、基本的な情報を確認してアイテムを受け取った(受け取りを念じるとシステム・ソシャゲに紐づいたアイテム収納に直接収められた)後、魔石ガチャは後回しにしてあの人のお奨めどおりチュートリアルガチャを回そうと思ったんだけど。
ふと思ってしまった。
現実に居た人を呼ぶんだから、キャラ被りとかないよね……?って。
いや、でも、まさか、ありえちゃうの?
そういえば居た・現れる人を「模した」キャラクターガチャだっていってた。
そう考えると廻すのが若干怖くなっちゃうんだけど、異世界で頼れる人もいない私が、インスタントに負担を分け合える人を手に入れるにはこれしかないんです!
という事で廻した結果。
『SR:隼の狩人エーメル』
『C:剛体のアンベル』
『C:剛体のアンベル』
『C:剛体のアンベル』
『C:剛体のアンベル』
『C:剛体のアンベル』
『C:剛体のアンベル』
『C:剛体のアンベル』
『C:剛体のアンベル』
『C:剛体のアンベル』
あんでよ!
はっ、冷静さを欠いてしまった……。
いや、でもこれはご意見案件……うーん。
でもなぁ。
あの人の言葉を信じるならガチャから排出される英雄は私との「相性」が良いキャラが排出されるっぽいからなぁ。
変に相性が悪い人がパラパラでるよりはいいのかも。
ちなみに、召喚時台詞とかの演出は今のところなし。
システム・ソシャゲを確認してみると、『現体化』っていう召喚したキャラを実体化する手順を踏まない限り、彼らはシステムソシャゲの中に格納されて眠っている扱いらしい。
で、被りについても被った時点で解説が入った。
どうもシステム・ソシャゲには限界突破の上限gないらしく……被るだけ被った数、どんなレアリティのキャラでも強さが上がっていくらしい。
沼のシステムである。
システム・ソシャゲで確認できる能力値で見ると現状でも基礎能力が。
『SR:隼の狩人エーメル
HP2300 ATK2400』
『C:剛体のアンベル∔7
HP4200 ATK3500』
って感じにコモンキャラの能力値がスーパーレアのキャラを上回っている……。
そりゃ、特殊能力とか替えられない強みがあったり、レアリティが上のキャラの方が1限界突破当たりの能力強化具合が上だったりするんだろうけど。
これで実際現体化してウマがあったりしたらその人を強化したくて延々ガチャを回すことになったりしそう。
沼だー……。
そんなことを思いつつ、とりあえず今基礎能力が高い剛体のアンベルさんを現体化で呼び出してみる。
護衛になる人の能力値なんていくらあってもいいですからね。
「俺はアンベル。守りなら任せてくれ」
「どうもアンベルさん。これからよろしくお願いしますね」
「おうさ、マスター。魔物や盗賊相手の守りなら俺に任せてくれ。ただ、商売とかは勘弁な」
「あはは、当面は商人になる気はないですよ?」
「ガチャを上手く使えばできそうな気がするけど、駄目なんか?マスター」
「うーん、商売にするならそれなりに安定した仕入れの確保とか考えないとですねー」
「ああ。安定した仕入れはガチャからは遠いか」
「ガチャの概念とか普通に話してますけど、そういうのは飲みこんでる感じですか?」
「そうだな。あくまでも俺は英雄の模造品だ。確かに切れば血は出るし感情はあるが、マスターのシステムの中の物、って感じだな」
「なるほど」
「で、マスターはこの世界でどんな生計を立てるつもりなんだ?」
「そうですね、まずは……」
アンベルさんと話した後の事は、ちょっと簡単に話す。
まず私は装備ガチャを回して分配した後、近くの街に入って宿を取り、冒険者組合に登録して見習い期間を街中で過ごした後、Eランクの魔物(想像通りゴブリンだった)を狩って経験値と魔石を稼いで、日用品ガチャを回す日々を過ごした。
日用品ガチャで出たものから、自分には不要なものを売って、そのお金で魔石を買ってガチャを回すと、物の売り買いという行為がスローライフ系のソシャゲの経験値入手につながったのか、私のユーザーレベルは順調に上がっていったのでした。
そんな日々の中、アンベルさんの提言で「ガチャ能力を知られても自衛できる勢力の作成」を目指してキャラガチャも積極的に廻すように。
大体アンベルさんだったけど、それでも回転数が1000に届くとそれなりに人員が揃って行って、冒険のPTが組めるくらい……隊商が組めるくらい……と揃う頃には、日用品ガチャから技能書っていうやべーものが排出されて、またやりたいことが変わっちゃったんだよね。
錬金とか鍛冶とかお針子仕事とか料理とか、読むと対応した技能が身につく本でゲットした技能を使った生産プレイに嵌っちゃいまして……。
召喚した英雄の皆さんには適性別に護衛・冒険・商売で手分けしてもらって私は篭っちゃってぇ。
完全に廃人生活に突入。
このころになると私の知名度もかなり上がってて、色々面倒なお声がけとかもあったんだけど、呼んだ英雄の中の元貴族とかに折衝を任せて、気づけば私の商会や、製作者としての通り名は知ってるけど、私自身を知る人は少ないみたいな状態になりまして。
まあ、楽しい人生でした。
沢山ご意見送ったし、小池さんも快適なソシャゲライフを送ったんじゃないかな。
まぁ……私みたいに不老不死に手が届いちゃって(これはガチャアイテムじゃなくて、技能書派生の錬金・創薬スキルからの開発でした)終わらないソシャゲライフになってるかもしれないけど。
この世界、いくらでも長命種がいるから私みたいな過去の人を呼び出せる能力があると「お前は〇〇の時の!」って事が無限に起きる可能性があるのでまだまだ世界に飽きたりもしません。
こういう、イベントが終わらない所もなんかソシャゲチックですよね。
では、私はそんなソシャゲライフをこれからも楽しみます。
皆さま、お元気で!
こういう流れのガチャが絡む作品が読みてぇ…となるも長編で書くほどの気力はわかず短編として出力することに。
ソシャゲ風(架空ソシャゲ原作とは言わずチートの内容がソシャゲのサービスっぽい)作品殖えろー!