ゲームオーバー
涼しくなったような、なっていないようなそんな日。真夏の空気ではなくなったのはうれしいところ。これから好きな冬がやってくる。それと同時に大学入試もやってくる。やっぱり来なくていいかも。家に帰ってから一生ゴロゴロしている。全てにおいてやる気がない、なにもやりたくない。生きたくない。そんな日もある。そこまでメンタルが強い人間ではないのはみんな知っているか、そうか。クッションに顔を埋めたままペットカメラにピースをする。どのカメラも私を捕らえているんだよな、そう考えるとうれしいかもな。うれしいって思うのも端からすれば異常なのだろうが。
「いつまで床に落ちてるの。」
「ずっとです。」
気付けば先生ご帰宅。暗くなるのもずいぶん早くなったものだ。洗濯物取り込むの忘れてる気がするけど動きたくない。こういう日もある、と自分に言い聞かせてもいつも動いてないだろ?と誰かが言う。誰も言っていないのに。
「要る?」
「大丈夫です、綾音様のなんで。」
先生がお菓子を分けようとしてくれたんですがこれは夢?つねった頬が痛いから夢ではなさそうだ。それは先生のものですなので大丈夫です先生の気持ちだけでお腹いっぱいです幸せですありがとうございますこの幸せな感情のまま死にたいです。
「ゲームしよ。」
「突然どうしたんですか。それは一体…」
「ゲーム機だけど。」
押入れから出てきたゲーム機。どこに仕舞ってあったんだろう。それにしてもなんで急に?ゲームとかしたことがないしどうやってするのかも知らない。初めて見たゲーム機につい夢中になってしまう。どうやって動くんだ、これ。
「私が学生だったときのやつだから動くかは分からないな。どうだろう。」
電源を入れるとちゃんと動き出した。すごい、動いてる。カセットを挿して先生がゲームをする姿を見守る。見ているだけでも楽しいものであっという間に時間が過ぎていく。これ自分がやったら多分抜け出せなくなるだろうな、ひたすらやり続けてしまいそうだ。先生にコントローラーを渡されかけたがなんとか断って観戦。スマホでもパソコンでもゲームができるのは知っているがやったことがない。無料だ、と言われても課金というものがあるからね。怖くて手が出せない。沼にハマったら時間もお金も溶けてしまう、それが怖い。私は先生に時間とお金を溶かしまくるほうがいいんだ。
「やらないの?」
「見てるだけで楽しいです。よそ見してたらゲームオーバーになりますよ。」
そう言い切る前にゲームの主人公、死す。それでも生まれ変わる主人公、強し。何事もなかったようにまた歩きだしている。トラウマとかならないのかな。ゲームの世界にそんなものないか。夜更けまでずっと子どものようにはしゃいでいた。明日も学校なのに。別にいいか、久しぶりにこんなに笑えたし。楽しかった、ありがとう。