先生との再会
中学生のとき、私は好きな人ができた。
好きになった人は先生。
先生だよ?流石にダメだって分かっていた。
何度も諦めようとした。
でも無理だった。
卒業式の日、私は先生に手紙を渡した。
内容は本当に黒歴史。見せられないよ!閲覧禁止!って書いておかないといけないくらいに。
そんな私と先生の物語。
◇
4月。
ぽかぽか陽気の春、高校生になりました。
好きな人(先生)が居ない学校生活なんて楽しくない。
友達だってできないだろう。
ぼっちJK爆誕です、おめでとう。
掲示されているクラス表すら見れないくらいに陰キャ。
心臓バクバク。
人多すぎるし怖いしもう無理だ。
なんとか自分の名前を見つけてクラスに行く。
クラスに入ればもうグループができているだと?!
これはこれは、ぼっちJK確定演出。
かえりたい。
私の好きな人〜
どこに居るの〜?
かえりたいよ〜
と思っていたら入学式終わってました。
そして地獄の自己紹介が始まりました。
なんで?なんでこんな拷問を受けないといけないんだ!?
さてさてやってきました私の番。
いやだな心臓死にそうこわいいやだ早く終われ帰りたい
と思いながらなんとか自己紹介しますよ、私はえらい。
「早瀬叶です、よろしくお願いします。」
言ったー!周りの視線こわー!死ぬかと思った!もう駄目かと思った!
と思っていたら誰とも話さないままご帰宅です。
陰キャというかコミュ障というか色々こじらせすぎ。
悲しいJK物語。
制服を脱ぎ捨てて部屋着に着替える。
はぁー、このまま3年間ぼっちなんて。
中学もずっとぼっちだったし、小学生のときもぼっち。
人間関係向いてない。
今日もパソコンとにらめっこ。
ゲーム開いてぽちぽち。
飽きたな。
散歩でも行くか。
靴を履いて夜の散歩。
春とはいえ夜はまだ寒い。
ふらふら歩いていると見覚えのある顔が歩いてきた。
え?先生?やばい。
「早瀬?」
「せ、先生…」
合わせる顔がない。
心臓バクバク、止まっちゃいそうだ。
「久しぶりでもないけど、元気か?」
目の前に先生。大好きな先生。
え?夢?私死ぬ?と思いながら返事をした。
「は、はい。」
「そう、もう夜遅いから早く帰るんだよ。高校頑張ってね。」
先生はそう言って立ち去ろうとする。
いやいや待て待て!せっかく会えたのに!これで終わり?!
「先生、恋人になりませんか?!」
「え?」
はぁー?なに言ってんの私?
本音出ちゃった、待って合わせる顔がない。
福笑いになりたい。
えー、待って無理。どうしよう。
「手紙、ちゃんと読んだよ。ありがとうね。」
「あぁ、あ、捨ててくださいもう忘れてください。」
「それは無理だね。恋人にはなれないかなー、流石に年の差が。」
「別に気にしません。」
「気にしなさい、20歳は違うよ。」
「大丈夫です。恋人に。」
さっきからなに言ってんだ、頭おかしくなりすぎている。修理してもらいたい。
恋人とか絶対無理に決まってるじゃん。
「早瀬ー、うん。分かった。先生疲れてるから早瀬の家連れて行って。」
「はい?え?なんとおっしゃいました?」
「だから家連れて行って。」
なにこの状況おかしすぎだろ。どうなってんの世界線。やばいって無理だって心臓死ぬって。
「よろこんで。」
よろこんでじゃねーよ断れよおかしいだろ自分。先生どうしちゃったのなんでついてくるの。駅反対方向でしょなんでなの。
何故か一緒に帰るという現象が発生。
「早瀬、高校どう?」
「ダメダメですね。ぼっち確定ですよ。」
「そうだよな。」
酷くね?そうだよなじゃないでしょオブラートに包むとかしてよストレートだな。
いいよ好きだからいいんだよ。
でもさー…
「早瀬、親御さんは家居るの?居たら引き返すけど。」
「居ないです。ほとんど帰ってこないんで。」
「あー、そうなの?家のこと大変でしょ。」
「別にこれが普通ですから。大丈夫です。」
親が居たら引き返すんかい!居ないからって来るんかい!
先生こんな人だっけ。
「ここなので…えっと、」
「お邪魔しまーす。」
鍵を開けると普通に入っていく先生。
先生家に帰らなくて大丈夫なのかな。
「先生は家に帰らなくていいんですか?」
「1人だしここからのほうが学校に近いでしょ?帰らなくてもいいかな。」
帰るのが面倒だってことね。そうだよね、お仕事大変だもんね…
「先生晩ごはんまだですよね?よければ作りますよ。」
「ほんと?コンビニのお弁当ばっかりだったから助かる〜」
忙しいと不摂生になりがちだ。
給食だけじゃ栄養は摂りきれない。
ちゃんと作らないと。
もう午後10時。先生は疲れてるだろうから先にお風呂に入ってもらおう。
「先生、お風呂先入っててください。」
「いいの?ありがとう。」
…ちょっと待って?着替えは?
「先生、着替えは…」
「あー、どうしよっか。」
どうしよっかじゃないよ先生。
洋服はともかく下着は貸せないし。
「こんなときのために替えの洋服あるんだよ。困らせた?」
「それならそうと言ってください。」
こんなときのため、はよく分からないが先生の教科担当は体育。着替えがあってもおかしくないか。
よし、気を取り直してご飯を作ろう。
お米を炊いて、味噌汁作って、魚焼くか。あと卵焼き…
何だかよくある献立になってしまった。
うーん、ご飯に明太子載せとくか。
「お風呂ありがとう。あ、美味しそう。久しぶりに美味しそうなご飯食べられる。いただきます。」
一口食べると先生の目の色が変わった。
無言で黙々と食べ進めていく。
「美味しい、ですか?」
「美味しいよ、早瀬。あなた料理上手なのね。」
「いえいえ…美味しそうに食べてくれてうれしいです。」
あっという間に食べ終わった先生。
先生の食べている姿がかわいくて幸せすぎた。
「もうこんな時間、授業準備しないと。」
授業準備、そうか。そうだよな。先生たち大変だな。
パソコン見てる先生かわいいな。プリントまとめてる先生かわいいな。
先生なにか飲むかな?
「先生、なにか飲みますか?ココアとかどうでしょう。」
「ありがとう。早瀬、そろそろお風呂入ったほうがいいよ。もう夜遅いし。」
「ココア淹れたら入りますね。」
ココアを淹れて、お風呂…
ん?先生が入った後のお風呂?
恥ずかしすぎて頭パンクしそう。
潔癖とかじゃない。何ならお風呂のお湯飲みたい。流石に飲まないけど!流石に変態すぎる。
結局シャワーだけにした。
「早瀬出てくるの早くないか?」
「明日の学校の用意してないな〜って…」
「ちゃんと温まらないとダメだよ。冷え性なの知ってるよ?」
「え、知ってるんですか。なんで。」
「体育でいつも早瀬余ってたじゃん。だから私とやったでしょ?そのときめっちゃ手冷たかったんだよね。こっちが凍えそうだった。」
二人組でペアをつくるとき、私はいつも余るから仕方ないので先生とやっていた。そんなに手冷たかったかな。凍えさせてごめんなさい。
「でも夏は熱かったね。熱中症なってないか心配だったよ。」
夏は身体に熱がこもるせいで熱中症並みに身体が熱くなる。心配されてたのか、嬉しいけどさ。なんかね。
「ほら、早く髪乾かしな。風邪引くよ。」
髪乾かさなくてもいいもん、先生見てたい。と思ったが早くしろという目で見られたので髪を乾かす。
先生が家に居る。普通に話してる。私明日死ぬ?大丈夫?
色々考えながら乾かした。
「先生、ベッド使ってください。私ソファで寝るんで。」
「いやいや悪いよ。私がソファで寝るよ。」
両者ともに譲らない。
気が付けば私のベッドで二人で寝ることになった。
いやなんで?なんでこうなるの。隣で先生寝てるんだけど、寝れるわけないじゃん。先生の寝息録音したいけど流石にキモいな、やめとこ。
「先生、狭いですよね。やっぱり私…」
「大丈夫だよ。じゃあおやすみ。」
最近は授業準備をしていたら寝落ちしてた、が普通だった先生。
おやすみと言った瞬間に寝息が聞こえ始めた。
なにこの状況。めっちゃ幸せすぎないか。好きな人が隣で寝てるよやばいよ。寝れないどうしよう、目がギンギンだ。
羊が一匹羊が二匹…数えるのだるい。
先生の寝顔を見ていたら朝が来てしまった。
「あー…あれ、そっか、早瀬の家だ。おはよう。」
「先生、おはようございます。早いですね、まだ5時なのに。」
「いつもこの時間だよ。6時過ぎには学校行くね。」
「大変ですね、先生って。すごいです。」
「最初はキツイけど慣れたら大丈夫。早瀬も朝早いの?早すぎない?」
「寝れなかっただけです。いつもは7時で…」
先生の寝顔見てたとか口が裂けても言えない。
「先生、朝ご飯どうしますか?パンでもご飯でもいいですよ。」
「じゃあパンで。」
カーテンを開けて朝ご飯を用意する。
先生はバタバタと準備中。
先生ってやっぱり大変な仕事なんだな。朝も早くて残業いっぱい、私にはとてもじゃないができない。
食パンを焼いてインスタントのコーンスープを作る。作るというほどでもないか。
「先生、朝ご飯できました。ジャムとか塗りますか?」
「ジャムはいいかな。そのままが好きなんだよね。じゃあいただきます。」
食パンはそのまま派か、なるほど。
食べてる姿やっぱりかわいいな。小動物みたいだ。
「早瀬は食べないのか?昨日の晩も食べてないんでしょ?」
「大丈夫です。お腹あまりすいてないし。」
「体調悪い?新生活だからしんどい?大丈夫じゃなさそうだけど。」
私は新生活も学校も苦手だ。心因性の体調不良なのかご飯を食べようとすると吐き気が襲ってくる。でも先生に心配をかけるわけにはいかない。
「大丈夫です。絶対に大丈夫です。」
「顔色死んでるよ。手も冷たいし体調悪いでしょ。」
いくら否定しても目で訴えてくる。逃げれない。
「先生、もう行く時間ですよね。」
「まだ大丈夫だよ。私の家から行くよりここから行くほうが近いしね。」
なにも言えなくなってしまった。気まずい沈黙。この空気感嫌いだな。
「そうだ早瀬、私が食べさせてあげよう。そしたら食べれたり…」
「いいです。」
「否定だけ早いね相変わらず。」
呆れるように笑う先生。ごめんね先生変な人間で。
気まずい雰囲気は変わらず続く。そんな中視界が急に暗くなった。
「早瀬?聞こえる?大丈夫だからね。」
息ってどうやってするんだっけ。視界は暗いまま、息もしにくい。先生の前でなんでこうなるの。
「早瀬ー、ゆっくり息吸おう。大丈夫だから焦らないで。」
温かい手が背中に触れる。先生に背中をさすられてる?え?このまま死んでいいかもしれない。
「ゆっくり吸って、吐いて。上手にできてるよ。」
何分経ったか分からないが息もできるようになって、視界も明るくなってきた。
「落ち着いた?学校行ける?」
「大丈夫です。ごめんなさい、ありがとうございます。」
背中にさすられた感触が残る。幸せすぎて天に昇れそうだ。
「じゃあ私行くね。ありがとう。」
先生を見送り、学校に行く用意をする。
脱ぎ捨てたままの制服を着て、髪を結んでカバンに教科書をぶち込む。
先生がこの家に居た、ということが信じられないが夢ではないらしい。
また会えるかな。そんなことを思いながら学校に向かった。
学校ではやっぱり陰キャです、先生。