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1 (1) 『復活・歪んだ二人の始まり』

 …居酒屋のような駄弁り。しかし、この物語を知る上では重大な愚痴。


 …人の話を聞かない奴ってどう思う?自分の意見ばかり言って、それが明らかに間違ってるのに、いや、合ってるんだ!と固執する奴ってどう思う?

 加えて、事あるごとに小突いてきたり、腹の立つ小言を付け加えてくる奴ってどう思う?横柄で、図々しくて、無神経で、配慮も思慮も浅い、それ故に行動が幼稚で、暴力的で、問題ばかり起こして、挙句の果てには全部他人のせいにする奴ってどう思う?

 そんな奴と付き合いたい?そんな奴と一緒にいたい?嫌だよね。嫌に決まってるよね。大体、最近の世の中はよく言うもんね。『付き合う人は選べ』って。ありゃ真理だね。


 …それを踏まえて、あなたは、嫌で嫌でしょうがない奴に嫌でも付き合わなきゃいけない、どころか、死ぬまで一緒にいなきゃいけない運命って、どう思う?それが自分の使命で、存在意義な世界ってどう思う?

 やっぱり地獄だと思う?

 思うんだ?


 それじゃあ、シャトーは今、地獄にいるね。




 …うずくまり、激痛の源流たる股間を両手で押さえながら、華奢で小柄な身体をヒクつかせるシャトーの臀部は、むかっ腹を立てるラディカの足置きにちょうど良かった。ラディカは全く自然な動作で、シャトーの上がった尻を踏みつけ、かかとでグリグリとなじった後、気分の赴くままに蹴り飛ばした。

 結構な威力。貧困特有の体重の軽さ。そして、4畳半ほどの狭い部屋(客室なのに)。

 故に、蹴り飛ばされたシャトーは、当然の如く吹っ飛び、傍の壁に全身を激突させた。

「らぁっ…!らぃかさまぁ…!?」

 壁面を背に、天地反転の体勢で倒れたシャトーは、唐突にズタボロボンボンになった。

 股間部の激痛、副次的腹痛、それに、壁面への激突による脳震盪。

 端的に言って、今の彼女はご自愛すべきだった。

 しかし、それでも彼女は、我が身ではなく、今に顕現した超常的光景を決して見逃さぬよう、しっかりと目を凝らした。


 …眼前に君臨する、“目覚めた故人”


「…下衆のくせに気安く名を呼んでくれるじゃない。何?自殺志願者?」

「しい…へぇぉ…!?(喋ったぁぁぁ!!??)」


 …改めて、ラディカが健在であることを認知したシャトーは、口をあんぐり開いた。


 生きてる…!ラディカ様が生きて、動いて、言葉さえ発してる…!凄い…!何で…!?

 …いや、ラディカ様が生きてることは、前から分かっていた。けど、まさか目覚めるとは思っていなかった!

 だって…


 …その理由は、もう語ったでしょ?

 魔術では、再生すらままならない。

 屍の血色すら、脈すら、取り戻せない。

 そんな無力さこそが、かつて私が屈した世の理。

 ってね?


 …だから私は、ラディカ様が肉体の回復だけでなく、脈を取り戻して、呼吸を再開させて、つまり、生命をぶり返した時点で、充分に常識を超えた奇跡だと思っていた。

 もう、これ以上のものはないと、固唾をゴクゴク呑み干していた。

 実際、ラディカ様は既に三週間、目覚めずにいたから…。


 再生以上の、“復活”なんて、するわけがないと思っていた。


 だから、昨日までの私は「今後、レジティ様と連絡が取れるようになるまで、ずーっと植物人間ラディカ様の面倒見続けるんだー…」ってゲッソリしてた。

 不遜だけど、正直な感想としてそう思っていた。私は私の未来予想図に落胆していた。


 …けど、恐ろしいことに、ラディカ様は今日、常識を完全に超えた!

 お昼前、今さっき、ラディカ様はいきなりベッドからムクリと起き上がって、のっそりと、ちょうど隣で驚天動地していた私の方を向いて、眠たそうにゴシゴシ目を擦った後、カッと目を見開き、立ち上がって、私の股間を思いっきり蹴り上げた!

 ラディカ様は、一寸の疑いようなく復活された!!

 …で、なんで私、股間蹴られたん?復活に必要なん?え?


 《イレギュラー:ラディカは完全に復活した》

 《ただし、とてつもない生きづらさを抱えて》


 …シャトーはふと、眼前で仁王立ちするラディカが、こちらを見て苛立っていることに気がついた。

 ラディカの怒りは、理不尽であることを除けばもっともだった。只今の上下逆さシャトーは、権力者を前にするにしてはあまりにも無礼な体勢をしていた。具体的には、修道服にしては破廉恥なスリットスカートを思いっ切りめくり上げながら、汚いケツをラディカに向けていた(はずかし固めみたいな体勢だった。もしくは、まんぐr…)。

「(いやでも、私をこの体勢にしたのはラディカ様ですよ…???)」

 シャトーは理不尽にモヤモヤしつつも、ラディカを不快にさせないよう、サッとスカートを直して、もろ出しだったケツを隠した。

 次いで、彼女はムスッとしながらも、仕方がないので体勢も直そうとした(まさか、ひっくり返りながら話に花を咲かせるワケにはいかないし…)。


 …ただし、彼女は、顔を不細工に不機嫌にしていても、頭の中は違った。

 彼女は、誰が相手でも精一杯に相手に寄り添い、慮ろうとできる、優しい心の持ち主であった。

 どれだけ印象の悪い野郎が相手でも、まずは笑顔で接することが出来る、物腰柔らかな人間であった。

 めっちゃ良いヤツだった。

 だから、彼女の脳は、嫌悪感に迸る身体に反し、ラディカに、如何なる第一声をおかけすべきか、深慮をもって考えていた。

「(…四ヶ月ぶりに生き返った人と話すべき最初の話題って何だろ?事情の説明?埋葬から復活までの経緯でも伝えるべき?)」

「(でも…、その前に、人と人との対話なんだから、やっぱり挨拶は欠かせないよね?…何より、このまま互いにムッとしたままなんて嫌だし…。ラディカ様とだって、笑顔でお喋り出来たら嬉しいし…)」

「(…でも、この場合のベストな挨拶って、『おはようございます』で合ってるのかな?それとも、昼だから『こんにちは』?もしくは、久々のお目覚めだから『お久しぶりです』?はたまた、死後の世界から舞い戻って来たことを考えて『お勤めご苦労様です!』?…うーん、今まで復活した人に会ったことがなかったから最適解が分からん)」

「(…あぁ、こうやって考えると、人間って本当に、自分の常識の中でしか思考が出来ないんだなぁ…)」

「(うぅ…、ラディカ様に何て伝えたら、ご機嫌を取り戻せるのかなぁ…)」


 …しかし、そんな彼女の健気さ、懸命な配慮は、次の瞬間、瞬く間に無に帰した。

 というか、帰された。


 …何故なら、シャトーが起き上がるよりも、ベストな挨拶を思いつくよりも先に、ラディカは何のためらいもなく、未だひっくり返ったままの彼女の顔面を、汚い足でぐにょっと踏んづけたのだから。


「ふぇ…?」

「は…!??」

 あまりにも不意過ぎる異常行動に、シャトーは驚愕した。

 何かの間違いかと思った(どんな間違いだよ)。

 だが、ラディカはシャトーの顔面を踏み続けた。

 かかとで鼻先を押し潰したり、足指を目に突っ込もうとしたり、土踏まずを頬にゾリゾリと擦り付けたり。

 足裏の皮脂と僅かに付いた床のゴミが彼女の顔面に遷る。妙な足臭に鼻が曲がる。

「なんっ…!ちょ…!やめっ…!」

 シャトーは抵抗した。

 しかし止めない。

 決して止めない。

 ラディカは踏む。


 幸運なことに(?)、つい数十秒前まで死体やってたラディカは裸足だった。加えて、足の裏がぷにぷにだった。また、シャトーの頬もぷにぷにだった。おかげでシャトーは、ラディカの踏んづけ自体に物理的な痛みは感じなかった。

 だが、そんな些細なラッキーで、この行動の問題は帳消しにならない。

 何故なら、問題は、肉体の痛みではなく心の痛み、顔を踏みにじられたことではなく、尊厳を踏みにじられたことにあるのだから。

 シャトーは全身で身じろぎして、両手で足を払おうとして、とにかく本格的にラディカに反抗した。だって、いきなりこんなことをされて、心が悲しいから。

 しかし、ラディカは止まらない。

 彼女はむしろ、更に体重をかけ、シャトーをねじ伏せる。激しく抵抗するならば、ガン、ガンと何度も強く踏みつけて、物理的な痛みすら与える。

 シャトーの左目に青あざができる。口内に切り傷ができる。何よりも、鼻から血がブワッと吹き出す。愛嬌のあった可愛い顔が、痛ましくなる。

「なん…、べ…」

「…ぶっ」

 …最後の一踏みが、押し込まれた。

 そうして、完膚なきまでに叩きのめされ、沈黙したシャトーを前に、狂気のラディカは、やっと、悠々と口を開いた。

 対話ではなく、お近づきにではなく、独り言を呟くかのように、ひたすら、一方的に。


「…貴女、見たところシスターのようね?なら知ってるでしょ?フラン家には、貴女達の飼い主である神官長を任命する権限があることを」

「要するに、神官長はフラン家の犬。つまり、犬の犬である貴女は(わたくし)にとって犬以下のド畜生なのよ?それなのに、貴女は、スーパーご主人様である私の許可なく勝手に起き上がり、口を開こうとするのね?本物の畜生なら、今頃、殺処分が決まってたわよ?」


 ラディカは、シャトーの顔面から優雅に足を離した後、その場にしゃがみ込んだ。そして、彼女はシャトーの右耳に細い小指を突っ込んで凄んだ。

 …その行為は、こめかみに銃口を突きつける行為に似て、『私が貴女の命を握っている』と意思表示する目途があった。


「ねぇ、さっきから貴女って不敬よね?何の許しもなく私の尊顔を拝んで、尊名を読んで、尻を見せびらかして、挙句の果てには勝手に身動きを取ろうとして。…私、貴女に不快にさせられてばかりだわ。ねぇ?これってどう考えても不敬よね?」


 意味の分からぬ言い分に、呆然とするシャトー。依然、痛みで左目を開けられず、鼻からは血がだらだら垂れる。それに加えて、小指が遠慮なく耳の奥にねじ込まれる。耳壁が長い爪に引っかかれてズキズキする。これもまた、普通に痛い。

 ラディカはシャトーの耳奥を数度グリグリ抉った後、きゅぽっと指を抜いた。汚れた指先をふぅと吹き、シャトーの修道服の上に耳垢を舞わせた。

 シャトーは、雪と例えるには汚すぎる耳垢の積もりを右目で追った。啞然と。口を半開きにして。

 その、心此処に在らずな様子を見たラディカは、これまた唐突に、何を納得したのか、「なるほど?」と手を打った。


「そうか、そうよね。貴女、犬以下だもんね。なら、不快と不敬の関係なんて知るわけがないわよね。無学ね。無様。でもいいわ。なら、特別に教えてあげる。ちょうど耳の穴かっぽじってあげたんだから、よく聞きなさい」


 そう言うと、ラディカはおもむろにシャトーの首筋に指を這わせ始めた。また、鎖骨や胸元も含め、その辺りを、指先で柔媚に愛撫し始めた。

 …その行為には、飴を与える、という意味があった。


「…あのね、権力者の不快とは、つまるところ周囲の不敬なの。権力者は、自分の権威を正しく守るために周囲に不快感を示す権利がある一方、周囲には、権力者を不快にさせないことで権威を尊重する義務があるの。だから、権力者と周囲の間において、不快と不敬は同義なの」


 つ、つ、と感覚が走る。くすぐったい。

 しかし、そんな程度の低い快楽如きで、シャトーの痛みは無くならない。心は晴れにならない。前を向けない。


「…これ、簡単だけど見逃しがちな理屈よね。でも、凄く大事よ。特に、自分以上の権力者の傍で生きていくにはね。…どう?理解できた?納得できた?少なくとも聞こえはしたでしょ?」


 そう問うたラディカは、シャトーの顔を両手でむんずと掴んだ。そして、人形で遊ぶかの如く、手首のスナップで、彼女を無理やりコクコク頷かせた。その際、口内の切り傷が刺激されて、シャトーは痛みに悶え、顔を歪めた。

 だか、自分の都合の中だけで生きるラディカは、嬉しそうにニコニコして「よくできました」と、シャトーの痛む両頬を、更に撫で回して、更に痛みを与えて、褒めた。そういう、猟奇的なおままごとを勝手にして、勝手に楽しんだ。


「頷けるなんて素敵。しっかり覚えられて偉いわ。ふふっ。今日は畜生が一歩、人間に近づけた記念日ですわ」

「そうだ。記念に、さっきの金言を貴女の腕に彫ってあげますわ。そうすれば、もし忘れても、すぐに思い出せますわよ?どう?嬉しい?嬉しいでしょ?良かったですわね」


 最後に、ラディカは脅すようにニコッと微笑んだ後、撫で回したばかりのシャトーの頬を勢いよくバチンとビンタした。飴の後の鞭。衝撃で、シャトーの鼻から血が再度、ブッと吹き出して、床にビチャビチャっと飛び散った。


「さ、鼻血が出るほど歓喜したなら命令。サッサと私に頭を垂れなさい。同時に、恐怖に歪んだ顔をして、先程の不敬への償いの意と断罪への覚悟を示しなさい。それが今の貴女が為すべきこと。犬以下の貴女は、ただそのためだけに存在すればいいわ」


 ラディカはそれだけ捲し立てた後、スクッと立ち上がってシャトーを見下した。また、彼女は見下したついでに、ヘビースモーカーのおっさんみたいな咳払いをして出てきた、長期間の昏睡が故に喉に溜まっていた大きな痰をシャトーに向かってベッと吐き捨てた。


 ベチョッと、シャトーの頬に不快がまみれた。


「へぁ…」

「え…?」

「…は?」

 シャトーは、聞き取れないほどの小声で反感を漏らした。

「(さっ…)」

「(さっきから何…?この人…?)」

「(アクセル全開にして、何を尊大にくっちゃべってるの…?)」

「(暴力だって…、なんで、そんなに簡単に振るえてしまえるの…?私とラディカ様は、まだ挨拶もしたことないんだよ…?)」

 シャトーは震える指で、自分の頬にかかったラディカの痰に、ディスリスペクトの塊に触れた。人から吐き出されたものなのに異様に冷たい。


 シャトーは、さっきから、ラディカという人間が全く分からなかった。


 …シャトーは、唐突に散々なことをされまくって、悲しくて、悔しかった。怒ってもいた。

 身体以上に、心がズタズタにされていた。

 でも、先に説明した通り、彼女は、誰にでも寄り添い、慮れる、優しい人間だった。

 だから、彼女は、負の感情を爆発させるよりも先に、どうしてラディカがこんなことをするのか、知りたかった。ラディカという人間を、分かりたかった。

 暴力を振るわれた事実だって、侮辱された事実だって。

 理由を知れば、分かれば、自分の内に迸る怒りも収まるかもしれない。そうすれば、ラディカを受け入れられるかもしれない。


 …無駄なことを。

 いじめられっ子が、「僕が悪いのかなぁ?」って本気で考えるか?

 真面目過ぎるよ。


 だが、一縷でも拠り所を見つけたかったシャトーは、青あざで痛い左目を何とか開いて、ラディカに両の目を向けた。どうにかしてラディカに共感しようと、しっかりと、彼女を見た。

 …しかし、いざ見てみると、ラディカは何故か、ふんすと鼻を高くしていた。得意げな顔をしていた。してやったりみたいな顔をしていた。

 …たとえば、悲しみや怨みで歪んだ顔ならば、相手に因縁があるのだろうと理解が出来る。悦に浸っていたのなら、ドSの変態なのだと理解が出来る。

 …それで、鼻を高くしていたって何?得意げな顔って何?

「(その顔…、なに…?)」

「(なんで、人を散々コケにしておいて、そんな顔が出来るの…?)」

「(何…?何なのこの人…?マジで意味分かんない…。どう考えても頭おかしい…。自分勝手で、他人を簡単に傷つけて、無下にして、嘲笑って、馬鹿にして、それで満足げな顔をするなんて、そんなのまるで…」

「(まるで…)」


 …してやったりな顔を見て、何が、思い浮かぶ?


「…!!」


 …連想の末、シャトーは一つの単語を思い出し、ハッとした。


「(そうだ…!そういやそうだった…!)」


 彼女は、あんなにも意味の分からなかった、咀嚼すら不能だった眼前のゲロ女のことを、ラディカのことを、途端にすんなりと理解することが出来た。心の底から、もずくのようにツルンと飲み込めた。


「(復活のインパクトがデカ過ぎて、スッカリ頭から抜けていた…)」

「(この人は、他者に何かを望んで、何かを訴えたくてこんなことをする人じゃなくて、単に自分のことしか考えてなくて、自分にしか興味がないから、こういうことが出来る人だった…!)」

「(そういう、とてつもない権威の上に居る人だった…!)」


 あぁ、なんてこと。

 たった一つの単語が、これほどまでに説明してくれる。

 ラディカの、あの顔の、正体を。


「(本当に、本当にそうなんだ…)」

「(新聞が、世間の噂が言ってた通りだ…!)」

「(この人は、生粋の“悪女”なんだ…!)」


「(誰もが知る呼び名の通り、ラディカ様は『悪女ラディカ』なんだ…!!)」


 …ラディカの最大の特徴、それは、“どうしようもなく悪女であること”だった。


 ラディカの不評は、フラン・ガロ王国内ならほぼ何処でも耳にすることが出来た。彼女の悪名は、一たび轟けば、瞬く間に臣民の悩みの種になっていた。

 ラディカの悪事はアホみたいな数あった。その、ほんの少しだけ紹介すると…。

 『徴税の長たるフラン家』という立場を使って、不作の時でも不景気でも、絶えず血税をポッケナイナイして、散財しまくったとか。

 自分が企画した演芸会(低レベルでクソつまらん)でうっかり居眠りをした下級貴族の男爵を、その家族共々問答無用で銃殺したとか。

 パーティーで自分より目立ったドレスを着た上級貴族の令嬢に腹を立てて、その令嬢の家に言いがかりをつけ、更には政治的な圧力をかけて脅して、最終的に令嬢を無理やり家から絶縁させて、一人路頭に迷わせたとか。

 スラムで近衛に命じて浮浪児をその母親から取り上げて、目の前で無惨に締め殺して見せて、崩折れる母親の姿に大笑いしたとか。

 たまたま見つけた好みの男を脅して、その男の婚約者の前で密に性交をしてみせて遊んだとか。婚約者の娘には代わりに別の適当な男を充てがい、初夜を強制させて孕ませ、恋情をむごく終わらせたとか。

 口煩いお祖父様を流刑にしたとか。弱みを作ってゆするために実のお父様を押し倒して関係を持ったとか。自分より優秀な妹様を手酷く虐めたとか。

 これで氷山の一角。

 (悪女ってより暴君やん)


 (…尤も、これらのうち、一部は報道規制が敷かれたために報じられず、処刑が決まった後に、束縛から解放された新聞社が発奮して世に放って、ようやく世間に知れ渡った事実の数々なのだが…)


 しかしまぁ、よくもここまでしでかしてくれる。今に列挙した悪事の数々と比較すれば、先程のシャトーへの対応なんて、まだ可愛いもんじゃないか。

 あれで。あの凄まじいほどの悪逆無道、傍若無人で。

 よくもまぁ、こんなクソ野郎が公開処刑前まで王国の頂点に君臨できていたものだ。君臨させる国民が馬鹿なのか?いや、ラディカや彼女の母以前のフラン家は、そこまで酷くはなかった。偏に、これは世襲制が為せる愚であった。

 …さて、そんなラディカスが、共感も同情もしようがないクズが、只今に「頭を垂れろ」と命令している。果たしてあなたなら、その通りにするか?ちなみに私(作者)なら絶対にそうしない。こんなチンカス野郎、股間を蹴り飛ばしてきた時点で首根っこ掴まえて、馬乗りになって、その美貌が豚のニキビよりもグロテスクに潰れるまで顔面を殴る。もう二度と舐めた口を利けなくなるよう、歯を折るなり舌を千切るなり、あの手この手と全力を尽くす。たとえ法に触れたとしても、それで悪の一株が摘めると言うなら安いもんじゃないか。裁判員も「よくやった」と私を褒めて無罪を提言してくれるはずだ。

 …ここまでのイキり心理は、全て私ならという前提で語ったわけだが、これは、こと王国民の心理にまことに近かった。権力にモノを言わせて好き放題するラディカに対する、“下民たち”の当然の鬱憤を端的に表していた。むしろ、実際にラディカの暴虐に苦しめられてきた彼らならば、私以上に恐ろしいことを幾つも考えついていたかもしれない。

 辺境貧乏闇シスター、シャトーも、一端にその心理をよく理解していた。彼女も、もれなく王国民で、“下民”なのだ。…もっとも、彼女は所在が情報の遮断された超ド辺境だったので、シテで猛威を振るうラディカからは珍しく隔絶されていた。しかし、彼女はその分、よく新聞を読み、雑誌を読み、人々の噂話を真摯に聞いていた。世情に敏感な人間として暮らしていた。だから、彼女はラディカが如何に下劣で下衆で外道なのか、生ラディカと接触する以前から、耳年増的によく知っていた。

 それに加えて、彼女は只今に“下民”として無下にされる体験と、“悪女”のラディカに踏みにじられる体験を、肌で痛感した。彼女は、ラディカが噂通りのクソゴミカス野郎だということを経験をもって理解した。そういう意味では、重税や悪評などの間接的な被害で怒り狂っていた王国民よりも、ラディカの被害者であった。

 だから、シャトーもまた、当然の帰結として、私や、他の王国民と同等のことを考えていた…。いや失礼、彼女は心優しさが性分の温和な人間なので、そこまで過激なことは考えていなかったかもしれない。…しかし、少なくともラディカに反吐は出ていたはずだ。消臭スプレーばりに唾棄して、「何やコイツ殺すぞ」とは思っていたはずだ。そうだ。そうに違いない。そうでなきゃおかしい。だって、ラディカは悪女だから。見まごうことなきカスだから。主人公にはまるで相応しくない、真正のマジキチだから。


 …しかしながら、この物語において最も重要な登場人物の一人として抜擢されるシャトー・ブリアンとは、私や、王国民や、もしかしたら、あなたまでもが考えるような、“至極当然な”反応を取る平凡な人間でない。

 彼女は、何者でもない私たちとは違い、特別な何かを持っている。


 特別な何か、そう、彼女は歪であった。それは、彼女の出生や育ち、保有する突出した天賦の才を見てもそうであったが、何よりも、“お義父さんへの愛”という異形の想いを見るに、そうであった。

 彼女には思考の癖があった。

 彼女は、他の全てに対しては、特に問題なく非常に常識的であるにも関わらず、こと、ラディカやフラン家のこと考えると、どうも脳に正常な判断を阻害する、“大好きなお義父さんの言葉”というノイズを響かせた。


 …それは、とても心地良いノイズであった。それは、実のところ極めて一般人であるはずの彼女の正常な思考を全て狂わせて、彼女の人生を過ちへと導く、恐るべき力を有していた。


『…いいか?私の可愛いシャトーよ。世間は御方について穿ったことばかり言うがな、あんなもんは全部嘘だ。本当のラディカ様は、きっと素晴らしい方だ。あの方もまた、レジティ様同様、神に選ばれし存在なのだ。素晴らしい方でなければ、道理が叶わんってもんだ』


『だから、お前は誰に何と言われようとも、ラディカ様を見限ったり、裏切ったりしちゃいかんよ。…なにせ、ラディカ様は、…フランの姉妹は、この国の真の支配者で、人々を偽りの理から解放してくれる救世主様なんだからな』


 …それは、シャトーが自らの意志で自身に科した、至って心理的で、物理的には契約書一枚、権利書一枚よりも軽い枷による束縛、この世で最も愛する人との思い出。


 …しかし、だからこそ、彼女は、その重過ぎる自縛によって、本当なら反感と反抗で彩るべきだった反応を、全く真逆なものに変更した。

 シャトーは、ズーッと勢いよく鼻をすすり、鼻の下を袖でゴシゴシ拭った後、速やかに起き上がった。

 脱げたヴェール(ウィンプル)をかぶり直して、ブーツで床をカツンと鳴らした。

 そして、彼女は長い金髪とスリットスカートをバサリと翻しながら、勢いよく片膝をつき、脊柱のS字をCの字に変えて、これ以上無く頭を垂れた。


 平伏。


 彼女は、いたってラディカの言う通りにした。

 素晴らしく“お義父さんへの愛”という責務を全うした。


 …ただ、重大な問題なのは、人間なんて所詮、どこまでいっても自分>他人で、彼女もまた、例に漏れないということ。この真理の妥当性は、彼女が自己決定に基づいて、自分の都合でラディカのことを良く思っていないのと同じように、お義父さんのこともまた、自己決定に基づき、自分の都合で愛していることが素晴らしく物語っている。人は、己の下に人を蔑み、又、立てるのだ。

 故に、只今の彼女とは、別に、お義父さんの意志を自己より超越させて、無私になったのではなく、あくまで、突貫的に自分を押し殺して、お義父さんの意志を尊重しようと頑張っているだけであった。

 鼻血は拭えど、傷自体や、顔中にこびりついた血の跡は、その場しのぎの袖程度では決して落とせないように、たかが、他者に促されての自助努力では、受けた痛み、怒り、悲しみの怨念は消せない。

 現に、彼女は、垂れた頭に反して、ギリギリと、下唇を噛んでいる。吐き出したくなる反吐を、一滴たりとも漏らさないように。

 したがって、只今に彼女が見せたラディカへの命令遵守とは、何とかひり出せた、形だけの態度でしかなく…、そんな彼女に、忠誠心なんてものが有るはず無かった。

 彼女は、心の底からぺらっぺらであった。


「…ふぅん?気持ちいいくらい私にひれ伏してくれるわね?…股間を蹴っ飛ばして、踏んづけて、散々酷いことを言ってやったのに?」

「…それに、下唇を噛んで、私への恐怖に怯え尽くしている。…ふむ。なるほど?貴女、一応は自分の立場を分かってるのね?」

 一方でラディカは、客観的には命令通りに“頂点に立つ私に対する至極当然な反応”を示したシャトーを見られて、結構機嫌を取り戻していた。得たかった反応を得られて、彼女はむふふと喜んだ。彼女は馬鹿で、単純な性格をしていた。

 …ただ、問題なのは、シャトーの空虚な忠誠に対する、彼女の高飛車な反応には、もはや何の権威的裏付けもなかったこと。

 そう、これも重大な問題なのだが、別に身体と意識が復活したからって、彼女の持ち得たバックグラウンドまでもが復活するわけはないのだ。事実、世の中的にはラディカは至って過去の人で、彼女の権威は失墜したどころか、王国の負の歴史として消えてなくなっている。だから、只今に彼女が当たり前のように行う“悪女的言動”とは、すなわち“無”であり、彼女は、今、形だけの悪女なのだ。

 にも関わらず、彼女は自分が権力者であり、悪女であると信じて疑わない。それもまた、世襲制の愚であり、つまり、彼女の育った環境故の歪みであった。彼女は、幾らかの時分から、自分が権力者であり悪女である世界以外に一切触れること無く、自己を形成してきたため、“それ以外の自分”という可能性について、まるで想像する力を有していなかった。そういう歪みが、彼女にはあった。それは強固で、荒療治以外では簡単に引き剥がせない、ある種の呪いのようなものであった。

 …“お母様”という悪例に、常に晒され、矯正され続けた結果の末路であり、頑固にこびりついた垢であった。

 彼女は、がっちがちに凝り固まっていた。


 …まとめると、この空間には、虚勢と虚栄しかなかった。


 二人は、歪んでいて、大きな問題を抱えていた。


 本章では、そんな二人が、互いを傷つけ合いながら、傷を舐め合いながら、少しの間、物語を紡ぐのだ。


 あなたへの娯楽を提供するのだ。

 当人等からしたら笑い事じゃないのに、あなたはこれを楽しむのだ。


 小説とは、なんと残酷なのだろう?


 しかし、これを面白がって書く私も共犯者だから、安心してほしい。

 どうぞ、ご一緒に、罪深くあろうじゃないか。


 他人が懸命に歩む生を、刹那的に消費しようじゃないか。


 (でも私、メタフィクションは大嫌いネ)


「…犬以下、と言ったことは訂正するわ。貴女、名実共に犬なようね?」

「私、従順なのは好きよ」

 シャトーの行動に満足したラディカは、彼女に、気を楽にするよう命じた後、背後にあるベッドにドカッと座った。そして、彼女は長い脚を組んで、枕に肘をついて、シャトーのことを面白そうにじっくり眺めた。

 その後、ラディカはシャトーに向けて、嬉々として言い放った。

「存外だわ。貴女のこと、少し気に入っちゃった。ふふっ」

「だから、貴女には特別に、私に汚い視線を向ける権利を与えますわ」

 ラディカは上半身を起こし、組んだ脚を軽く解いた後、美麗な右脚を少しだけ伸ばした。そして、眼前に跪くシャトーの頭頂部に素足をぺたんとのせた。同時に、シャトーのヴェールがへにょんと潰れた。

 その後、ラディカはまた、ふふっと笑いながら、脚を前後させ、足裏で、犬の頭をうりうりと撫でてやった。

 どうやら、ラディカがシャトーを気に入っているという文言は本当のようだった。

「…ん?どう?誉れ?」

 ラディカはシャトーを顎でしゃくって、回答を促した。

「(…発言、していいんだよね?)」

 シャトーは恐る恐る口を開いた。

「えと…、誉れ…であることは理解しますが…。汚い視線…ですか…?」

 彼女は目をパチパチさせながら尋ねた。

「(…私の視線って汚いんか?)」

 それは、彼女の素直な疑問であった。

「そ。だってほら、私って美しいから?世の私以下共って、誰も彼もが私を一目見ただけで欲情して、下卑た目で見つめて来ますのよ。男はもちろん、女も、子供ですらね。だから、私に向けられる視線は全部が全部、汚いの」

「貴女だって例外じゃないわ?きっと、私のことをちゃんと一目したら、釘付けになって、恍惚として、目で私のことを犯し始めるんじゃないかしら?」

 ラディカは自信満々にそう言った。

 実際、ラディカの美貌は圧倒的で、そのくらいの高慢を言っても何の問題もなかった。

 今だって、ラディカは碌な格好をしていないにも関わらず、どんな絵画や大自然よりも美しかった。


 …『堕ちた権威』を表すよう、処刑時に着せられた、死装束である庶民的チュニック(あえての古着で、初めっからでろでろにヨレている)。

 そのダサいスカートからでも威風堂々と伸びる、肉付きの良い、艶めかしい脚。

 天界から糸で吊したかの如くピンと張った背。女性的魅惑としての身体の豊満、その圧倒的充足(…死装束なのと、介抱の関係で、ラディカ様ってば今絶賛“つけてないし、はいてない”んだけど、大丈夫かなぁ… byシャトー)。

 あまりにも純粋で、透き通っていて、瑞瑞しい、白玉のような肌。…正確には、黄や赤みが混じっているから、白っていうより、物凄い色白な淡黄の肌。

 死化粧もしていないのに(首から上、無かったから…)艶やかな唇、整った眉。針金を通したようにシャープな鼻筋。

 …何より目を引くのは、人類の住まう大陸において、唯一無二の銀髪と碧い目。

 気高く垂れた銀髪は、ラディカの膝下にまで、どんな壮麗な滝よりも雄大に下りている。決して結わえず、いたってストレートなのが彼女における髪の美しさに対する自信を感じさせる。

 長いまつげの奥にある碧い目は、秘境の湖よりも蒼く、空や海の青から得られる感動ですら太刀打ちできない程の碧を誇っている。別に見開かれているわけでもないのに、凄まじい眼力を感じる。


 “あまりにも人間離れした美貌”


 (ただし、それは、王国建国以来、常に“選ぶ立場”であったフラン家の結晶と言え、すなわち、“奇形”とも言えた)


「さ、面を上げて。私の姿をじっくり眺めたら、犬らしく興奮して、腰をカクカク揺らしなさい。嗤ってあげるから」

「はぁ…まぁ…」

 …シャトーは、ラディカの言い分が腑に落ちなかったが、とりあえず命令を承知し、顔を上げた。そして、さっきの長ったらしい説明にある全てを、しっかりと眼に入れた。

「ふふん。どう?悦に浸った?」

 ラディカは、茫然と自分を眺めるシャトーに勝ち誇った顔で問うた。ついでに彼女は、とどめだと言わんばかりに、肉感がエロティックな美脚を再度組んで、あでやかな横髪の少しを、プルンとした唇で軽く咥えて、妖美な女性のポーズを取ってみせた(うふーんあはーん)。

「はぁ…、えっ…?うーん…」

 しかし、肝心のシャトーは生返事をした。

 彼女は、只今にラディカをじっくりと目視したにも関わらず(ついでに、とどめの妖美なポーズ(笑)を食らったにも関わらず)、“ラディカの美貌”という情欲を唆る話題に対し、どこかピンときていないようであった。 

 ラディカの口元から銀髪がテロテロとこぼれた。

「えっ…。なによ、その反応…。私のこと、ちゃんと見えてるわよね…?それとも貴女、もしかして全盲…?」

 ラディカは本気で狼狽えた。彼女はベッドに軽くもたれていた体勢から前傾姿勢になり、シャトーの顔を両手に取って、鏡を覗き込むように、彼女の眼をジロジロと眺めた。その行為には、次いでに、『私のご尊顔を脳裏に焼き付けて、絶対に発情させたる』という意図もあった。事実、ラディカはシャトーの顔面に対し自身の顔面を、キス寸前と言えるほどの超至近距離まで近づけていた。加えて、恥ずかしく照れてしまいそうなほどに目を合わせていた。さらりとした前髪を彼女の顔皮に垂らしていた。また、前傾姿勢になったことにより弛んだヨレヨレチュニックの胸元から、豊かな上乳をあられもなく露出させていた。乳頭さえも微かに見せていた。

「いやぁ…、ははは…」

 しかし、何をどうされようとも、シャトーはどこか申し訳無さそうに苦笑いをするだけだった。

「…なんで?なんで私に魅了されないの?貴女ってもしかして、魔族か何かなの?」

「ねぇ、ねぇ、なんで?なんでなの?おかしい?おかしいわよ?ねぇ?ねぇ?」

「えーっと…、ははははは…」

 この上なく当惑するラディカを余所に、シャトーはやり場がなさそうにポリポリと頬を掻いた。

「(ぶっちゃけ、ラディカ様のあられもないお姿なんて、今更なんだよなぁ…)」

 …それは、シャトーだけの有利であった。

 彼女は、ラディカの遺体を清める際、また、再生したラディカの介抱をする際に、嫌というほどラディカの生まれたままの姿を見ていた。隅から隅、秘部という秘部。それこそ、ラディカ本人ですら見たことないであろう、隙間という隙間、奥の奥まで。彼女は飽きるほど見まくっていた。なんならベトベト触りまくっていた(仕事でね?)。

 そのせいで、シャトーは“ラディカの美貌”という甘美な神経毒に対し、完全なる耐性を有していた。だから、興奮や発情なんて、するわけがなかった。


 …ただ、これはシャトーにとって、明確にデメリットであった。

 何故なら、そのせいで、彼女はラディカと付き合う際に、ラディカの悪女的部分を眼福で一切中和できなくなってしまったのだから。

 ラディカという人間を峻別し、あまつさえ、仲を紡ごうとするにあたって、あまりにも絶望的な、悪女的内面しか参照できなくなってしまったのだから。


 Q.性格の悪い美人と、性格の良いブス、選ぶならどっち?

 A.え~、どっちかなぁ~?

 Q.ただし、あなたは盲人であるとする。

 A.性格の良いブス(即答)


 …いよいよシャトーが自分に悦ばないと理解したラディカは、手に取っていた彼女の顔面を壁に投げつけた後、再びベッドに腰掛け、ぶすっと膨れ上がった。

 ただし、厳密に言えば、彼女は、自分の美貌が通じないシャトーに腹が立ったのではなく、“自分の思いどおりにならないこの現状そのもの”に腹が立っていた。

 ラディカは、後頭部を壁にぶつけて痛がるシャトーに対し、それまでフツフツと溜め込んでいた現状への不満を、これでもかとぶつけ始めた。

「…それで?美的センス0のド糞野郎?改めて聞くけど、なによこの豚小屋。一体全体、なんで私はこんな所で寝かされてましたの?」

 ラディカは、ベッドと机、椅子、シャトーと自分の5つだけでギュウギュウになってしまう、狭っ苦しい部屋を指して問うた。

「というかココどこよ。フランの禁裏ではないわよね?だって、ウチにこんなみすぼらしい物置以下の便所以下なんて、備わっていなかったものね?シテであることすら怪しいわ。だってこんな低レベルな内装、シテじゃ見たことないんだもの」

 …貧困なれども、清掃とシーツ替えを欠かさず行って清潔にしている、今朝だってしっかりと掃除をしてピカピカにした、シャトーなりに客を最大限もてなそうと整えられた客室を指して、ラディカは問うた。

「それに、この下民臭いドレスはなに?農民ごっこの衣装?着ているだけで肌がチクチクして気分が悪いわ。なんの罰ゲームでこんなの着なくちゃいけないのよ。これならいっそ、裸でいたほうがマシかもしれませんわ」

 続けて、ラディカは自分の身体にまとわりつく忌々しいチュニックをバサバサ煽ぎながら問うた。

 …定期的に丁寧に手洗いをして、少しでもほつれたり、穴が開いていたら、つぶさに補修している、元々の状態とシャトーの経済事情を鑑みれば素晴らしい程に綺麗に保たれているチュニックを指して問うた。

「そんでもって、貴女誰よ。貴女みたいな見窄らしいちんちくりんが、どうして私の隣にいるのよ。もしかして従者希望?なら不採用よ?チビが、犬で満足してなさいよ」

 最後にラディカは、ほつれだらけ、パッチだらけ、汚れだらけのボロボロ修道服を身にまとうシャトーを指差して、どころか、指先で彼女のおでこを刺して、肉に爪をグリグリ食い込ませながら問うた。

 名前を聞く、素性を尋ねるというより、本当に自分の犬か否かを判別したいだけのテンションで、あからさまに他者への歩み寄りの欠片もない姿勢で問うた。

「えっと…」

 黙って聞いていたシャトーは困惑した。

「(これ、素直に本当のことを話してもいいの…?)」

 シャトーは連続して放たれた1ミクロンも容赦のない質問の数々に、どう答えるべきか戸惑った。同時に、頭の片隅では、ラディカの何の思慮も配慮もない言葉の数々に「やっぱり、ラディカ様って“そういう人”なんだなぁ…」と傷ついて、心底ガッカリしていた。

「えへ、えへへへ…、うーん…とですね、えー…」

 ただ、それでもシャトーは、お義父さんへの想いに従い、この期に及んでも、精一杯にラディカの境遇に同情し、出来る限り彼女の精神状態を害さない返答をしようと頭を回した。

 特に、公開処刑については、もしかしたら、ラディカの中でトラウマになってるかもしれないと、触れるかどうかさえ悩んだ。

 そうして、彼女は、言葉を一つずつ、慎重に選んで、ゆっくりと話そうとした。笑顔を作って、見目も不快にならないように気を配って。

 …だが、しかし、まぁ、そんなシャトーの繊細な心遣いの数々が、愚か者のラディカに通じるわけがなかった。

「なに?何を迷っているの?私が問うてるのよ?1ナノ秒以内に答えなさいよ」

「…あぁ?もしかして、貴女ってば犬だから、人間の言葉が理解できなかったの?それとも、私の極上の美声が麗し過ぎて、絶頂しちゃって、言葉を聞き逃しちゃった?なら、今度は耳元で囁いてあげましょうか?…近衛に切り落とさせた、貴女の耳元にね?」

 …シャトーが親身になってラディカのことを慮っているにも関わらず、このボケはこんな言い草を横からグチグチと挟んだのだ。

 シャトーは当然、イライラした。無理に作った笑顔は消え、眉間にシワが寄った。俯いた。拳を握った。舌打ちしそうになった。

「(ホント、何なのこの人…。なんでこんなに言いたい放題なの…)」

 クソラディカが。現状、存在しない権威とかいう糠に釘打ってるだけのおもしろDIY女子でしかないくせに。

「(それでも、ラディカ様は“ラディカ様”として見なきゃいけないから、『我慢しろ』って何度も自分に言い聞かせて、何とかへりくだってるのに…)」

「(…こっちは、こんなにも真剣にラディカ様のことを考えてるのに…。色んな鬱憤を我慢して、何とか笑顔で接してるのに…)」

「(ちょっとくらい、こっちの事情も考えてよ…)」

 シャトーは心の奥から、ラディカへの隠しきれない苛立ちと嫌悪感を沸々と沸かしつつあった。


 …実のところ、シャトーの思考を歪めるノイズは長続きしない。

 それは偏に、彼女が非常に頭脳明晰で、どんな時でも自分を客観視できる冷静さと、厳格な優先順位を有しているからであった。彼女は、その類稀なる能力のおかげで、どれだけの熱も、少しすれば理路整然とした思考に曝し、冷ましてしまえるのであった。彼女は極めて“理知的”であった。指揮官とかに向いていた。

 …だから、彼女は、死者の復活という不可解でも、怒りや悲しみでも、…大好きなお義父さんへの想いという宝物でさえも、論理と真理の波で強引に押し流し、無理くり消し去ってしまえた。…本人の否応なしに。どんな大切な想いであろうと、少しでも非合理的であれば、簡単にあしらうことが出来てしまえた。


 それが、彼女にとって、長年の苦痛であった。


 彼女は、冷血漢や、氷、えげつない、すげーやな奴にはなりたくなかった。

 何故なら、彼女は類まれなる知能と同時に、途方も無い心優しさを有していたから(もう何遍も言ってる)。

 彼女は、恐ろしく共感能力が高く、感傷的で、感情的で、だからこそ、人のことを想い、人の想いを大切にし、人の幸せのために自分を使おうと懸命に行動できる、人格者であった。また、彼女は、その心の清さから性善説論者であった。…ただ、これは逆に、彼女が他者に自分の努力を踏みにじられた時、行動を無下にされた時に感じる心痛が甚大であることも意味していた(…過剰に希望を持って尽す分、裏切られた反動から来る絶望が恐ろしく莫大なのだ)。

 しかし、彼女は、この不安定な性質が、むしろ善だと思っていた。合理性なんかと比べれば、非合理に沈みたかった。

 …だが、先に示した性質の一つのせいで、やはりそんなことは出来るハズが無かった。


 『シャトー・ブリアン』


 状況を冷静かつ的確に分析し、自分の立場と為すべき行動を即座に理解する、極めて合理的な理知を持つ。

 一方で、他者の想いに衝動的になれる。自分の想いを拗らせて、他者に過度な期待さえをしてしまう、極めて非合理的な善性を持つ。

 熱しやすく、冷めやすい。

 感情的だが、自分を殺せる。

 そんなアンビバレント、アンバランスさを持つ人物。


 ラディカが、“どうしようもない悪女”であるならば、シャトーは、“理知的な善人”であった。


 …であるならば、彼女はきっと、それに従った未来を歩む。もしくは、それに歯向かった末路を迎える。

 …まぁ、そんな大層なことが描かれるのは、もうちょっとだけ後の話。

 今は、違う。

 今は違って、ラディカにムカついたって話。シャトーの心の底に、鬱憤を着実に溜めていく話。


 序章。

 物語の下地作り。

 悲劇の始まり。


 …さて、話を戻すが、シャトーは、理知な善人であるからこそ、ピーキーではなく、辛抱強かった。

 己の優しさに、限界まで苦しめてしまえる性質を有していた。

 だからこそ、当座の彼女は、グチグチとうぜぇラディカに対し、ただ単にイラッとしただけに終わった。ブチ切れちゃえばいいのに。もう嫌だとか、こんな人と一緒にいたくないとか、そういう感想は抱いても、全て封殺した。

 …しかし、そうは言っても、苛立ったことは確かなので、彼女は「もういいや全部言っちゃえ」と、ラディカに対しヤケクソになることにした。ラディカみたいな図々しい奴にトラウマなんてあるわけねぇだろガハハ。彼女はそう考えた。

 シャトーは、ぶっきらぼうに口を開いた。

「あー…、それじゃあ遠慮なく話させてもらいますけど、ラディカ様は覚えていますか?ちょうど四ヶ月前に行われた、“ラディカ様の公開処刑”を…」

「…うん。は?…は?は?は?は?」

……


 …シャトーはシテでの公開処刑のことから埋葬のことまで、順に、マジでオブラートの1枚も無しに、無遠慮に説明した。加えて、現状のイレギュラーである、”ラディカの復活”に関しても、自分の知る限りの情報を添付して、出来る限り詳しく、全力を尽くして説明した。

 …若干、意趣返しの意も込めて。

……


 …15分後。


「…ここからは少し、私論が混じる話になりますが、根本的に、特定の魔術により射出される魔力が捉えうる自然法則は単一です。また、魔力は自然法則を歪める際に同位同座標の別次元に波を生じさせ、干渉対象の自然の波は勿論、それ以外の自分より弱い波も全てかき消します。同程度の波力の場合は互いに打ち消し合います。まぁ、これが故に位階の低い魔術師は、より高位の魔術師には手も足も出ず、同格の魔術師同士の戦いは内蔵する魔力量でしか決着がつかないわけで、これは、魔術の位階がその優劣により分類されていることからも明らかで…。尤も、匣天開門(ぎょうてんかいもん)をした場合は、術者に任意数の層が追加されるので、魔力的な事情が変わってくるのですけど、でも、結局のところ干渉したいのは同じ、自然の波の存在する系だから、一部例外は発生しますが、基本的にはこの超越が在ろうとも結果は無い場合と同じで、ただ、波によるカオスに干渉不可効が付与されるだけで…。あ、話が逸れました。ごめんなさい。…要するに、だから、どの位階の魔術であろうとも、短期間に発動できる回復魔術では、どう足掻こうと肉体の再生か、魂の呼び戻しか、意識の再覚醒のいずれかしか行えません。異なる波は、決して同場所に重複しませんから。そこから鑑みるに、外層と内層の回復が両立しているラディカ様の復活は、何らかの魔術的な効果ではなく、『建国記』にある、フランの祖たる姉妹が得た祝福…、つまり、魔術ではない、より上位の力、そう、例えば自然の外にある別存か、自然とは同一だけど、一方で、匣天開門のように、包括する大いなる何かに干渉する力が付与された故の結果であると考えるべきで…。でも、この点は完全に私の予想でしかないから確証は無くて…、でも、『オムファロス』の指摘と、“姉であるラディカ様”という、フラン家の掟における”イレギュラー”を考慮すれば、やっぱり復活は祝福の力だと予想するしかなくて…。でも、祝福という語は、多分、神と同じく虚構で、唯名論的で、その実体はきっと、もっと体系的に説明が可能なはずで…」

「…あの、ラディカ様?話聞いてます?」

「ぶぇ…、え…?」

……


 …30分後。


「ふぅ。…ということで、以上が、ラディカ様が只今にココに存在している理由です。…あ、ちなみに、私は無認可シスターのシャトー・ブリアンで、ココは、ラディカ様のお察しの通り、シテではなく、フラン・ガロ王国、シタニア地方南部、バラルダ公領の僻地に細々と建つガロの小教会です。…部屋が貧相なこと、ラディカ様が相応しいお召し物を着用されていないことについては、本当にごめんなさい。全て私の不徳の致すところ、…というか、懐の致すところ、問題を放置せざるを得なかったのです」

「…へへへ、どうでしょう?ご理解いただけましたか?お役に立てましたか?」

 全ての説明を終えたシャトーは、満足げな顔をして(若干、煽るようにして)ラディカに微笑んだ。

 対し。

「寝る…」

 怒涛の情報の濁流により、40分前から脳をオーバーヒートさせ、目をぐるぐるさせていたラディカは、説明が終わったと同時に、焼肉中のホットプレートみたいに煙がもうもう出ている頭を、力無くベッドの上にドテッと自由落下させた。次いで、彼女は手探りで見つけた枕を、腕の中にきゅぅと抱えた。そして、少しの間、弱々しく唸った後、彼女は目覚める前のようにピクリとも動かなくなった。

「…え?あれ…?ラディカ様…?」

 シャトーは平伏の姿勢から立ち上がった後、長時間の膝立ちで痺れた足をガクガクさせながら、ご主人様の尊顔を確認した。

「あ…」

「本当に寝てる…」

 そこには、涙目になりながら眠りこけているラディカがいた。意識を失って、ようやく性格の悪い美人から只の美人に進化したラディカがいた。

 いたいけな、あどけない寝顔。ふて寝していて、すねた子供っぽい。すーすーと、か細い寝息を立てている。無垢な赤ちゃんのようでもある、

 とても、先ほどまで自己中に罵詈雑言ばかり叫んでいた人と同じとは思えない。

「うーん…」

 シャトーは、ベッドからぶらついたラディカの両脚を持ち上げ、ベッドに横たわらせた後、彼女にそっと掛け布団をかけた。ついでに、かわいそうなラディカが安心して眠れるように、彼女の背をポンポンと数回叩いた。

「ラディカ様…、途中から話聞いてなかったな…」

「ちょっと、やりすぎたかな…?」

「いや…」

「ラディカ様、そもそも、私の話に理解が追いついていないって感じだったな…。(嫌がらせでした)魔術の話以外は、結構平易に話したのに…」

「…ラディカ様って、もしかして」

「ちょっと…、アホなのかな…」

 シャトーは首をブンブン横に振った。

「いや、アホじゃない。アホじゃない。アホなんじゃなくて、ラディカ様は…」


 覚えていない。


 シャトーの小難し過ぎる魔術の話はともかく、ラディカが自身の処刑について1ミクロンもピンとこなかったのは、偏に何も記憶にないから。

 第一王子の強権の発動により拘束されたことも、レジティにより今までの悪事を全て暴露され、裁判で満場一致の死刑を言い渡されたことも、独房の中で刻々と近づく死に怯え泣いていたことも、目の前で父と母の首が吹っ飛んだことも、…そして、自分も処刑されて死んだことも、何もかも覚えていない。だからピンとこない。

 …ただ、覚えていないという事実は、『忘れていた』という理屈で擬似的に納得ができる。すると、忘却は、次のステップとして、失った記憶を求める旅のキッカケを生み出す。こう考えれば、記憶の欠如は、実際問題、さほど大きなトラブルにはならない。

 …だが、それは叶わない。ラディカの場合は事情が異なる。彼女の前には、そもそも記憶喪失を認めることが出来ない、ある致命的な問題が立ちはだかっている。その問題とは、端的に言えば…


 ラディカは“現に生きている”。


 彼女の只今そのものが、公開処刑という歴史的事実に反している。


 《事実命題:四ヶ月と三週間前に公開処刑され命を失った悪女Rは、本日、寝起きと同時にシスターCの股間に襲い掛かった。》


「なら、無理はないかぁ。私だって同じ立場なら、自分が処刑されたなんて聞かされても、にわかには信じられないし…」

「でも、ラディカ様が“もうこの世にはいない”ってのは、紛れもない事実なんだよなぁ…」

 シャトーは、今に眼の前に在る、生きたラディカの可愛らしい寝顔を見つめて深く考えた。

「(…故人のラディカ様は、これから、フラン家の長女じゃなくて、ただの女の子として生きていかなきゃならないんだよね…。いや、レジティ様とコンタクトが取れれば、ラディカ様はフラン家に返り咲けるのかな…?でも、御方がそう簡単にラディカ様をお許しになるかな…?今までされてきた仕打ちを考えれば、もう二度と顔も見たくないんじゃないかな…?大恩人のレジティ様に報いるならば、私はラディカ様をフラン家に返すべきではないのか…?でも、それではラディカ様の意思の自由を侵害することになるから良くないのか…?)」

「うーん…」

 シャトーはベッド横に置かれた、付き添い用の椅子(机の前から引っ張ってきた)に腰を下ろした。彼女はリラックスすべく、深く背もたれた。…だが、彼女はそれ以上に深くため息をついた。

「こういう時って、どうしたらいいんだろ…」

「記憶を思い出してくれるのが、ベストなのは確かなんだけど…」

「思い出してくれなくても、理解さえ示してくれれば、それで良いんだけどなぁ…」

「…歩み寄ってくれるかなぁ」

「どうだろう…」

「でも…、説明はしたし…」

「うん…、説明はしたから…」

「とりあえず、次に起きたラディカ様には、納得はしてくれなくても、現状を正しく認識してさえくれたら、それで満足かな…」

 …この人に限っては、そんな期待すら抱くべきじゃないのかな。

 …いや、そんな悪意のある思考をするのはやめよう。

 ラディカ様だって、色々と頑張られてるはずだ。私の目には見えないだけで、現実に向き合おうと苦心されてるはずだ。

 …それを言うなら、私だって頑張ってるんだけどな。酷い現実に、必死に向き合ってるんだけどな…。

 いや、自分自分って主張するのは良くないか…。

 はぁ…。

「ふわ…」

 色々考えて疲れた。

「ラディカ様が起きるまで、私も寝よ…」


 そのまま、シャトーは現状を放棄するように、これから訪れる面倒を未来の自分に押し付けるように、今を見る目をゆっくりと閉じた。

………

……


「…思ったんだけど」

「つまり、処刑ってのはレジティのいたずらで、貴女は、妹がせめてもの情けで私につけた、新人の従者ってことなのよね?」

「(…やっぱり、ちょっとアホなんだろうな。この人)」

【人物紹介】


『ラディカ』

 目覚め自体は良いけど、あえて二度寝をするタイプ。布団から出たくない。


『シャトー』

 寝起き30分は本当に起きてるのか疑わしいくらい寝ぼけるタイプ。でも、意地でも時間には起きる。



【説明し忘れていたこと】

(…フラン・ガロ王国は、北部のフラン地方と南部のシタニア地方で二分割されます。このうち、首都のシテはフラン地方の北部に位置します。このフランス雑いですね。きっと作り手は頭が悪いんだ)

(…女性の髪型について。王国、ひいては大陸では、家父長制に基づき、労働に不向きなロングヘアーが“女性らしさ”、役割に合致した愛らしさとされています。社会派~。また、髪の長さ×状態の良さ=女性の美しさの一因と認識されています。だから、健気なシャトーの綺麗なロング金髪や、ゲロ野郎の無駄に長ぇ銀髪の美は、彼女たちにとっての自慢なんですね)

(…あと、シャトーの顔面にできた傷は、うたた寝からの起床後、回復魔術で治しました。いや書けよ)

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