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謎解きは美術品の前で  作者: てるてる坊主
第2章

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13 ルークの失踪 後編

わたしはこのままルークを連れて帰りたかった。

帰国する時はルークを残して帰ることに後ろ髪がひかれる。



ルークの家族が他国にいる上、ヴェネーノ長官が手配したのだから人質にされる心配はない。

ルークが亡命できればユザール国も痛手になる。

我が国としてもルークから機密情報を漏らされたら脅威だ。

ユザール国から亡命させるのに異論はなかった。


「フレイア先輩、色々ありがとうございます。本当に世話の焼ける子ですよね」

リラは怒りながらも嬉しそうだ。

ルークが生きていたと分かって一番喜んでいたからな。


「でもルークを脱出させようと思うと大変だぞ。別邸といえど敵地も同然だし、何よりルークを脱出させたのを言いがかりに戦争の引き金になりかねない」

ダニエルもいろいろ想定してくれているが、なかなかいい案が浮かばない。


「そうだね。それに一番の伏兵はジーナ嬢だ。ルークが居なくなるのを不安がっているせいで、四六時中べったりついてるし」

ルークが一人になった所を連れ出すのは至難の業だ。


「しかもジーナ嬢は病弱だから夜会にも出かけないし、外出先でルークを連れ出すのはまず無理だ」

幽閉同然の人間を連れ去ろうと思うと、かなり難易度が高いというのが分かった。


三人でジーナ嬢攻略戦を思案する。

ダニエルはいくつか作戦を考えた。

亡命できるようルートの確認などを念入りに確認した。


わたしはルークの護衛の当番に行かないといけないので、準備はリラとダニエルに任せることにした。


***


わたしはルークへ、この作戦の伝言役となった。

ルークがどこまで協力してくれるかが問題だ。

ルークの護衛は二週間に一回交代する。

そのタイミングでダニエルの案を伝えた。


ジーナ嬢が聞いているかもしれないので指文字を使って会話する。

『どうする?やめる?』

亡命についてはルークも考えていたことだ。

国の協力も得られたことだし、異論はないはずだ。


『いや、ちょっと、考えさせてほしい』

まぁ予想はしてたけど。

いざとなると覚悟がいるものだ。


『いいけど、早く決めないと。リラとダニエルはもう動いてるよ』

あの二人は楽しそうだったが。

『あの二人が…………』

少し考えて、目がキリッと強い双眸に変わった。

『分かりました』

ルークは何か意を決したようだった。


***


ダニエルの作戦はこうだ。

ルークを中立国に亡命させる。

中立国はユザール国とは隣国のヴァルダーク国だが、この屋敷から馬を走らせても三日はかかる。

基本、屋敷の外に出られたらそれでいい。

潜伏しながらそこから逃げきる。


ここからの脱出が問題だ。

プランは三つあった。


プランA

ジーナ嬢とはデートとか買い物とか何かしら外出する機会を作り、屋敷から連れだし、街中を散策する。

そこにダニエルとリラが潜伏する。リラがジーナ嬢を引き止めている間にダニエルがルークを連れ出す。

馬に乗り中立国まで逃げジーナ嬢はわたしが屋敷まで送り届けるというのが一連の作戦だ。


プランB

国からの召集、もしくは『ブラック ファントム』が助力を求めていると偽り、ルークを呼び出し敷地外へ出た所で逃走する。

これは仕掛け人がいる。

ジーナ嬢にも話しを通す必要があるため一緒に立ち会うことになる。不審に思われ見破られる可能性はある。

しかし仕事として出かけるなら屋敷の者も違和感を感じないだろう。


プランC

ルークが決行日に自力で屋敷から抜け出す。

事前に逃走ルートの鍵を開けておき、時間になれば脱出する。

深夜ならジーナ嬢も眠っているだろう。

見張りもルークに対してはわたしがいるから、警戒心は薄い。見張りの巡回ルートも把握している。

ただ敷地が広すぎるので、隠れながら最短ルートで行ってもかなり時間がかかる。

それだけがリスクだ。



中立国を何カ国か巡って最終的にドルステニア国で保護すれば完了だ。



***


まずはプランAを決行すべくルークはジーナ嬢に外出の打診をした。


「お嬢様、今度の日曜日デートでもしませんか」

ルークはわりと自然に提案した。


「どうしたんですか?珍しい」

ジーナ嬢は読書していた本をとじ、嬉しそうな顔をしている。まんざらでもなさそうだ。


「かれこれここへ来て一か月たちますが、ずっと屋敷にいては刺激が少ないでしょう。気分転換に街など散策したいのですが、わたしは外出禁止令が出ているので出来れば一緒に外へ出かけませんか」

ジーナ嬢は少し顔を曇らせた。


「敷地内ではだめですか?」


ジーナ嬢は急に冷めた顔になった。

乗り気ではなさそうだ。

敷地内だけで五箇所も庭園がある。

あえて敷地外にでるメリットを感じないのだろう。

広い屋敷というのも考えものだ。


「前に家庭教師をしていたお嬢様から休みの日にはピクニックや買い物に付き合ってほしいとせがまれたことがありまして。お嬢様とも同い年ですから、同世代の方との話題づくりのためにも、そういう機会を作って出かけるのも良いのではないかと」


クライシス伯爵のソルヴェーグ嬢のことだろう。

ジーナ嬢の眉間が少し歪んだ。


「ちなみにその子とはいつ、どこへ、何回デートしたんですか?どんな女の子だったんですか?可愛かったんですか?ずっと二人きりで家庭教師をしていたんですか?」

ジーナ嬢はルークにぐいぐい詰め寄っていく。

他の令嬢を引き合いにだすのはまずかった。

ジーナ嬢はいつになく険しい表情をする。

まるで尋問だ。

これはヤキモチを妬いてる。


ルークは地雷を踏んだようだ。

ルークもふいの反撃に押され気味だ。


「お出かけは結局仕事で予定すら立ちませんでした。家庭教師は仕事でそのお嬢様とは普通に生徒として接していましたよ」

ルークは冷や汗がでていた。


「そう。それならいいんですが。わたしの知らない所で知らない女性と楽しそうですね。ライアンは出かけられたら誰でもいいんでしょう?」

フンッとそっぽを向いてしまった。

ここで負けるなルーク。

この交渉ができるかどうかで、脱出のリスクが変わってくる。

わたしは素知らぬ顔をしながら二人の様子をはらはらしながら見る。


「お嬢様と行きたいんです。一緒に出かけるなんて今までなかったでしょう?」

ルークも必死だが、ジーナ嬢は頬杖をついてルークを見据える。

妬いているせいか、いつものルークの笑顔も効果が薄い。

誘い出しから失敗したな。


ルークは健闘したと思うが、完敗はみえていた。


「ライアン、お父様からはライアンを絶対に敷地の外に出すなと言われております。お父様の外出許可をお手紙で持って来てくれたら考えます。ライアンがもし偽造したお手紙を書いたと分かればお父様に連絡しますからね」


端でみていたが、元帥親子はぬかりがなかった。

外に出す気はさらさらない。

ルークもたじろいでいるのが分かった。

このプランは諦めたほうがよさそうだ。


***


プランBを試みようとした。


…………が、これはすぐに断念した。


「緊急招集です。ライアン様、至急、本邸に参上せよと旦那様からの通達です」

ジーナ嬢の執事が来て、ルークにいっきに緊張感が走った。


デート誘い出し作戦が失敗し、プランBをどうするか作戦を練っていた時だ。


本当に仕事で呼び出されたのだ。

しかも元帥が手配した馬車と使者が迎えに来ていた。

亡命を気取られたわけではないはずだ。


わたしも護衛としてついて行くが、本邸の屋敷内に入る許可は出なかった。

ルークは使者と共に本邸に入っていく。

わたしはルークが屋敷から出てくるまで気が気ではなかった。

元帥から解放されて帰る時も使者が別邸まで送り届けた。


途中で馬車から飛び降りれるかとも思ったが、鍵はかかり馬で追従する従者もいた。

まるで護送車のような扱いだった。

このタイミングでは逃げ出せないとわたしも思った。


我々が人を金で雇い、同じように仕掛け人や馬車、従者を用意したら目立つ。

目撃者が増え、怪しまれてしまう。

屋敷の使用人も元帥に言い含められているのだろう。

顔見知りの人間かを確認している節があった。

顔パスが使えないと警戒を強める上、捕まるリスクがありそうだ。

現実的なプランとは言えなかった。



***


なんだかんだあり、プランCが本命プランになってしまった。

自力で屋敷から脱出する強行策だ。

作戦決行日は新月の日だ。

つまり、本日作戦を決行する。



月明かりがないため、夜目を頼りに動くしかない。

下見をしたが敷地は本当に広い。

建物から出て庭が広がる。

隠れられそうな場所を確認するが、屋敷から丸見えだったり高い塀で前に進めなかったり、まるで迷路だ。


逃走する時、現場を押さえられたら言い逃れができない。

屋敷から脱出できそうなポイントをいくつか確認した。

『ルーク、脱出は出来そうだけど、用意は出来てる?』

『わたしの荷物は連れてこられた時の服だけですから』

ルークに荷物はない。

ルークは身一つできたため、屋敷から用意されたものはそのまま置いておくようだ。

打ち合わせをしてルークの部屋に戻った時だ。


部屋には人の気配がした。

わたしとルークは顔を見合わせた。

わたしは剣に手をかける。

ルークはゆっくりドアを開けた。

そこにはジーナ嬢がルークの部屋に立っていた。


「ライアン、またわたしを置いて行くんですね」

「勝手に部屋へ入るのは感心しませんよ」

ルークはため息をついた。

わたしは思わず警戒した。

脱出を気取られている。


「先週からずっと怪しい動きがありましたので、気になっていたんです」


出かけたいと言って警戒が強まったのか。

ルークと一緒にいたいのに何年も帰ってきてはまた去っていくルークを見送ってきたんだろう。

ルークのただならぬ雰囲気をずっと感じ取ってきたから、勘付かれたのかもしれない。


「これでもう、本当に一生会えないんですね」


ジーナ嬢は何かを悟ったようだった。

女の勘は怖い。


逃げることを前提に警戒されていたはずなのに、ジーナ嬢は逃げるつもりのルークを引き止めるような言葉をかけない。

ジーナ嬢なら使用人に頼めば取り押さえる人員は確保できただろう。しかし、部屋にはジーナ嬢だけだ。

見逃してくれるのだろうか。


見逃してくれるなら話しは早い。

ここではっきり決別した方が、ルークにもジーナ嬢にとっても最善だ。


「ジーナ」

ルークはジーナ嬢を呼び捨てにしたのでわたしは耳を疑った。

ルークはわたしの肩をポンッと叩く。

任せてくれということだ。


ジーナ嬢もいつになく真剣なルークに息をのんだ。

ジーナ嬢の真正面に立ち、威圧感すら感じられた。


「わたしのことを許してほしい」

ジーナ嬢は少したじろいだが、ルークを見据えた。

ルークはいつになく優しい声だった。


「何を許すというんです。国を裏切ったことですか」

ジーナ嬢の声は震えていた。


「いえ、ジーナにずっと秘密にしていたことです。今日屋敷を去ります。今までお世話になりました。お会いすることはもうないでしょう」

ジーナ嬢はやっぱりかという顔で泣くのを堪えていた。

「だから最後に。今まで仕事や身分のことがあり、言えませんでしたが」

「何ですか」

ジーナ嬢は泣き声で震えていた。

別れの挨拶を覚悟した顔だった。


「ジーナ、愛しています」

ジーナ嬢とわたしは呆気にとられた。


一瞬、間があった。 


わたしも頭の整理をするのに思考停止した。

ジーナ嬢はすぐ我に返り反撃した。


「からかわないで。わたしのこと何も見ていないくせに。今までずっと公爵の娘としか見ていないじゃない」

「身分をわきまえていると言ってください」

ルークは負けずに応戦する。


「好きだと言ってくれたこともないですし」

「大事にしていると言っていましたよ」

ジーナ嬢は何かを思い出したのかカッと頰を赤らめた。


ルークは跪いてジーナ嬢の手をとる。

だが、いつもの社交辞令ではなく、両手でジーナ嬢の手を包みこんだ。

「最後にこれだけ。ジーナ、結婚してください」

そっとかぶせていた手を外し、ジーナ嬢の手に唇を落とした。

わたしもジーナ嬢も、何が起こったのかわからなかった。


え?なに?この状況でプロポーズ!?

最後にいいたかったことをプロポーズにしていいの!?

しかもあの堅物で女子に興味がないあのルークが!?


衝撃の瞬間だった。


考えようによっては身分違いの恋をしていたから、他の子に興味がなかったのか!!


新手のハニートラップかと思ったが、ルークが意図してそんな器用なことはできない。

ルークはいつになく真剣な顔だ。本気だ。


ジーナ嬢は泣いていた。

「はい……」

ジーナ嬢はか細い声で承諾した。

緊張の糸が切れたのか、ジーナ嬢はへなへなと床に座り込んでルークと見つめあっていた。


わたしはそっとその場を離れた。

若い二人にあとは任せる。

空気を読む先輩の心遣いに感謝してほしいものだ。


つまり、これからはルークの亡命プランではなくなった。

ルークとジーナ嬢の駆け落ちプランに作戦変更ということか?

いいのか?これでいいんだろうか!?

当人たちがいいならいいんだけどさ。


二人は結局、両想いだったわけだし、お互いの立場を尊重して振る舞っていたんだしね。

当初からジーナ嬢の懐柔が一番難しいと思ってたから、いいんだけどさ……。



ジーナ嬢はまかり間違ったら他国で人質の価値が出てしまわないか?ユザール国元帥の一人娘だし。

絶対、利用価値がどうとか出てくるよな……。

ルークもユザール国の情報持ってるし……。


まさかの展開にわたしは混乱するばかりだった。

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