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謎解きは美術品の前で  作者: 常磐 シノブ
第2章

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3 シルバージュビリーを作成せよ 中編

夕方になり、グィネヴィア王女一行が帰ってきた。

直轄地の村を五箇所ほど回ってきたそうだ。

帰りを待つ間、執事に状況を伝え、敷地内の警備を厳重にするようお願いした。

わたしはその間、早く報告したいのと見回りを兼ねて庭の周りをうろうろしていた。

帰ってこられた時にはほっとした。

とりあえず留守を守れたと思う。


攻撃を仕掛けてきたのは一人だけだった。

他に仲間がいたのかも知れないが、捕まえてすぐに見回りをしたが誰もいなかった。


話し方の訛から、ここから南東のスーヴェ領の村だろう。容貌から年齢五十代前後、手の皮膚の肥厚から狩人としては熟練者だ。

気配の消し方、狙いの定め方はやはり見事だ。

わたしも家業に狩猟をしていた同業だから少しはわかる。


しかし暗殺者としてはまだまだだ。訓練を受けていない素人だとわかる。

でなければ、昼間からターゲット以外をあえて狙うなどあり得ない。

プロなら騒ぎを起こさないよう、最小限にことを済ませる。

仲介業者はスカウトに来たと言っていたそうだ。

組織は『ブラック ファントム』という。


どこかで聞いたことがあるのに、思い出せない。

すぐに思い出せないとないところをみると、国外の組織か。潜入捜査中の先輩がいる所だったか……。

ここに自分のデスクがあれば一発でわかるのに、もどかしい。


グィネヴィア王女に襲われた時の詳細を伝える。

「結論から申し上げますと、こちらは本職が狩人、暗殺はお金欲しさに仕事を引き受けたようです。雇い主は仲介者を通して首謀者はわからず。王女と護衛のお二人がいなくなった隙に屋敷の者を暗殺しようと思ったようです。やはりターゲットはルーナ妃のようです」


曲者は補縛して納屋に入れておいたので、王女達に引き合わせた。

肩の傷は止血をしておいたが、ぐったりしている。

自死しないよう、猿ぐつわもしておいた。

王女とジョン、レオンは顔を見合わせる。


「絵師だと聞いてましたが、戦えたんですか」

ジョンは感心するが、つっこむところはそこではない。


「矢を防いだり、ナタを肩に命中させるコントロールといい、この後始末といい、すごいな」

レオンも意外だと言わんばかりだ。

二人にはわたしが軍部の人間で絵師だと言っていた。

諜報部の人間だとは言っていない。諜報部の人間として顔を広く知られるとまずいからだ。


「正当防衛でなら多少の心得があるだけです。先陣をきって勇猛果敢に戦をする人間ではありません」


そう、あくまで喧嘩を売られたら、動く。

負けっぱなしも嫌だから反撃しただけだ。

何より、王族の人間がいる屋敷で攻撃をするなど反逆罪だ。逃がす方がよほど危険だ。


「それより今、国全体で不穏な動きがあるのですか?」

モルガン大公といい、穏やかとは言えない世情だ。


「お察しの通りです。先日、父上の食事に毒が入っておりました。毒見役が倒れ、今も意識不明の重体です」

内密に処理はされ、表だって公表はしていない。


実は時期はばらばらだが、王族に向けて刺客が放たれたり、毒を盛られたりと派手な動きがあった。

グィネヴィア王女はハンティングに出かけた時に刺客に襲われたらしい。

咄嗟にレオンが一刀両断し、刺客からは動機などを聞き出せなかった。


次男のパウロ王子は遊学中だが、手紙で無事は確認できている。


「犯人に心当たりは?」

王族の直系を狙ってくるあたり、王位簒奪が狙いだろうか。


「それが全くなんです」

水面下で動いているか、他国からの介入ということもあるのか。


「ちょうど明日はマイロ兄上の所へ行く予定でしたから。兄上も危ないかもしれません。明日、早朝に出立致しましょう」


***


御用邸から馬を走らせて一時間した所に、マイロ王子がいる教会があった。

事前に訪問の日時を知らせてあったので面会はスムーズだった。


昨日の一件があり、御用邸の警護を近くの軍部の支部から派遣して貰った。

新たに二十名の兵が屋敷の警護をしてくれるので安全だろう。


「兄上、ご無沙汰しております」

面会室に通された。

グィネヴィア王女とジョン、レオン、わたしの四人にマイロ王子とどこかでみたことがある女性が一人いた。

「久しぶり。元気にしてたか?」

マイロ王子はグィネヴィア王女に気さくに声をかける。


「少しやつれたんじゃないですか?こちらの生活は慣れましたか?」

マイロ王子の駆け落ち事件からもうすぐ半年が経とうとしていた。


「ようやく慣れたが、教会の生活は大変だな。城にいた時とまるで違う。厳しいものだ」

戒律が厳しいことで有名なイベルト教は所帯をもつことこそ許されているが、ルールも多くいかに自分を律するかが問われる宗派だ。

王子という特殊な生活だったとはいえ、大変だろう。


「ところで、そちらの女性は?亅

面会室の隅でこちらを見守るように立っている女性がいた。

「そうだ、紹介しよう妻のエリザベスだ」

エリザベスという女性はみたことがあった。


「グィネヴィア様、お初にお目にかかります。非公式ではございますが、マイロ様と結婚致しました」


アレクサンダー公爵の夫人だ。

以前、駆け落ちしようとした所をアレクサンダー侯爵が闇取引だと連絡して現場を押さえた件だ。


「ご丁寧にありがとうございます。わたくし、グィネヴィアと申します。以後お見知りおき下さい」


やはり離婚して再婚したのか。

収まるところに収まったというところか。

二人にとってはこの形が一番幸せなのかもしれない。


「お兄様、例のあの?」

「そうだ。親父と喧嘩別れして、あの後一緒になった」


「それで、今日はどうしたんだ?」

「お兄様、今日はご挨拶とは別に二件、ご用向きがありまして」


「一つは親父の二十五周年の記念だろ?わたしはパスって兄上に手紙を書きました。それで二つ目は?」


グィネヴィア王女が『どうしよう』という顔でわたしを見る。


これはマイロ王子の絵を描いたら怒られる流れだ。

家族揃っての絵だから価値があるのだ。

ここで引くわけにはいかない。


「お話し中誠に申し訳ありません。恐れ多くも発言させて頂いてもよろしいでしょうか亅

「遠慮なくどうぞ」

グィネヴィア王女が許可を出す。


「わたくしは、エドワード クレイという絵描きでございます。本日は王太子殿下のご用向きでマイロ王子の絵を描くため馳せ参じた次第です。しかし、マイロ王子はご希望ではないとのこと。無理に描くわけには参りません。ただ遠路はるばる参りましたので、せっかくでしたらマイロ王子とエリザベス様の結婚祝いの絵、わたしに描く機会をお与え頂けませんでしょうか」


ルーナ妃が『エドワード君』と呼ぶので偽名もつい『エドワード クレイ』と名乗ってしまった。

偽装戸籍が抹消されているだけで、名乗る分には問題はないだろう。


「いや、わたしには不要……」

マイロ王子が即答で返事をした。

しかしその返事に被せるようにエリザベス様は答えた。


「まぁ!夫婦二人の絵を描いて下さるの?こんな機会ありませんからゼヒ!せっかく王都から来て下さったんですものね」

エリザベス様は前のめりで目をキラキラさせる。

これはうまくいった。


エリザベス様の前で片膝をついて手を取り、営業スマイルをして上目遣いをする。

「なんたる光栄の極み。エリザベス様のようにお美しく慈愛に満ちた方を描けるなんて」


少し大げさすぎただろうか。

ある程度自分を捨て演出しなければならない。

依頼主の満足度を上げる絵を描くためにも、自分の個の感情は不要だ。

そう、これは仕事だ。


「ありがとうございます」

手の甲に口づけする。


エリザベス様と目が合い、頬が少し紅く染まった。

グィネヴィア王女はあんぐりと口を開けている。

ジョンとレオンもドン引きしているのがわかった。

わたしは仕事の目的が遂行できるのであれば、何でもする。


「まぁ嬉しい。ねぇ、いいでしょう?」

といってマイロ王子に視線を向ける。


「……妻がそういうなら、仕方ない。わかったから、早くその手を離しなさい」

指摘され、そっと手を離す。


「失礼致しました」

マイロ王子に会釈する。

ルーナ妃の特訓はいろんな所で生かされている。

王子がだめでも奥方の了解がとれればこちらのものだ。


モデルを描いてしまえば、同じアングルで複製できる。描ける機会があればこちらでどうにでもなる。

シルバージュビリーの絵は何とかなりそうだ。


王太子殿下のご依頼の家族の絵を描くのも楽ではない。

この一幕でどっと疲れがたまる。


***


教会の牧師となったマイロ王子は複数の牧師と共に仕事をしていた。

基本、他の牧師と共同生活だ。

世帯を持っていたので、家は別に構え夫婦で生活をしている。

王子は牧師になっても王家直系なので、護衛はついていた。ちなみにこちらの護衛は軍部からの派遣だ。期間を決めて交代で出向している。


「兄上、あともう一件のご用向きなのですが」


一つのカウチソファにマイロ王子とエリザベス様が向かい合うようにして座る。

わたしは王女の話しを聞き流しつつ、絵を描き続ける。


「なんだ?」

「最近、不審な人物はいませんか?」

「いや、不審者はないが……何かあったのか?亅

グィネヴィア王女は陛下暗殺の動きがあったことを伝えた。


「暗殺未遂な……。親父のことはまぁ、それはそれとして。最近、この教会で不審死はあったぞ」

「それは?」

「ここの若手の牧師だ。ちょうど背恰好は私くらいの真面目な方で。ただ遺書もなくベッドの上で眠るように死んでいた」

「どうして不審死だと?」

「靴を履いたままベッドの上で死んでいたからだ。普通、横になるなら靴を脱ぐものだろう」


ドアも窓も鍵がかかっていた。

荒らされた形跡もなく、外傷もない。

机の上に薬袋が大量にあったことから服毒自殺だと処理されたそうだ。


自殺なら動機があるはずだ。

遺書もなく、普段から悩んでいる様子もなかったそうだ。

自殺をするような人間ではないとみんな口を揃える。


可能性の一つだがマイロ王子と間違われた可能性がある。

この場にいた誰もが同じ事を思った。


普通、牧師は共同生活だが、王子は家庭を持ち別の家で生活していたおかげでマイロ王子は助かったのかもしれない。


この不穏な動きは一体、何なのだろうか……。

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