【番外編】伯爵令嬢の探偵簿 Ⅱ 〜怪盗『夜王の騎士』前編〜
朝の日差しは温かくて気持ちいいものです。
伯爵令嬢という立場は少し寝坊をしても許されるから、ありがたいです。
日曜日の朝は特に時間におわれず、ゆっくりご飯を食べて、日頃の疲れをとるために自堕落な生活をするというのもいいですね。
今日は何をしましょう。
エヴァンズ先生と街中で買い物するのもいいですし。
せっかく王都に来ているのです。観光地などへ行って先生に絵を描いて貰ってもいいですね。先生だって絵を描いている時間は楽しいとおっしゃっていたし。
今日は天気もいいですから、軽食を持ってお出かけするとなると、ちょっとデートのような感じになりますかね。
考えただけで楽しくなってきました。
テラスで朝食をとり、今日は何をしようかと考えていますと……。
エヴァンズ先生はゆっくりテーブルの前に現れました。軍部の制服姿で、普段見慣れないお姿にドッキリしました。
「それでは暫くお暇を頂きます」
エヴァンズ先生は一礼して荷物を持って退室しようとされます。
わたしは雷に打たれたかのような衝撃でした。
わたしは食べかけのパンを思わず落としてしまいました。
「それはどういうことですか⁉」
わたしの家庭教師とボディーガードとしてずっとわたしの傍に留めておけると思っていたのに。
お暇ですか……。
一体なぜ?勉強をサボりがちだったからでしょうか。愛想が尽きたということでしょうか。全くの予定外です。
エヴァンズ先生はふぅっとため息をつきます。
「昨日、お伝えしていましたでしょう。もうお忘れですか。モルガン大公のところに怪盗『夜王の騎士』から予告状がきたので、その筆跡鑑定と人員の応援要請のために二週間ほどお暇を頂きたいと申し上げたではありませんか」
「あ、ぁ、あぁ、そうでしたね。今日でしたかね」
「聞いていませんでしたね」
おほほっと苦笑いをする。
全く聞いていませんでした。
エヴァンズ先生の真剣な表情に見惚れていたとは言えません。
「気を付けて行って来て下さい」
「ありがとうございます。ではお嬢様、わたしがいない間、課題をしっかりこなして下さいね」
そういえば、やたらと本がテーブルの上に置いてありましたね。
「大丈夫です!」
先生を幻滅させないためにも、やりのけてみせましょう。
「あともう探偵ごっこはだめですよ。怪盗『夜王の騎士』が現れる時は情勢もあまりいい時ではないので」
「分かってます」
そう言って先生は外廷に行ってしまいました。
しかし、二週間は長いです。
先生を見送り、紅茶を飲んで一息いれます。
「ジェイド、ここ最近の怪盗『夜王の騎士』の新聞記事を集めてくれますか」
「わかりました。また何か企んでいるんですね」
わたしは図星をさされ思わずにやりと笑いました。
このまま未解決事件などということになれば、先生の出向も取りやめになることも考えられます。
怪盗一人捕まえられないともなれば、国の威信にも関わります。
早く我が家に帰ってきて貰うためにも、ご助力しなければ。
***
集めて貰った新聞記事を見ていますと怪盗『夜王の騎士』はいわゆる義賊でした。
数年前、突如として現れ貴族から貴金属を盗み、それをお金に変えて乳児院や学校、病院に寄付しては衛生用品や衣類、食料にあてられ民衆から絶大な支持をされているようです。
先日も脱税をしていた侯爵の屋敷から『人魚の涙』といわれるサファイアのブローチを盗みだし、貧民街に大金が寄付されたとか。
炊き出しに貢献しこれも民衆は絶賛の嵐だったと記事に書かれていました。
侯爵が税金を懐に入れていた金額と同じ額が寄付されていたとすっぱ抜かれています。
新聞記者も裏取りのある内容を書いており、税務担当者から事情聴取を受けたようです。
この怪盗は情報を新聞会社に売って自分の行いの正当性を世間に知らしめていました。
この怪盗『夜王の騎士』はいまだ正体不明です。
怪盗を見た者は仮面をした騎士で素顔を見た者は誰もいません。
決まって新月に現れ、予告状を出して軍部が動いてもまんまと逃げられています。
各諸侯からも治安維持のために早く捕まえるよう圧力をかけているようですが、いまだ解決できず。
軍部も威信をかけて早く捕まえたいと思うでしょうし。
でも捕まえられなかったら......。
やはり先生がこちらに帰ってくるのは難しくなりますよね。
そこまで新聞を読むと、いてもたってもいられなくなりました。
これは体よく家庭教師をやめる口実になり得ます。
***
「モルガン大公の狙われたジュエリーが知りたい?」
わたしの情報源は何と言ってもやはりお父様。
晩餐の時にお父様に尋ねてみた。
「確かピジョンブラッドの真っ赤なルビーの指輪じゃなかったか?かなり大きなルビーで相場ならダイヤモンドより高額だ。ただ、怪盗に狙われたとなれば、大公にも表沙汰にはできない何かがあるのだろう。軍部も怪盗騒ぎの人員と大公に裏帳簿がないか捜索する人員とで人手不足のようだ。エヴァンズ先生も大変だな」
お父様は、はははっと笑うがわたしはそれどころではない。
せっかくのお休みを先生と過ごしたかったのに。
「怪盗はいつ頃現れるんです?」
「貴族院での噂だが、来週の新月だ。日中から警備体制を強化するそうだ。くれぐれも変な動きをするんじゃないぞ。妙な疑いの目を向けられてはかなわんからな」
「大丈夫ですよ」
多分…...と付け足しておきました。
課題はどう見ても、二週間では終わらない量でした。
昼間からかなり頑張ったのに、ゴールがみえません。
十四日で割って割当てましたが、その課題分すら終わらないのです。
もしや、先生は探偵ごっこをしてふらふら出かけないように釘をさしてらっしゃるのかもしれません。
以前、先生のプライベート調査をしてちょっと怖い思いをしましたし。
しかし、わたしにとっては一大事です。
これしきのことでめげている場合ではありません。
こんなことなら朝寝坊せず、とっとと課題をこなしておくべきでした。
あの朝の時間を無駄にしてしまったのが悔やまれます。
早く終わらせて、怪盗の正体を突き止めないと。




