全てがあまりにも眩(まばゆ)い
「ーー日向さん?」
日向の隣にいるのは、明るい茶色のウェーブヘアの女性だ。
紺色のドレスに豪華なダイヤのネックレスが首元を麗々(れいれい)しく飾っている。
彼女は黙ったまま動かない日向を不思議そうに見ていたが、やがてこちらに視線を向けた。
「蓮さん、ごきげんよう。お会いできて嬉しいわ」
「僕もお会いできて光栄です、麗奈さん。相変わらずお綺麗ですね」
水無瀬が蒼に対するのとは違う紳士的な挨拶をする。
麗奈と呼ばれた女性は綺麗だと言われ慣れているのだろう、ふわりと微笑んだ。
「そちらの可愛い女性は、蓮さんの恋人?」
「ご想像にお任せします」
意味深に笑う水無瀬を日向が睨んだ。
「水無瀬……どういうつもりだ?」
「どういうつもりって?」
「なぜお前が、あおといる?」
日向が掴み掛かりそうな勢いで水無瀬に近付く。
「場をわきまえろよ、有峰。こんなとこで暴力沙汰なんてお前のイメージガタ落ちだぜ」
「だから? お前こそ身の程をわきまえろ」
ピリピリとした空気を纏う日向と相変わらず笑みを浮かべたままの水無瀬が対峙する。
「…日向さんが、冷静さを失うなんて……」
麗奈が意外なものを見たように呟いた。
「そうだ、麗奈さん」
水無瀬は何かを思い出したようだった。
「紹介しますね、こちら白石 蒼さんです」
唐突な水無瀬の言葉を一瞬蒼は飲み込めなかったが、慌ててお辞儀する。
「で、蒼。こちらは加賀美 麗奈さん。世界展開するホテル経営者一族の御令嬢で、このホテルも彼女の家のだよ。ちなみにーー有峰の婚約者だ」
すとん、と腑に落ちた。
蒼は分かってしまった。
目の前にいる、自分の目に映る二人の姿はーー
「水無瀬っ…!」
「嫌だわ、蓮さん。私はあくまで婚約者候補の一人。有峰の後継者とも噂される日向さんの結婚相手は、そう簡単には決まらないでしょう?」
「ほぼ決まりと聞いてますけど…まあそういうことにしておきましょうか。さてと、二人の邪魔はしたくないですし、僕達はこの辺で失礼させていただきます。ーー蒼」
水無瀬に呼ばれ、蒼ははっとする。
「あ…うん…」
ぼんやりとしてしまっていた。
どうやら会話を終わらせるらしいがーー
「逃げるのか?」
日向が水無瀬を責めるように言った。
「逃げねーよ。俺らここに来てまだ何も食ってないから、食事したいだけ。蒼にひもじい思いはさせたくないだろ?」
「っ……」
「あら、それはこちらこそ気が利かなくてごめんなさいね。じゃあ日向さん、私達も」
「…ああ……」
麗奈に促され、日向は納得がいかない様子ながらも麗奈と共にこの場を離れていった。
「俺らも行くぞ」
蒼と水無瀬は再びサイドテーブルへと向かい、そこに着くと料理を食べ始めた。
きらきらと華やかで手の込んだ料理。美味しそうに見えるが、蒼は食が進まなかった。
水無瀬と他愛無い会話をする。
だが時々、
目は、彼の姿を追ってしまう。




