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ヒーローには日向が似合う  作者: とこね紡
20/33

君の周りの俗まみれ

昼休みも終わりに差し掛かり、日向は教室へと向かっていた。


……………?


教室の近くまで来て日向は違和感を覚えた。

いつもは賑やかしいのに何だか静かだ。

日向は不思議に思ったが、すぐに答えは出た。


教室に入るなり、日向は立ち止まってしまった。

一点を見つめる。

恐らく今教室内にいる誰もが同じところを見ているに違いなかった。


「…あお……?」


蒼が女子生徒の胸ぐらを掴んでいた。


女子生徒に詰め寄っている蒼の表情は険しく、張り詰めた空気を漂わせている。

周りは皆戸惑い、固唾を呑んでことの成り行きを見守るしか出来ないようだった。


「ーーあおちゃんっ」


蒼の側まで行った日向は、女子生徒を掴んでいる蒼の腕を取った。しかし蒼は日向を見もしない。


「邪魔しないで」

「あおちゃん、これは駄目だ」

「……そいつを庇うなら、そいつの味方をするなら、もっと私を力ずくで止めたら?」


蒼が日向に鋭い視線を向けて言った。その視線を受け止め、少しして日向ははぁっとため息をつく。

「こんなことして困るのは、あおちゃんの方でしょ。問題を起こして家の人を悲しませたいの?」

「………………」

蒼の瞳が揺れる。それから彼女は俯き、ゆっくりと女子生徒から手を放した。


「落ち着いた? 一体、何があったの?」


蒼がこんなに怒るなんて、しかも暴力的な行動をするなんてよっぽどだ。

蒼は昔から暴力を振るうことはなかった。ひなを助ける時も相手を言葉で言い負かすことをしていた。

蒼の境遇を知ってからそれは、彼女が暴力を嫌悪しているからだろうと理解した。

そんな蒼が。


「……日向には関係ない」


日向を見て蒼が言い放った。


「…そんな言い方はないだろ…」


そう呟いた後、日向は挑戦的な目を蒼に向けた。

蒼に聞く手段はある。

本当はこんなこと言いたくない。言いたくはないがーー


「俺の言うことは何でも聞くって言ったのは、あおの方なのに」


蒼が下唇を噛む。沈黙の後、


「……ムカついたから」


蒼が言葉を(こぼ)した。


「何があったか、その子達に聞けば教えてくれるんじゃない?」


開き直ったような態度を取り、蒼が歩き出す。

「あおちゃん、どこ行くの?」

「頭冷やしてくる」

蒼が教室を出て行く。ちょうどその時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。


「あおいっーー」

「新田さん」


蒼を追いかけようとする実咲を、日向は呼び止めた。

「君が行っても、どうすることも出来ない」

「なっ……」

実咲が日向を強く見る。受け流して日向は女子生徒に声をかけた。


「大丈夫?」

「あっ、はい」

「よかった」


そう日向が言うと女子生徒が嬉しそうな顔をする。日向は別に彼女を心配したわけではなく、もし彼女に怪我でもあったら蒼が不利になることを心配していた。

もちろんあくまで顔には出さずに。


「君は確かーー」

「葵です。村西(むらにし) (あおい)


この女子生徒は、数日前の昼休みに日向が水無瀬といた時に話しかけてきた子だ。

あの時適当にあしらったつもりだったが。

「あの、ちょっとびっくりしたけど、白石さん何かあったのかな? あたし気にしてませんから」

葵という女子生徒が上目遣いで言った。


蒼の行動を自分が謝罪すると思ったのだろうか。

そんなことするわけないのに。蒼の非を認めるようなことをするわけが。

「そう……」

呟いた日向の耳に話し声が入ってくる。


「白石、こわ。あんな奴だったんだ」

「俺は気の強い女好きだから、いいなって思ったけど」

「いや、ないない」

「あーいう女を泣かせたくない?」


低俗な男どもめ…


話し声がした方に日向は顔を向けた。

「あー有峰、冗談だって」

男子生徒がへらへらと軽口を叩く。日向は微笑んだ。

「あおちゃんは魅力的だから、君が気になるのも仕方ないよね。でもーー」

そして日向は声を低めた。


「自分があおに釣り合う男だと思ってる? まさかな。俺だってまだまだなのに」


しん、と教室中が静まり返る。


日向は思いもしていないが、蒼の方が日向に釣り合わないと考えているのがほとんどだった。


五時間目の現代文の先生が教室に入ってくる。

「やば、行かなきゃ。有峰くん、じゃあまた」

ぱたぱたと小走りに葵が出て行く。生徒たちが各々席に着く。始業のチャイムが鳴った。




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