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第7話 一日一偽善

 正直言って訓練はキツかったが、戦い肩のコツや《転移転生》したことで、元の世界よりも身体能力のスペック自体が跳ね上がっていた。ちょっと力を入れて飛ぶだけで三メートルも飛び上がるのだから驚きだ。


 講師のおっチャンは、隻眼の海賊の船長が似合う筋骨隆々の元戦士だった。ランクはB(-)だとか。所帯を持ったことで現役を引退したらしい。ネームはキャプテンと名乗ってくれた。


(そうか、敢えて本名じゃない登録もできたんだった)

「そうだ! 気合いがあれば大体のことはできるようになる!」

(精神的に松岡○造みたいな台詞しか言わないけれど!)

「うちの嫁さんの写真を見るか? 娘も五つでな、めちゃくちゃ可愛いんだ!」

(時折、家族自慢を挟んできた!)

「キャプテンも《異世界転移》なのか?」

「ん? ああ、そうだ! 俺は妹と巻き込まれてな。こっちに来てから会えていない。でもここは《転移転生》の魔法陣がある場所だから、会えるかもしれないって思って家を構えたんだ」

(俺や陽菜乃のように同時期に召喚されるとは限らないのか)


 剣の使い方から基礎訓練ばかりだったが、俺はこういう地道な特訓が嫌いじゃないので苦じゃ無かった。周りを見ると俺と一緒に《転移転生》してきたのは森人族(エルフ)ぐらいだ。魔物と近接戦闘がどうしても主となってしまう、前衛戦士(アタッカー)盾戦士(タンク)は少なく、最初に支援職(バファー)を磨いてクエストになれてから、前衛戦士(アタッカー)、になる連中が多いとか。


(確かにゲームとは違って死ねばリプレイはできないのだから、慎重になるのは当然と言えるだろう。……にしても、あの森人族(エルフ)、俺のこと凝視しているような? いやいや、気のせいだろう)



 ***



 冒険者ギルドの受付カウンターで陽菜乃を待ちながら、情報収集がてら周囲を観察していると大量の木箱を運んでいる受付嬢がいた。ふらついているので、見かねて声をかける。

 冒険者ギルドの制服は、元の世界の受付嬢のような紺色の制服で中々に良い。


「手伝おうか?」

「え、いいのですか! ありがとうございます♪」


 猫人族のようで頭に髪と同じ茶色い耳があり、感情の変化が耳や尻尾に出やすい。俺と同じくらいの年で、何の躊躇いも無く木箱を渡してきた。結構重いが運べない重さじゃなくてよかった。


「それでどこまで?」

「実はー、武器屋から急な受け取り要請が来ていまして、あと三往復しなければならなかったので、すっごーく助かります♪ミャハ」


 どうやら労働力として確保されてしまったようだ。まあどちらにしても武器屋に行く予定もあったし、荷物の受け取りをしつつ顔見知りになるのも悪くない。労働を提供するだけの見返りはある。


「そうか。なら武器屋の道案内を頼めるか?」

「……にゃ!? それは……いいですが」

「じゃあ、決まりだ」


 快諾したことに受付嬢は目を丸くして驚いている。


(助けを求めてきたのになんだ? もしかしてこの世界に偽善とか善意がないとか? それとも――)

「あ、あの! 報酬とか出ませんけど」

「ん? ああ。(もしかして何かをしたらそれなりの謝礼をする、というのが当たり前なのか? まあ、レベル至上主義ならそうなるのか?)それでまずこの荷物はカウンターの裏に置けば良いのか?」

「あ、それはこっちです」


 それからルーナと名乗った受付嬢は、適格な指示を出してくれた。あと三往復するが問題ないだろう。

 ルーナに案内してもらい、武器屋までの道のりを頭に叩き込む。

 俺としては、武器屋までの道のりと店の主人との顔合わせで報酬として充分だった。荷物などはアイテム・ストレージに格納できるか試してみたが、問題なくできたので三回のところを一回ですんだ。


(アイテム・ストレージってほんと便利だな。これなら冒険するにも最小限で済む)


 舗装された石畳を歩きながら、武器屋から冒険者ギルドに帰る途中、ルーナは不思議そうに尋ねてきた。


「どうして手伝ってくれたんです? もしかして私に惚れちゃったとか?」

「いや? 姉だったら手を貸していたと思っただけだ(まあ、それは建前で、情報を聞く出すためにも情報を持っている人間とは接点を持つべきだしな)」


 姉の名を出すのは都合が良いから、便宜上使わせて貰っている。

 俺は姉のような善意など無い偽善だ。それでも武器屋の帰り道に木登りして降りられなくなった子供を助け、産気づいた妊婦を運んで人助けはする。

 そうやって姉が意識不明になってから、亡くなった今でも「姉だったら」と考えて動く。そういった経緯があって、陽菜乃の家庭の事情にしゃしゃり出て手助けのも偽善だ。


 たぶん、誰よりも不誠実で、偽善で鍍金(めっき)だらけの男だと思う。その行き方は異世界であっても変わらない。その変わらないことがなんだか嬉しく思えた。

 そう実感していると前を歩いていたルーナがくるりと振り返った。愛くるしい耳と尻尾が揺れる。人懐っこそうな笑みと、アーモンドのような大きな瞳が向けられる。

 最初に出会った軽薄さはいつの間にかない。


「ふーん。お姉さんはすごいんですね」

「ああ、生きていたら、もっとすごいことをする人だとは思う。俺なんかよりも、ずっと眩しい人だったからな」

「コウガ――さん、でしたっけ」

「ん? ああ」

「受付嬢ってだけで色目を使う人や下心ありきの人が多い中、お姉さんの真似と言いながらも困っている人がいると助けようとするコウガさんも中々にストイックで、硬派だと思いますよ♪ 何だか惚れちゃいそうです。ミャハ」

「は?」


 どこに惚れる要素があったのか不明だったが、きっと猫人族の気まぐれ(ジョーク)だと思うことにした。その後、陽菜乃は「だから言ったじゃないですか!」と叫ばれたのは、言うまでもない。俺としては非常に解せぬ。



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