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第4話 呪いがあるとか聞いてない

 

 床に倒れていたカボチャ頭の案山子は声を荒げた。確かに目が覚めてあんな姿にされたら叫びたくもなる。マイハニーは意味不明だけれど。


「この世界に召喚される際、なんらかのトラブルが起きて、人ならざるものに転生したんじゃ……って、誰がマイハニーよ」


「あ、マイハニーにはツッコムのか」と、この場にいる全員が思った。ダリアはこの世界の《転移転生》について説明を挟んだ。きっと南瓜が煩くて折れたのだろう。


「この星がエネルギーを取り込んだ際に君たちも一度、星の動力源に取り込まれて改めて、この世界で適用できるように《転移転生》しているのよ。私は兎人族として聴覚と脚力が比較的に向上している。君たちもそれぞれに冒険できるぐらいの基礎スペックは高いはずよ」

(なるほど、転移しながらも、この世界で生きるために様々な種族として転生した――だから《転移転生》か)


 改めて南瓜の案山子という姿というのは、騒いでいるコイツだけだ。ケモ耳姿や、ちょっと耳が長い、背丈が子供サイズと人型に近いのであまり違和感はない。


(――にしても、あの南瓜の案山子だけは異様なような?)

「うぐっ。マイハニーはマイハニーだよ。どんなに姿や声が変わっても、オレには自分の嫁さんだってわかる。オレが元の世界の姿に戻ったら、……いやせめて人型、耳長とか百歩譲って獣人の姿なら。ハニー、案山子って扱い酷くない!?」

「酷くない。というか君の場合、種族はちゃんと人族だけれど──」

「けどなに!? なに怖い」

「……呪われた装備がついているわ」


 沈黙。カボチャ頭の案山子は固まった。


「う、嘘だろううううううううう!? 嘘だと言って! 呪いってオレ、何か悪いことしたぁあああ? 嫁さんが大好き過ぎて同僚に自慢とかしたのがダメだったのか!? リア充爆発的な、呪われろ的な? いやああああああああああああああ!」


 カボチャ頭の案山子が元はどんな人間だったか不明だが、雰囲気からして賑やかで周りを明るくするような人だったのかもしれない。その証拠に頭を抱えつつ、体を拗らせた姿は申し訳ないが思わず笑いがこみ上げてしまう。本人的には必死なのだろうが。


(俺は普通に人間の姿でよかった……)

「さて、話はいったん終わらせて──」

「ちょ、オレの話を無視しないで!? 泣いちゃうよ? ねえ、マイハニー」


 どさくさに紛れてカボチャ頭の案山子はダリアの腰に縋りつこうとするが、再び足蹴りを食らって地面に倒れた。HPゲージがまた少し削れる。


「じゃあ村を案内するからついて来て♪」


 カボチャ頭の案山子を無視して、ダリアは建物から出て行ってしまった。「どうしようか」と周りを見渡す人たちがいる中、俺は迷わずにダリアの後について行く。陽菜乃も同じことを考えていたようで目配せした後、一緒に神殿を出る。


 カボチャ頭の案山子は子供のように泣き喚く声が聞こえ、声をかけるか逡巡したが「ちらっ」と目があった。


『南瓜の案山子がコチラを見ている。助けますか?』と言うテロップが見えそうだ。


(――というか、嘘泣きかよ……)


 泣きマネのカマッテちゃんだと察し、面倒くさいので無視することにした。



 ***



「ん……」


 外の明るさに軽く目が眩む。

 次の瞬間、紺碧色の青空と雲、大空を我が物顔で飛行するドラゴンの群れが目に入った。悠々と飛び回り、旋回する姿は村から離れた距離からでも圧巻の一言だった。


 どうやらこの神殿らしき場所は、村を一望できる高台に建てられているようだ。遥か彼方の山岳地帯には碧の木々が連なり、村の周辺には淡い桃色の花が咲き誇っている。

 道中にも四季折々の花があるが、中でも花びらが幾重にも重なっておりラナンキュラスという花が多くみられる。柔らかな風が花の香りを届けてくれた。


 甘く独特の香り。揺らぐ花の一輪一輪に思わず足が止まった。なぜか桜色の鮮やかな情景は脳裏に過る。


「この花──」


 胸がざわつく。けれどその理由がわからず、形容しがたい感情が渦巻いた。複雑に入り混じった怒りと──。


「綺麗でしょう。魔王が世界の理を書き換えたときに生まれた花、(リーベ)と言うらしいわ」

「リーベ……」


 なぜか吸い込まれるような花だ。

 ひとしきり花を愛でた後、村へと視線を向ける。

 白と黒の石畳が特徴的だ。広場の周囲には瀟洒な家々が建ち並んでおり、ゲームで連想される西洋ファンタジーらしい光景で、中央広場には巨大な水晶の塊が太陽の日差しによって白銀に煌めく。


「本当に俺たちのいた世界じゃないんだな」

「ですね。……でも、綺麗です」

「でしょう。さっきの高台の神殿は、異世界人が転移転生されてくる場所なのよ。ざっと見てわかるように、この村の人口は百人未満で全てが職人か冒険者、ギルド会館で働く事務員や農家の人たちは職人ギルドの枠に入っているわ♪」


 職人ギルドの職種が幅広くあるのなら、冒険者と兼業しつつ生活費を稼ぐのもありかもしれない。ダリアに付いて来た数人も村の景色を見て、興奮している。ファンタジー世界を見ればその反応は分からなくもない。

 ダリアは途中で立ち止まり、村の建物を指さした。


「中央広場の傍に、少し大きな会館が見えるでしょう。あれは冒険者ギルドと職人ギルド。本館と別館として分かれているわ。それと君たちがお世話になる宿は、そこから北に歩いてだいたい十分ぐらいのオレンジ屋根の建物。防具や武器はギルド会館でも揃えているけれど、特注品を作りたいなら、南に工房がいくつかあるわ。黒煙が上がっているでしょう」


 ダリアは世間話をするような気軽さで説明するものの、そこに深刻さや違和感はない。ただ説明が上手いというか、案内をし慣れている感じがあった。おそらく定期的に転移転生した人たちの対応をしているのだろう。だからこそ異世界人の受け入れ体制が整っているのも理解できる。


(どちらにしても、ここは慎重に──)

「煌月先輩は職人と冒険者どちらの登録を考えています?」

「そうだな……」


 隣を歩く陽菜乃を見る。

 彼女は朗らかで明るい表情をしているが、異世界という非日常に対して不安や戸惑いがあるのだろう。さっき誤って指先に触れてしまったが、とても柔らかくて──じゃなくて、手が冷たかったのだ。


 陽菜乃が無理をしているときは笑顔で繕う。それがあまりにも完璧なため、困っていることに周囲が気づかないなんてことがあった。元の世界でしていたように何も言わず陽菜乃の冷たい手を掴んだ。


「!」

「ま、まずは冒険者と職人について情報を集めてからだな。兼用ができるのなら後でメインを変えることもできるだろうし」

「はい!」


 小さく笑う陽菜乃の姿は女の子って感じで可愛い。姿が違っても仕草や雰囲気は変わらないと安堵し、同時に自分の恋心に嫌でも自覚させられる羽目になったが。

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