表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/35

第29話 竜狂化

 周囲が真っ赤に染まって、視界が狭まる。

 体が熱く、形容しがたい憤怒が全身を駆け巡った。


(……陽菜乃が、彼女が死ぬ!? いや死んだ? 嘘だ。そんなの耐えられない――――ッ!)


 気づけば俺は《竜狂化》を起動させていた。

 興奮状態と、生きるか死ぬかの瀬戸際だったのもあるだろう。何より陽菜乃が――死ぬかもしれないという状況にリミッターが砕け散った。

 ステータス画面を開いていないのに突如『《竜狂化》強制発動を確認しました』と赤文字のテロップが表示された。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 全身を激痛が襲い、神経が沸騰して焼き切れる寸前だった。

 レベルが足りない代償か激痛に苛まれながらも硬化していく拳を握りしめ、守護戦士に殴りかかる。


(壊れろ、壊れろ、壊れろ!)


 盾でガードされたが構わずに殴り続け、盾が俺の血で赤銅色に染まっても拳を突き続けた。


(弱いままでは何も守れない。強く、世界を滅ぼすほどの力がほしい。いや、よこせ!)


『■■っ、起動率35.587……889……40を超えましたので、両腕竜鋼化を発動』とテロップが上書きされる。

 するとガンガンと殴り続けていた拳の威力が徐々に上がり、盾がぐにゃりと歪み始め──盾ごと守護戦士の顔面を殴り飛ばした。

 直後、ドスドスッ、と鈍い音がした。


「──っ、あ」


 背中に何かが刺さり、振り返ると弓使いが矢を放っていた。背中は鱗が生じ硬化したことで大して痛くはない。

『68.476……肉体硬化、武力増加、武力超増加……』と更なるポップアップが表示された。


 さっきまで体を動かすだけで痛かったのに、途端に痛みが消えた。

 平坦な声も遠くに聞こえる。

 走って口から血が飛び散っても、矢を受けても痛みはない。


 ただ俺の脳裏に過る彼女の笑顔が──。

 陽菜乃の死が、目の前から消えることが、どうしようもなく耐えられなかった。


「ひゅっ……奪わせるか」


 地を這う声が漏れた。自分の声とは思えないほど、低くしゃがれた声だった。

 度し難い感情が噴き出す。どうしてここまでの思いを今まで忘れていられたのだろうか。


 全てを焼き尽くすほどの殺意。激情。

 弓使いの放った矢を素手で掴み、投げ返した。頭に当たったのか弓使いは破損した肉体を修復しようとする。黒魔獣は漆黒花である核を破壊しなければならない。


(破壊、しないと、陽菜乃が殺される。この一帯全てを灰にすれば安全だろうか)


 物騒な考えだけがぐるぐると思考がまとまらない。もっと大事なことがあるはずなのに、思い出せない。


『××の聖剣も、××の体もなくなったんです。これで私たちが殺し合う理由はありません。そうでしょ、先輩』


 所々ノイズが入るものの、彼女の声が脳内でリピートされる。

 あまりにも強烈な言葉に衝撃を受けた。

 忘れていた記憶。《《意図的に削られた》》──《《言葉》》。


(《《殺し合う》》? 俺と──陽菜乃が?)


 俺の攻撃が止まった刹那、狙っていたのか守護戦士が笑った気がした。


「■■■■っああああああああああ!」


 千載一遇ともいえる数秒を無為に過ごし、守護戦士は肉体の修復を終えてしまった。


「しまっ……!」


 体を動かそうにも息をするのがやっとで、忘れていた激痛が今になってやってくる。

 守護戦士は荒い息を吐き、一直線に突っ込んできた。


(間に合わな──)


 刹那、ブレスレットから青白い光と共に魔法陣が生じた。あまりにも眩い光に目を細める。


(あれは──転送魔法)


 ふわり、と甘い香りがした。

 長い黒髪を靡かせ、美女が突如目の前に飛びこむ。

 彼女は──。


「サカモトさん……、シロさん、ムラサキさん。すみません」

(なんで……)


 彼女は巨大な手甲(ガントレット)で守護戦士に寄生した漆黒花の核を飴細工のように砕き、弓使いとの間合いを一瞬で詰め――突き一つで核を粉砕。空間に溶け込んで背後に立ち回った暗殺者も巨大な手甲の一撃で砕け散った。


 シュウウ、と手甲の関節部分から水蒸気が漏れる。

 あまりにも一瞬で現実味が感じられなかった。

 振り返った彼女は──今にも泣きそうな顔をしている。


(なんで陽菜乃が……)

「先輩っ、煌月先輩!」


 これは夢なのだろうか。

 真っ白な騎士服に身を包み、肩や太ももなど露出の高い姿は、自身のプロポーションを誇るかのようだ。両腕の巨大な手甲は物々しいもののよく似合っている。《《長い黒髪に美しい卵形の顔》》。今まで一緒にいた陽菜乃とは全く違う姿なのに、意志の強い漆黒の瞳を俺はよく知っていた。

 元の世界の陽菜乃の姿。

 なぜ、どうして。そんなのはどうでもよかった。


「陽菜乃」


 彼女が生きている。その事実に《竜狂化》の暴走が解除された。

 膝に力が入らず崩れ落ちた俺を彼女は受け止める。


「先輩――、私は――っ」


 陽菜乃が耳元で何か言っているが、聞こえない。

 ただ肌に感じる温もりは本物で、彼女が生きていると思うと、泣きそうなほど嬉しくて──安堵した瞬間、意識が途切れた。


楽しんでいただけたのなら幸いです。

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡


お読みいただきありがとうございます⸜(●˙꒳˙●)⸝!


最近の短編。全て1万前後

【短編】私悪役令嬢。死に戻りしたのに、断罪開始まであと5秒!?

http://ncode.syosetu.com/n0205kr/ #narou #narouN0205KR


【短編】

初夜で白い結婚を提案されたので、明日から離縁に向けてしっかり準備しますわ

http://ncode.syosetu.com/n3685kr/


【短編】え?誰が王子の味方なんて言いました?

http://ncode.syosetu.com/n7670kr/


新作連載のお知らせ

深淵書庫の主人、 鵺は不遇巫女姫を溺愛する

時代は大正⸜(●˙꒳˙●)⸝

今回は異類婚姻譚、和シンデレラです。

https://ncode.syosetu.com/n0100ks/1/ #narou #narouN0100KS


同じく新連載

ノラ聖女は巡礼という名の異世界グルメ旅行を楽しみたい

https://ncode.syosetu.com/n2443ks/4/ #narou #narouN2443KS


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

(↓書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください↓)

https://potofu.me/asagikana123

html>

平凡な令嬢ですが、旦那様は溺愛です!?~地味なんて言わせません!~アンソロジーコミック
「婚約破棄したので、もう毎日卵かけご飯は食べられませんよ?」 漫画:鈴よひ 原作:あさぎかな

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

【単行本】コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(↓書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください↓)

https://potofu.me/asagikana123

html>

訳あり令嬢でしたが、溺愛されて今では幸せです アンソロジーコミック 7巻 (ZERO-SUMコミックス) コミック – 2024/10/31
「初めまして旦那様。約束通り離縁してください ~溺愛してくる儚げイケメン将軍の妻なんて無理です~」 漫画:九十九万里 原作:あさぎかな

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

攫われ姫は、拗らせ騎士の偏愛に悩む
アマゾナイトノベルズ(イラスト:孫之手ランプ様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

『バッドエンド確定したけど悪役令嬢はオネエ系魔王に愛されながら悠々自適を満喫します』
エンジェライト文庫(イラスト:史歩先生様)

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ