第22話 行方不明の冒険者たち
「……ルーナ!」
「はぁい。コウガさん、おかえりなさぃ」
彼女はギルド職員であるルーナだ。猫人族で頭に髪と同じ茶色い耳があり、感情の変化が耳や尻尾に出やすい。俺たちと同じくらいの年で、愛嬌があってギルド内でも人気だとか。
「ふふっ、貴方の専属担当職員ルーナですぅ」
「そんな制度無いだろう」
「そうです、職権乱用はやめてください!」
陽菜乃は素早く俺の腕に抱き着いた。胸が当たって、いや押しつけられているのだが。嬉しいけれど──じゃなくて話が進まない。
「ハーレム、羨ましい。オレだって本来の姿に戻ったら……!」
「ふむ。ギルマスに後で伝えておこう」
「やめてやめてやめて! 冗談だから!」
後ろでジャックと瀧月朗はまた変な話をしているが、今はそれよりも行方不明者の件だ。サクッと二人をスルーしてルーナに尋ねる。
「以前にもあの大森林で、行方不明になった冒険者はいたのか?」
「いえ。旅人または商人ならありえますが、冒険者では死亡はあっても行方不明にはならないのですが……」
そうルーナは笑顔を曇らせて答えた。
《迷宮の大森林》では、Cランク以上であれば結界を張って野営することも可能で、森の中間にはコテージなどの出張ギルド会館が設置されている。村や町程の結界はないものの、それでも常駐警備体制もしっかりしているとギルマスが話していたのを思い出した。
「そういえば前に地図で《迷宮の大森林》の奥に、《ミミズクの館》と書かれた場所があったが、ここの可能性は?」
「え!?」
俺は書庫で見つけた地図の写しをカウンターテーブルに広げた。ルーナはギョッとして俺を凝視する。何故、このタイミングで距離を詰める必要があるのだろうか。
「《ミミズクの館》、これをどこで見つけたんですぅ?」
「書庫を漁っていたら古い文献に記載してあった。ちなみに現在ギルドが発行する地図には載ってない」
「ちょっと、先輩から離れてください」
冒険者ギルドから支給された地図には《迷宮の大森林》とだけある。陽菜乃が俺の腕に抱きついて引き寄せた。ヤキモチを焼く陽菜乃も可愛い、と口元が緩む。
「む、その文献には他になにか書いてありましたぁ?」
「そうだな。レーヴ・ログができて間もないころ大森林には小さな集落と館があった、という話なら読んだが」
「内容とか覚えていますぅ?」とミーナは探るような目を俺に向ける。どこまで話すべきかと陽菜乃を見たらルーナに対して勝ち誇った顔をしていたので、とりあえず分かっていることをある程度話すことにした。
「ああ、そこにはある夫婦が豪華な館を建てて暮らしていたが夫婦の死後、その館を守るかのように木々が急成長して、いつしかその周辺は《迷宮の大森林》と呼ばれるようになったってとこまでだ」
「……これはCランクに昇格して《迷宮の大森林》への立ち入り許可が出た際にお伝えしているのですが、今回は特別ですぅ。《ミミズクの館》の存在確認のため何度か実地調査を冒険者に依頼しましたがその結果、館に関しての情報はAランク以上の冒険者のみが閲覧可能らしいですぅ」
ここでもランクによる情報閲覧制限が出てくる。この世界においてランクやレベルは情報を得るための重要なステータスだ。Fランクの俺たちに、その情報を入手する資格はない。
「もっとも《迷宮の大森林》自体はCランクの冒険者ならさほど危険はありませんし、EやDランクの冒険者でも《迷宮の大森林》を通らずに旅人や商人向けの街道もあるので、そちらから次の村や町に行くことも可能ですぅ」
(誤って、それとも探し人が《ミミズクの館》にいると、《夜明けの旅団》のメンバーが確信して乗り込んだ──としたら?)
思い出すに守護戦士のシロは探し人に力を入れていた。もしその場所に大切な人が居るのなら行ってみる価値はある。
「もし誤って《ミミズクの館》へ迷い込んだのだとしたら、Aランクの冒険者に依頼する必要が出てきますね! さすがコウガさんですぅ」
「ん、ああ……」
生返事しかできなかったがルーナは気にせず頭を下げて、奥の部屋へと消えてしまった。もう少し情報を聞き出したかったが失敗に終わった。俺は地図をしまおうとしたが陽菜乃はジッと《ミミズクの館》へと視線を向けている。
「気になるのか?」
「ええっと、はい。……場所というよりも何故、《ミミズク》なんでしょうね」
「さあな。魔物使いとして使役していたからじゃないのか? それとも梟好きとか?」
「ミミズクって一部を除いて梟類に含まれるらしいですけれど、日本ではアイヌ神話の中に梟の神が出てくる神の叙事詩がありますし、古代ローマ神話のアテナ、ミネルヴァという女神の聖鳥として扱われたことから《知恵の象徴》とも言われていました。そう考えると《ミミズクの館》には、この世界の叡智が隠されているのかもしれません」
陽菜乃は驚くほど元の世界の知識、伝承や伝説などに詳しい。だからこそそういった情報をすらすらと語ってくれる。
「陽菜乃は伝説や伝承とか、その手の話をしている時は本当に楽しそうだな」
「そ、そうですか」
照れくさそうに笑う陽菜乃に、自然と口元が緩んでしまう。
「ふむ。何にしても無事ならいいが」
「森の中で遭難とか嫌すぎる。まあ、あのメンバーなら大丈夫ジャン?」
瀧月朗とジャックの言葉通りで俺たちにできることはなく、その日はギルド会館で換金を済ませて解散となった。Cランクのサカモトたちの実力も知っていたので、きっとすぐに見つかる。そうどこか楽観視していた。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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