宇宙運送
「だから、静かの海に今日中はワープ使わないと無理ですって。今まだイオですよ。ただでさえ間に合うか怪しいのに、検問やってるみたいで渋滞ですよ......え?Uターンって?間に合わなくなりますよ?」
俺は四次元通信で言われたように仕方がなく貨物船をUターンさせ、木星の衛星<イオ>の方へ進路を向けた。電話の相手は検問と聞いて何か焦っているようだったが、それはやはりこの積み荷に理由があるのだろうか。報酬がよかったし、ちょうど帰り道だったので引き受けた仕事だが、何を積むのかは教えてくれないし、木星周回軌道上の古びた工業衛星から、月の静かの海まで急遽木星標準時間で今日中に届けろと言うのだから参った。ゆっくり帰る予定だったのに、これでは楽しみにしていた火星上空のスペースインでご飯を食べて天の川眺めながら風呂に入るのもパーだ。
『そこの貨物船。止まりなさい』
突然誰からか通信が入った。四次元通信のような長距離からのものではない。とても近い距離からの通信だ。
『ナンバーFT-119。そこで止まりなさい』
きっとこの荷物のことなんだろうけど、全部積んだ人の責任にすればいいし、ここは言うことを聞こう。
『積み荷を確認してもいいですか?』
「何かあったんですか?」
無線機ごしにその保安官らしき人に質問を返す。
『ちょっとね』
保安官らしき人は言葉を濁した。
俺の船に近づいてきたそれは紛れもなく保安官のものだったので、俺は背中に入っていた力を抜いて背もたれにもたれかかった。
『IDを』
俺は保安官の船に自分のIDを転送した。
『......開けても?』
「どうぞ」
荷台のロック解除ボタンを押して、保安官を招き入れる。十秒くらいして、荷台から強く叩くような衝撃が船全体を揺さぶった。
「なんだぁ!?」
俺は椅子から飛び上がり、後方の映像を映すモニターを開くと、荷台が丸ごと無くなっていた。
瞬間、俺の船の正面にまばゆい光が差し込んで、思わず目を瞑る。
『後は我々が運搬する。このことは忘れろ』
その通信が聞こえて、外の光が薄くなったので目を開くと、遠くの方に船が大きな火を吹いて飛んでいるのが見えて、その後方に俺が運んでいた荷台が取り付けられているのがわかった。
一体その船は何者で、俺は何を運んでいたのだろうか。