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想像

作者: 井上 カヲル

 ある半地下のカフェに通う男がいる。彼はもう5年近くカフェに通っている。毎月の第3日曜日の午後1時に必ずカフェに来るのだ。そのほかにも彼には規則性があった。それはどんなに待っても必ずテーブル席に座ることであり、カウンター席に座ることは決してなかった。

 しかしそのどれを差し置いても奇妙だったのは、注文を必ず二人分することだった。ある日はブレンドコーヒー2杯とバスクチーズケーキとシフォンケーキを頼み、またある日はカフェオレとアメリカンに桃のロールケーキとハムサンドウィッチを頼んだ。そのセットを一つは自分の方に、もう一つは向かい席に置いた。そして例外なく、それらを残さずに食べた。向かい側に置いた料理もだ。

 彼は食事中に携帯を見たり、本を読んだりはしない。ただ飲み食いしている間は誰かが座るべき場所を見つめている。そして時々微笑んだりする。

 私はマスターに、彼がいつからあのような習慣をするようになったのかを聞いてみた。

「5年くらい前からだね。」とマスターは言った。

 それまでは?

「よく奥さんと来ていたよ。でもある時を境に全然来なくなった。」

 何かあったの?

「わからない。でも来なくなってから半年くらい経ってからあの習慣を始めたね。」

 これ以上をマスターに聞くことはなかった。マスターはこれ以上彼のことを知っているわけはなかったし、彼もそれだけ話すとコーヒーを入れ始めてしまったからだ。

 このような人間がもし君の近くにいたとしたら、君は彼を妄想に取り憑かれた病人だと思うかもしれない。しかし彼は健康そのものだ。それは食事を残さないことや帰り際には必ずマスターに笑顔で「ご馳走様」と言うことからわかる。精神を病んでいる病人にはこのような行為はできない。

 だから彼はただ想像しているだけなのかもしれない。もしくは彼は自らの記憶を思い出しているだけなのかもしれない。

 どちらにせよ、私たちは彼の心象を覗き見ることはできない。しかし彼が奥さんに対してどれほどの愛しみを持っていたかは分かるはずだ。

 そんなことを、僕は想像した。


思い立って書いた。

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