9.初恋の天使〜sideランドル〜
私は、急に後ろから声をかけられた事に驚き驚いて振り返った。
すると、そこには見知らぬ少女が一人立っていたのだ。
私が、少女を見て驚いていると…
『?そんなとこに立ってたら危ないですよ?落ちたら大変だわ…お兄さんもう少しこちらへ来て景色でも眺めた方がいいですよ?』
その少女は、私の事を不思議そうに眺めて言った。
『いや、景色を見ていた訳ではない。落ちてもいいのだ。その為にここに来たのだから。だから、心配は無用だ。』
私は、何故だかその少女に自分は死ぬつもりだと言うことを遠回しに伝えた。
『落ちてもいいと?お兄さん!もしかして、そこから飛び降りて死のうとしてたのですか?』
少女は、私の目をじっとそらす事なく見ながら直球で尋ねてきた。
私は、まだ子供だと言うのにあまりにも直球で聞いてくるので驚いた。
『あぁ、私は、もう生きてる事に疲れたのだよ。』
(私は、こんな少女に何を言っているのだ…自分の死など初めて会ったこの子にとってどうでもいい事だと言うのに…)
私は、少女に伝えるとその伝えた事に対して何を考えているのかと内心思っていた…
『では…お兄さんが飛び降りる前に少しお話でもしませんか?お話でもした方がリラックスして飛び降りる事ができそうじゃないですか?』
少女は、ニコリと微笑みながら私に提案してきた。
私は、少女があまりにも予想外の事を言ったので驚いたが、何故だか最後に人と話すのも悪くないと思ってしまったのだ。
『……。ああ…では、少しだけ…』
私は、小さな声でボソっと応えた。
『良かった!では、こちらへ来てここへ座ってお話しましょう。』
少女は、私を手招きしながら言った。
私は、崖から離れて少女が立っている場所まで歩いた。
そして、少女の横まで行くと二人で腰をおろした。
『お兄さんのお名前は?私は、ルージュと言います。』
その少女・ルージュは、私へと尋ねてきた。
『私は…ランドルだ…』
私は小さく応えた。
『ランドルか…いいお名前ね。ランさんと呼びますね。ランさんは…何故生きてる事が嫌になったのですか?』
ルージュは、私の名前を褒めた後で尋ねた。
『……。任務である敵国との戦いで私を…私を助ける為に私を庇い大切な友が死んだのだ…私は生きなければならない存在だと言って…自分が死んでも困る人は居ないからと…しかし、私はマイケルが命を落としてまで生かされる様な人間でない…こうして、友の死から立ち直れないでいる…私の方こそあの時に死んでいれば良かったのだ…』
私は、何かの糸が切れたかの様に目の前にいるまだ子供のルージュへと吐き出した。
『マイケルさん?は、ランさんがその様な人ではないと知っていたから自分の命を捨ててまでランさんを庇ったのではないのですか?』
ルージュは、真っ直ぐと私の目を見て言った。
『子供のお前に何がわかると言うのだ?大切な人に自分の命を捨ててまで守られて、その罪悪感と喪失感に苛まれた生きてきたこの数ヶ月間を…お前の様な子供にまで哀れみの籠もった慰めなどいらん。』
私は、思わず子供相手に声を張り上げて言った。
知ったような口で言われる慰めの言葉にはうんざりしていたからだ。
『……。わかりますわ…』
ルージュが、ボソリと呟いた。
『えっ?』
私は、ルージュの呟きに思わず声を漏らした。
『……。私の母は、九年前に私を産んだの引き換えにこの世を去りました…なので、私は母に抱かれた事は一度もありません。その話を父から聞いたのは二年前の事でした。私は、あまりのショックで泣き崩れてしまいました。ですが、父は私に言いました…この話をするのは自分を責めて欲しい訳ではなく、母の思いを胸に母の分まで生きてほしいと思っているからだと。実際、私を産んだ事が原因で母が亡くなりましたがその事を私のせいだと父や兄達から責められた事など一度もありません。むしろ、沢山の愛情を注いで貰いました。話を聞いた時は私も自分のせいだと自分を責めたけれど父の話を聞き、自分を責めることをやめました。責める暇があるならその分その時その時を大切に生きようと思う事にしました。なので、ランさんも自分を責める前にマイケルさんが自分の命を捨ててまで守ってくれた意味をはき違えないで下さい。ここでランさんが、死んでしまったらマイケルさんが命をかけた意味がなくなってしまいます。今この時にもランさんを必要している人達が沢山いるはずです。生きるのが辛いならその辛さから逃げずに、マイケルさんの分まで生きてくだい。』
ルージュは、ニコリと微笑みながら私へと話をしてくれた。
私は、ルージュの話を聞いて驚きと共に自分の不甲斐なさと愚かさも思い知らされた。
まだ、九歳の子供だというのに辛い思いをしてもこんなにも強く気持ちを持って生きている事。
そして、何歳も年上の自分が子供に言われて気付かされたこと…
しかし、不思議とルージュの話を聞いて心がとても軽くなった気がした。
この数ヶ月間、マイケルの死という枷をつけて生きている様だったがその枷がガチャりと外れた気がしたのだ。
(ルージュの…言う通りだな。こんな所で私が死んだとしてもマイケルのとこには行けないし、マイケルにも顔がたたないな…マイケルが命をかけて守ってくれたこの命を無駄にする様な事はもう…やめよう…)
私は、ルージュの話を聞き自分の中で決心したのだ。
『あっ!そうだわ…忘れてたわ…ラン様、私からお話しましょうなんて言っておいて申し訳ありませんが、私そろそろ行きますね。あっ、そうだ…これを…』
私が、ルージュの話を聞き色々と考え決心しているとルージュが何かを思い出したかの様に慌てて声を出した。
そして、ポケットから何かを取り出して私の手に置いた。
『これは……?』
私は、自分の手に置かれた物を見てルージュへ尋ねた。
『これは、先程見つけた四つ葉のクローバーです。前に本で読んだのですが、これを持っているとその人に幸運が訪れると言われているのです。三つ葉のクローバーの中に四つ葉があるのは稀な事なのです。ですので、これを持っているときっとランさんにも幸運が訪れますわ。だから、生きる事を諦めないで下さいね…あっ、後こちらも良かったら食べて下さいね。この丘でしか食べることが出来ない物なんです。とても甘くて美味しいんですよ。それでは、私はこれで失礼しますね…さよなら…』
ルージュは、四つ葉のクローバーの事を説明してくれ満面の眩しい程の笑みを浮かべながら私へと言って去っていったのだった…
私は、そんな笑顔を見て一瞬でルージュに恋に落ちたのだ…
十四歳も下の少女に…
二十三年間、女性とは社交場で何度か会った事はあるがこんな気持ちになどなった事はなかった…
これが…私の初恋だったのだ…
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