6.予期せぬ求婚
あまりにも突然の事にルージュは呆然としていた…
「ルージュ?」
そんな、ルージュを見て声をかけたのはパトリック辺境伯家の長兄・カイルだった。
「え?あっ…はい?あっ…カイルお兄様?いつお帰りに?」
ルージュは、カイルに声をかけられハッとなり言った。
「はは…一時間程前に帰宅したんだよ。ルージュ…久しぶりだね。父上から昨日の話は聞いたよ…大変な目に遭ったな…だが、ルージュが思ったより大丈夫そうで良かったよ。相変わらずルージュは強いなぁ…」
カイルは、久しぶりに会う妹を気遣うようにルージュへと言った。
「本当に、お久しぶりです。カイルお兄様とお会いするのは三ヶ月ぶりです。お兄様も変わりなくお元気そうです良かったです…それで…その…」
ルージュは、久しぶりに会うカイルに笑顔で言うとチラリとカイルの横にいるオパール公爵を見た。
「あぁ…この方は、オパール公爵でありながら軍の大佐で、私の直属の上司であるランドル・オパール公爵様だよ。この度、ルージュに結婚の申込みをされる為に訪れて下さったのだ。」
カイルは、笑顔でルージュへと説明した。
「ルージュと殿下の婚約が破棄になり、その事が原因でルージュの嫁ぎ先がこの先あるだろうかと心配していたが、こんなにも立派な方からの結婚の申込みがあるなど…先代のオパール公爵には、私も軍にいた頃にお世話になった。とても立派な方だった。息子のオパール公爵もとても立派な方だとカイルから聞いていた。こんなにも良い縁談お受けしない訳がない。私はとても賛成しているよ。」
ディーンは、嬉しそうにルージュへと話をした。
(ちょ…ちょっと待って待って…突然何を言い出すかと思ったら、私が結婚ですって?昨日、殿下と婚約破棄した私が?ようやく前世の記憶通りに婚約破棄になり、これから平凡ライフへの第一歩を踏み出そうとした日に?ええーーー。こんな事ってあるの?それに、オパール公爵って誰なの?いや…カイルお兄様のお話によく出てきてた人か…いや…それより前世で杏理が話してたオパール公爵ってどんな人だった?んー、本当にあまり聞いていなかったのよね…ルージュ、思い出すのよ…)
ルージュは、目の前で起きている事に頭が追いつかないまま考えていた。
そして、前世でルージュの友達だった杏理が話していた小説の内容を必死に思い出していた…
※
『それでね、オパール公爵っていうダンディな公爵がいるんだけど…って聞いてるの?』
杏理が、栞へと言った。
『え?聞いてる聞いてる。』
栞は、うんうんの頷きながら応えた。
『本当に?まぁいいや…それでね、その公爵は凄く渋めのイケメンなんだけどある戦いで自分の戦友であるとても大切な仲間が、オパール公爵を庇って死んでしまったのよ。オパール公爵も左目を負傷したんだけど命は助かったのよ。でも、自分を守る為に死んでしまった友を思うとその事が耐えられなくなり崖から飛び降りて自殺しちゃったのよ…何とも悲しい話よね…』
杏理が、小説を思い出しながら切なそうな表情で栞へと語っていた。
『それは、悲しい話だね…』
栞は、話を聞きながら言ったのだった…
※
(そうよ…確か杏理の話だとこの目の前にいるオパール公爵って自殺したんだったわよね?どうして生きているのかしら…私の聞き間違いかしら…いや、そんな事ないわ…確かに杏理は、オパール公爵は自責の念で自殺したって言ってたわ…なら、どうして生きているのかしら…しかも、生きていて私に結婚の申込みなんて…もう…前世の記憶どうなってるのかしら…全然あてにならないじゃないの…)
ルージュは、前世で杏理が話していた事を必死で思い出していたが、前世の記憶と目の前の現状が合っていない事に頭の中は混乱していた。
そんな事を考えていたルージュの表情は、気づかぬうちに険しくなっていた…
「私との結婚は嫌だろうか………?」
そんな、ルージュの表情を見て声をかけてきたのはランドルだった。
「え?あっ…いえ…そういう訳ではないのですが、急なお話で驚きまして…それに、私はオパール公爵様の事をよく知りませんので…」
ルージュは、ランドルに声をかけられ我に返り少し困った様は表情で応えた。
「オパール公爵様を知っていくのは結婚してからでも出来ることではないか?」
ルージュの言葉を聞いたディーンが、にこにこと微笑みながらとても嬉しそうな表情でルージュへと言った。
「パトリック辺境伯の言うとおりだ…その…これから…共に生活をしながら…私の事を知っていってくれるといいと…思っている…」
ランドルも、ルージュへと言った。
ルージュは、ランドルが耳を真っ赤にさせている事に気が付いた。
(ふふ…耳が真っ赤だわ。軍の大佐ともあろうお方があんなに平然としているのに、耳が真っ赤になってるなんて…本当はとても緊張しているのかしら…ふふ…何だか可愛いわね。あんなにがたいも良く左目を負傷しているせいか傷があり一見怖くも見える方がね…)
ルージュは、ランドルの意外なところを見てそんな事を思っていた。
「ほら…公爵様もこの様に仰っていることだしな…このお話お受けすればいいと私は思っているよ。カイルとアイルはどう思う?」
ディーンは、笑顔でいい息子たちにも尋ねた。
「私は、何の反論もありません。大佐はとても男気があり立派で優秀な方ですのでルージュをお任せしてもルージュを幸せにしてくださると思います。」
カイルは、にこりと微笑みながら応えた。
「私も、兄上の意見に賛成です。やはり、兄としてもルージュには幸せになってもらいたいので。」
アイルも、にこりと微笑みながら応えた。
「カイルとアイルもこう言っている事だし、ルージュ…このお話はお受けしよう…」
ディーンは、にこにこと微笑みながらルージュへと言った。
(お父様もお兄様達も、何て嬉しそうな顔をしているのかしら…はぁ…結婚したら婚約破棄になった意味がないわね…平凡ライフが遠のくどころかそれを送ることも無理になるじゃないの…せっかく平凡ライフを送れる事を楽しみにこの数年間過ごしてきたと言うのに…はぁ…でも、このお話を断るとお父様を特に悲しませる事になりそうね…あんなに嬉しそうにしているのだから…お父様は、死んだお母様の分まで私の幸せを願ってくれているのだものね…はぁ…はぁ…あぁ…覚悟を決めないといけないのかしら…)
ルージュは、父や兄の事や亡くなった母の事を思うと断ることは出来ないのだろうと思いながら考えていた…
そして…
「……。わかりました。この結婚の申し入れ…お受け致します。」
ルージュは、腹を括りにこりと微笑みながら言った。
「そうか!では、ルージュ…この話をお受けしよう。公爵様、この結婚の申し入れ、心から嬉しく思いお受け致します。」
ディーンが、ルージュとランドルへと嬉しそうな表情で言った。
「こちらそこ…受け入れてくれて感謝する…」
ランドルは、蕩ける様な笑みを溢しながらルージュを見て言った。
ルージュは、嵐の様に舞い込んできた目の前の状況と、自分が結婚するという事実を受け入れるのに精一杯でランドルがルージュを愛おしそうに見つめながら蕩ける様な笑みをしている事などに気づいていなかったのだった………
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