30.犯人の正体
エミー達が奮闘している頃、荷台の箱の中にいるルージュは袋から頭を出した。
そう……
ルージュは、気絶などしていなかった。
気絶するフリをしていたのであった。
(前世で、おじいちゃんに教わった事があったのを思い出して試してみたけど上手くいったわね…)
ルージュは、箱の中でそんな事を思っていた。
ルージュは、一人で外へ出ていく前に準備をしていたのだった。
キャシーにコルセットを借りてきてもらい、そのコルセットを半分に折りたたみその間にかなり薄めのベニヤ板を挟んだ。
そして、それを腹部へと入れていたのだった。
そうする事で、お腹への衝撃を抑える事が出来実際には気絶させられる程の衝撃を受けなかったのだった…
ルージュは、自分が入れられている箱の隙間から外を見た。
(どうして、オパール公爵家の領地へと入って来れたのか不思議に思っていたけどこんな山道に繋がる道があったなんて…こうして領地へと侵入していたのね…それにしてもどこへ向かってるのかしら…)
ルージュは、外を見ながら思っていた。
オパール公爵家の領地から出て三十分程すると荷台が止まった。
ルージュは、止まった場所を箱の隙間から覗いた。
どうやらどこかの山の中みたいであった。
(ここはどこの山からしら…オパール公爵家の領地を出て三十分程経ったくらいの場所よね…)
ルージュが、そんな事を考えていると男達がルージュの箱の方へと近づいてくる音がした。
ルージュは、急いで袋の中へ頭を入れた。
「よし…運べ。」
男の一人が言うと、もう一人の男が箱の中のルージュを抱え上げた。
そして、荷台が止まった場所にあった小さな小屋の中へと抱えたルージュを連れて入った。
小屋に入るとルージュが袋から出された。
「まだ、気絶している様だな…もうすぐあの方がここへやってくる頃だろう…」
男の一人がルージュを見ていった。
(あの方?あの方って誰だろう…私を攫えと言った人よね…一体誰なのかしら…)
ルージュは、気絶したフリをしながら思ったのだった。
そして、小屋の前で馬車が止まる音がした。
馬車から誰かが降りてきて、そのまま小屋の中へと入ってきた。
「ご苦労様…それにしても汚らしい所ね…早く立ち去りたいわね…」
小屋の中へと入ってきた人物が、煙たそうな表情で男達へと言った。
(ん?女性?の声よね…)
ルージュは、話しているのが女性の声なので驚いた。
「これから、この女をどうするんですか?」
男の一人が、その人物へと尋ねた。
「泣き叫んでも構わず汚し者にしてちょうだい…味わった事のない屈辱を味あわせてちょうだい…その後はすぐには殺さずじっくり苦痛を与えながら始末してちょうだい…遺体はその辺に転がしておけばいいわ。どうせこんな山の中になんて誰も簡単に探しにこないでしょうからね。見つかった頃には悲惨な姿になってるでしょうね…ふふ…いい気味だわ…」
その人物は、淡々と恐ろしい事を男達へと言ったのだった。
(何なの…この人は何を言っているのかしら…)
ルージュは、目の前でその人物が言っている事にあ然として思っていた。
すると、その人物がルージュへと近づいてきた…
そして、ルージュの体を揺さぶってきた…
ルージュは、そろそろ頃合いかと思いゆっくりと目を開けた。
そして、目を開けて見えた目の前にいる人物にルージュは驚いて口を開いた。
「ナール様……?」
ルージュは、ボソリと名前を呟いた。
「あらっ…お目覚めかしら?ルージュ様…」
ナール嬢が、ニヤリと悪い笑みを浮かべながらルージュへと言った。
「どうして……ナール様が…」
ルージュが呟いた。
「どうして?愚問ですわね…そんなの…ルージュ様が邪魔で仕方ないからですよ?あなたが生きている限りサミエル様は私を愛してくださらない上に皇太子妃にもなれないのですから…あなたの存在は邪魔でしかないのです…元々あなたの事は気に喰わないとは思っていましたが…でも…これでようやく気兼ねなくサミエル様は私を愛してくださるわね…ふふ…きっとあなたの悲惨な姿を見たらパトリック辺境伯も嘆かれるでしょうね…その姿を想像するだけでもお父様は喜ばれますわ…ルージュ様の死が我が男爵家を最高の気分にさせてくれますわ…」
ナール嬢は、変わらず悪い笑みを浮かべながらルージュへと言った。
「何を言っているのですか?殿下はあなたと一緒になる為に私との婚約を破棄されたのに、何の為に私にこの様な事を…」
ルージュは、ナール嬢が訳のわからかい事を言っているで尋ねた。
「黙りなさい!本当に喰えない方ね…その何も知らない様な顔も見ていて虫唾が走りますわ…ルージュ様の顔を見るだけで私はどうにかなってしまいそうですわ…もう話す事などありませんわ…どうぞ…思う存分、屈辱と苦痛を味わいながら地獄に落ちて下さいませ…」
ナール嬢は、憎意のこもった目でルージュを睨みつけながら吐き捨てる様に言った。
そして、
「私はもう行くから後は、あなた達の好きな様にこの女はどうにでもするといいわ…」
ナール嬢が男達へと言うと、小屋から出て行き馬車へ乗りその場を後にしたのだった…
(まさか、ナール様だったとはね…驚きだわ…だけど、ナール様の言っていた事の意味がわからないわね…殿下はナール様を愛してらしたからナール様を皇太子妃にする為に、私との婚約破棄を言い渡しはずなのに…どういう事なのかしら…婚約破棄に関しては全て前世の小説の通りに進んでいたけど…違うの?いや…違わないわね…沢山の貴族がいる中、それも結婚をお披露目する場での婚約破棄だものね…それほどまでにナール様と一緒になりたかったのが伝わってくるものね…でも、何故殿下は未だにナール様との婚約をされないのかしら…だから私が何故だか逆恨みされてこんな状況になっているというのに…前世の小説の記憶にない事ばかり起きるから前世の小説に関しての記憶が全くアテにならないわ…それよりも目の前の状況をどうにかしないとよね…)
ルージュは、ナール嬢が自分を襲わせた人物だった事に驚きつつもそんな事を考えていた。
「さてと…お嬢さんよ…どうやって俺達と遊ぼうか?」
男の一人が、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべてルージュへ言った。
「おいっ。このお嬢さんよく見るといい体してるじゃないか…俺達でたっぷり可愛がってやろうぜ……」
もう一人の男も、同じ様にニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら言った……
※
その頃、エミーは公爵邸に着き急ぎグレイに事の事情を伝えルージュからの手紙を渡した。
グレイは、すぐに状況を理解して行動を始めた。
同じ頃、キャシーが軍の基地へと到着し急ぎランドルの元へと案内してもらい事情を話してルージュから渡された手紙を渡した。
そして、ランドルは手紙を読んだ…
ラン様
勝手な行動を取ってしまい申し訳ありません…
ですが、こうでもしなければ町の方々に被害が及んでいた事でしょう…
相手は、私さえいれば騒ぎは起こさないと踏みました。
誰が、何の為に私を尾行させていたのはわかりませんが私が捕まる事でその真意がわかると思います。
私も、やられっぱなしなど性に合わないので考えをきちんと持っての行動です。
ですので、こんな提案に協力してくれた四人をお叱りにならないで下さい…
お願いします…
きっと、ラン様なら私を見つけ出し助けてくれると信じています…
ルージュ
「ルー……くそっ!必ずルーを助け出す。マーク、急いでカイルを呼んできてくれ!」
手紙を読んだランドルは、悔しそうな怒りの表情を浮かべながら近くにいたマークへと言った。
そして、すぐにカイルにも伝えられカイルは急いでパトリック辺境伯邸へと向かった。
たまたま軍の基地へと来ていたハミエルにも事の事情が伝えられた。
ハミエルも、急ぎ王宮へと向かった。
そして、ランドルは急いで出かける支度をしてマークと共にルージュを探しに出たのだった。




