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13.少女の名はルージュ〜sideサミエル〜

私は、この国の皇帝の第一皇子として生まれた。

生まれた時から、皇太子…いずれは皇帝になると決まっていた…


私の母は、私が一歳の時にこの世を去った。


父は、母が亡くなり喪が明ける頃には新たな皇后を迎えていた。


そして、新たな皇后が私の二つ下の第二皇子を産んだのだった。


新たな皇后は、私にも弟にも隔たりなく愛情を注いでくれようとしていたが私はそれが逆に嫌であった。


私は、皇后が一生懸命思って接してくれている事は理解していたが心のどこかで、やはり本当の母でないと言う事が壁を作っていたのだ。


私は、皇太子であるが故に辛い事があっても弱音を吐くことも甘える事もなく耐えてきた。


しかし…私が十二歳の時、周りからの皇太子なのだからという圧力に耐えられなり何もかもが嫌になった時に、皇后とハミエルの仲睦まじい姿を目にした。


親子なのだから、仲睦まじくて当たり前なのだがその時の私には複雑な光景だった。

私が、歩み寄れば皇后は私を優しく受け入れてくれるのは分かっているがもし母上が生きていてくれたら、私が今ハミエルの様に母上と仲良くし甘える事が出来たのにと思ってしまった…


私は、王宮にいる事すらも嫌になり護衛と側近の目を盗み行き先を決める事なくただ馬を走らせた。


どのくらい馬を走らせたか分からないが、私は王宮からはえらく離れた丘へと来ていた。


「ここは…どこだろう…周りなど気にせず馬を走らせていたからな…」


私は、一人呟いた。


そして、馬から降りて馬を近くにあった木に結びつけ私は一人丘へと登った…


私は丘の頂上までは行かず、途中にある木が陰になっている場所にある大きな岩へと腰を下ろした…

思えば、幼い頃頃からいつもどこに行くのも護衛が付いていた。

この様に一人で何も考える事なく行動するなど今までになかった。


ふぅ〜と息を吐き、静かな場所で鳥の囀りに耳傾けていた。


「ここは…のどかだな…」


私は、一人この空気に浸っていた…


すると…


すぐ側にある草が生い茂ってる場所からガサガサと音がした。

私は、咄嗟に王宮を出た為に武器を所持していなかった。


(何だ?熊か?猪か?……。)


私は、何にせよ武器を所持していなかったのでどうすれば良いか考えていた…

すると…草の中から何かが飛び出した。


私は、防御の構えをして飛び出してきたものを見た。


すると…そこには一人の少女がいたのだ。


「いったーい…この草はそろそろ刈っておいた方が良さそうだわ…通りににくいったらないわ…いたたた…」


目の前の少女は、そう言うと立ち上がり前を向いたと同時に目の前にいる私に気づいた。


「えっと…どなた……?」


少女は、目を見開き驚いた表情で尋ねたきた。


「そなたこそ誰だ?こんなところで何をしている?」


私は、少女の質問に応える事なく逆に少女に尋ねた。


「何をしていると聞かれましても…私の好きな実を採りに来たのですけど…それよりもお兄さんこそここで何を?」


少女は、不思議そうな表情をしながら応えた後に再度私へと尋ねてきた。


「私が、ここで何をしていようとそなたには関係のない事だ…それにそなた私を誰だと思っ……」


私が、少女へ言っている途中でグゥ~という音が鳴った…

私のお腹の音だった。

私は、王宮を出てどの位馬を走らせたかはわからないが恐らく今は昼頃だろうと思った。

朝に食事をしたきり何も口にしていなかったので空腹になっていた様だった。


「プッ…ふふ…ハハハハハッ…」


少女が耐えられなくなったのか、思い切り笑った。


「何を笑っているのだ!!」


私は、恥ずかしさが大きくなり少女へと強めの口調で言った。


「ごめんなさい…でも…可笑しくって…ふふ…だって、岩の上でそんなに偉そうに座っているのに大きなお腹の音鳴らして…ふふ…」


少女は、涙を浮かべながら大笑いしながら言った。


「笑いすぎだ…もう昼だろ…?朝食べたきり何も食べてないのだから仕方ないだろう…」


私は、恥ずかしさを誤魔化しながら少女へと言った。


「そうなのですか?あっ…そうだわ。もう少し空腹を我慢できますか?ちょっと待っていて下さい。すぐに戻って来ますから。」


少女は、笑うのを止めたと思ったらそう言ってさぁーっとどこかへ行ってしまった。


「何なのだ…あの少女は…忙しい者だな…」


私は、少女の行動や表情がコロコロと変わる事に驚いていた。


その後、すぐに戻ってくると言った少女はなかなか戻っては来なかった…


(はは…あの様な少女にまで置き去りにされたのか…?我ながら哀れだな…)


私は、一人この場に残されている事に虚しくなり思っていた…


少女の言った事に、大人しく待っているのも虚しくなるだけなので私は馬のところへ戻ろうと思い腰を上げた…


その時………


「ごめんなさい…ちょっと色々あったので遅くなってしまいましたけど…ハァハァハァ…これをどうぞ…」


少女が、息を切らしながら走って戻ってしたのだ。


「走って戻ったのか…?それで…これは何だ…?」


私は、息を切らしながら戻ってきた少女を見た瞬間胸が締め付けられる様な感覚に襲われた。


「お兄さんをお待たせしているのに、遅くなってしまったんですもの…走るに決まってますわ。ハァハァハァ…それで…これは、私が大好きな実なのです。ここへ来たはこの実を採る為でしたから。近道の草の所にお兄さんがいたのは驚きでしたけど…さぁ…どうぞ。食べて下さい。お腹空いているのでしょう?この実はとっても美味しいのです。」


少女は、当たり前の様に息を切らせながら言うと…

採ってきたという実を私へと差し出した。


「私は…毒味していない物など口には出来ない…」


私は、ぼそりと呟いた…

実際、毒味なしの物など口にした事などなかったからだ。


「毒味…?そんな王族みたいな事言って…ふふ…毒味なら私がしますから…」


少女は、クスクスと笑いながら言った。

そして、手に持っていた実を自分の口へと入れたと思ったらもう一つの実を私のポカンと空いていた口へと入れてきた。


私は、突然の出来事に驚きの余り実を噛んでしまった。


「ねぇ?甘くて美味しいでしょう?ふふ…」


少女は、にこにこと笑いながら言った。


私は、毒味した事ないものを口に入れ噛んでしまったとにもし毒でも入っていたらと思い不安になった…

しかし…口の中へと広がる甘みを感じると不安など一気に消えたのだった…


「甘いな…」


私は、ポツリと呟いた。


「ふふ…そうでしょう?まだ、沢山採ってきたので好きなだけ食べて下さいね。」


少女は、そう言うとカゴの中にある実を私へと差し出してくれた。


「ありがとう…」


私は、一言お礼を言った。


「ふふ…どう致しまして。この実はこの丘にしかなっていないのでここでしか食べることが出来ないので思う存分食べて下さい。良かったら少し持って帰りますか?これをジャムにするのも美味しいのですよ。お母様が生きてらしたら私が作るよりもっと美味しい物になっていたのでしょうけど私が作るものもなかなかですのよ?」


少女は、変わらずにこにことしながら私へと話をしてくれた。


「そなたは、母がいなくて寂しくはないの…か…?」


私は、彼女の母も亡くなっていると聞いた途端そんな事を聞かずにはいられなかった…


「ん〜…そうですね…寂しいのは寂しいですね…ですが、お母様は私を産むのと引き換えに命を落とされたので…お母様の記憶はほぼないに等しいので…ですが…お母様が生きられなかった分、私がお母様の分まで生きて幸せになる事が亡くなったお母様の為でもあるとお父様に言われた時から、そう思って毎日を過ごしています。寂しいと思う時があったら空を見上げます。空からお母様がみてくれている様に感じられますので…」


少女は、ほんの少し切なそうな表情を浮かべたがすぐに笑顔になり言った。


その少女の話を聞くと、私は自分の皇后への態度や母が生きていたらなどタラレバの思いを抱いていた事に恥ずかしさすら覚えてしまった…


こんな少女の話を聞き、そんな事を思い知らされるとは思わなかったが何故だか嫌な気はしなかった…


「そうか…きっとそなたの母は空から見守ってくれている事だろう…」


私は、少女へと言った。


「そうですね。きっと…お兄さんのお母様もお兄さんを見守ってくれてますね…」


少女は、優しく微笑みながら私へと言った。


「??!何故…私の母上も亡くなっていると?」


私は、本当に驚きながら少女へと尋ねた。

私は、一言も母上が亡くなっているなどと言っていないからだ。


「お兄さん、私にお母様がいなくて寂しくないかと聞かれたでしょ?その時のお兄さんの表情を見たらすぐに分かりました…」


少女は、少し寂しそうな微笑みを浮かべながら私へと言った。


私は、少女の言葉を聞きまた胸が締め付けられる様な感覚に陥った。


その後も、少女とカゴの中の実を食べながら少し話をした。


私は、この丘に来て横に座っている少女と話をした事で気持ちが楽になった気がした。


そして…私はそろそろと王宮へと戻ろうと思った。


「私は、そろそろ帰ることにする…そなたはまだここへいるのか?よく考えればそなたの様な少女が一人でここまで来たのか?」


私は、少女へと帰ることを告げた後で尋ねた。


「そうですか…私はもう少しここへ居ます。まだ採っていない実を採ってから帰ります。一人で来ることは私も家族も慣れてますので。ここへは私を襲う様な危ない人や動物は居ませんから。帰りは気をつけて下さいね。あと…これを。少しだけになってしまいましたけど持って帰って下さいね。」


少女は、平然とした表情で私へと話をしてくれた。

そして、小さな麻の袋へと実を入れて渡してくれた。


「そうなのか…ならいいが…ありがとう。この実は貰って行くとする。そなたも帰りは気をつけるのだぞ…」


私は、少女にそう告げると岩から腰を上げ岩から降りた。

そして、丘を下ろうと進んだ。


私は、ふと少女の名前を聞いていないと思い慌てて振り返り少女へと声をかけた。


「そなた、名前は何と言うのだ?」


私は、少女へと尋ねた。


「?私ですか?私はルージュと申します。そして…お兄さんに渡した実は恋する実と言います。残らず食べて下さいね。」


少女の名前は、ルージュといった。

ルージュは、そう言うと満面の笑みを浮かべて手を振りながら私へと言った。


私は、ルージュの笑顔を見てまた胸が締め付けられる様な感覚と心臓を射抜かれる様な感覚に陥った。


どこか、悪いのかと不安を覚えながらも私は馬の元へと戻り王宮へと戻ったのだっ………

割と長文になってしまいました。

読みにくかったら申し訳ありません……



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