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パニック  作者: KEI 
3/3

プロローグ

ここはアメリカ合衆国首都、ワシントン。

無数の高層ビルが立ち並び、ホワイトハウス、ワシントン大聖堂、連邦議会議事堂、ジョージタウン大学などの建物が有名な都市である。

街には500万以上の人間が生活しており、周辺地域の労働者および居住者を含めると800万以上もの人々がこの街を闊歩していることになる。


その日、ワシントンは生憎の曇り空で、今朝から小雨がパラついていた。

カイル・バートンはある建物の正面ゲート前まで歩み寄った。その建物は周囲を黒の鉄柵が囲み、正面の門には厳重に武装した警備員が4名立っていた。


「おはようございますバートンさん。」


警備員の1人がカイルに声を掛けた。

カイルはニコッと微笑み、愛想良く警備員の挨拶に声を返した。


「ああ、おはようトム。なんだか今朝はうっとうしいな。」


「まったくですね。天気予報では雨は降らないと言っていたのに。」


カイルは黒の折りたたみ傘をバサッと仕舞うと、タイトなグレー色のスーツの内ポケットから1枚のIDカードと取り出し、それを警備員のトムに差出してやった。


「はい、お預かりします。」


そう言うとトムはカイルのIDカードを丁重に受け取り、自らの首にぶらさげている小さなスキャナーにIDカードをかざした。

スキャナーからピピッという小さな機械音が鳴ると、トムはカイルにIDカードを返却した。

この音が、カイルの持つIDカードが本物であることを証明するというわけだ。


「ご苦労様。」


カイルはIDカードを受け取るとトムにねぎらいの言葉をかけて、正面ゲートの門をくぐった。

ここがカイルの職場、アイゼンハワー政府ビルである。

【ビル】と言っても、街のあちこちにそびえ立つガラス張りのそれとは違い、ゴシック調の古い洋館の様な佇まいの建造物だ。


カイルが建物の中に入ると、すぐさま若い女性と男性が歩み寄ってきた。2人ともまだ20代半ばでカイルよりも若いが、国家エージェントとして今年から採用された信頼できる部下である。


「おはようございますカイルさん。」


「おはよう。ジェーン、セス。」


ジェーンはパラパラと書類をめくって、今日のカイルの予定表を確認している。

セスはカイルの鞄や荷物を一式受け取ると、職員専用の保管スペースに持っていった。


「ジェーン。今日はたしか【秘】レベルの任務が1件あったんだったかな?」


「はい。さきほど局長がカイルさんを会議室に連れてくるようにと申しておりました。」


国家秘密エージェントというのは、アメリカ合衆国が秘密裏に、もしくは公けに一般公開する事によって国家に危険を与える可能性がある事件や情報収集を担当する機関である。

新人のエージェントはランク付きの先輩エージェントの秘書兼、書類整理などを行うのが仕事である。

また、新人エージェントが極秘任務遂行や現地調査などに介入ができる様になるには、それなりの下積み経験と、上司のエージェントの推薦によるものが多い。


カイルは、セスが持ってきたホットコーヒーを受け取ると、ジェーンの説明を一通り聞き終え2人を局長室のドアの前で待機させた。


カイルが局長室のドアを軽くノックすると、すぐさまドアの向こうから声が聞えた。


「はいりたまえ。」


「おはようございます。局長。」


カイルは新人の2人をドアの前に残して、局長室に入った。この局長屋でエージェント達はこれから与えられる様々な任務の説明を受ける。とりわけ、この部屋に直接出入りすることが許されるのはランク付きのエージェントのみだが、カイル・バートンは機関の最重要エージェントの1人として数えられる立場にあった。

ランク付きとは、数字1〜10に置き換えられた優秀な10名に与えられる称号で、カイルはナンバー4の称号を持つエージェントである。

数字の大小による上下関係はなく、1〜10までの称号を持つエージェント全員が最重要エージェントとして、時には生死に関わるような危険な任務を遂行することになる。


カイルが局長室に入ると、立派な口ひげを蓄え、左目に刻まれた大きな古傷が印象的な威厳に満ちた男性がデスクに腰掛けていた。彼がこの機関の最高責任者であるトーマス・ランファン局長だ。


「おはようカイル。さっそく本題に入ろうか。もう秘書の若いのから一通り聞いていると思うが、秘レベルの調査任務が1件、君に言い渡された。」


「ええ。調査対象は西部地方の小さな村の行方不明者だとか?」


国家エージェントに与えられる任務には3種類の機密レベル分類システムが設けられている。


1、最高機密 (Top Secret) セキュリティー レベル3。情報の内容または情報の収集手段が一般公開されると国家安全に絶大な損害を与えるもの。最高機密扱いになる書類は少ない。


2、極秘 (Secret) セキュリティーレベル2。一般公開されると国家安全に深刻な損害を与えるもの。大部分の資料は極秘扱いになっている。


3、秘 (Confidential) セキュリティーレベル1。一般公開されると国家安全に損害を与える可能性のあるもの。


の三段階に分類され、これらの情報を閲覧するにはクリアランスが要求される。クリアランスは、それぞれのセキュリティーレベルに見合うだけの身上調査を受けて潔白であることが証明された者にのみ発行される。とくに暗号理論、軍事衛星、諜報活動、核兵器に関わる者については更に厳しい調査が行われる。


今回カイルに与えられたのはレベル1の【秘】任務である。これらの任務を担当するのはランク付きエージェントの中でもさらに卓越したエージェントのみである。


「我々の元に届いた情報によると、先月からスウェブ村にて周辺の山に入った現地住民6名が次々と行方不明になっているそうだ。また、現地調査に入った州警察の特殊部隊員5名も行方不明になったとの事だ。どう思う?」


「そうですね・・・特殊部隊まで行方不明となると、おそらくはただの遭難ではないでしょう。捕食性の野生動物など襲われたか。もしくは何らかの事件、事故に巻き込まれた可能性が高いと思いますが。」


カイルは左手で口元を撫でながら、手渡された書類を真剣に見つめた。

手元にあるちっぽけな紙切れに記載されている情報を読む限りでは、行方不明になった村人達や特殊部隊員に共通点はなさそうだが、さらに細かい情報は現地で聞き込むしかなさそうだ。


カイルは局長室を後にすると、すぐさま秘書の2人に出発の準備を頼んだ。


「セスはリストにある装備品を用意しておいてくれ。ジェーンはすぐさま飛行機の手配を頼む。」



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