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約束の3日後がきた。
それまで、私は屋敷の探索をし、ジャンの婚約破棄とノアとの婚約について、親に説明するという小さなイベントをこなした。
リサの父親も母親も非常に穏やかではあった。しかし、ノアとの婚約について何度も試すような質問を繰り返した。
その度に言葉に詰まったが、なんとかなんを乗り越え、今日を迎えたのだった。
揺れる馬車の中、窓の外の光景は煌びやかなものから次第にみすぼらしいものへと変わっていく。
向かいに座るノアも私と同じように窓の外を眺めている。
「スラムには、仲間はいたの?」
「・・・仲間?」
私の質問にノアは窓から視線を外した。私も彼を見る。
「そう。あなたが何をして生き抜いたかは知らないけれど、物乞いをするにも何をするにも1人は無理でしょ」
「・・・その通りだね」
彼は、また窓の外を眺めた。
「仲間はいた。大切な人もいた。みんな死んだけどね。」
”大切な人”。モヤが広がり始める。原因はわからないが、彼の内側に入れない悔しさなのか。わからないが、それから眼をそらす。
「スラムはそれぞれギャングが仕切った地域に分かれている。そのギャングたちのバックには大きなマフィアがついている。彼らは薬や人身売買に手を染めている。彼女は、そのマフィアのボスのお気に入りだった。僕は彼に気に入られていたが、彼女とのことがバレてね。仲間もみんな死んだよ」
また、あの瞳だ。慈しむような、通しそうな眼。ただ、とても悲しそうなそんな慈愛に満ちた瞳だった。
「それ、私に言ってよかったの?」
彼はにっこりと笑って私を見る。
「取引をしたからね。隠し事は卑怯だ」
「・・・そう。」
「君は?君のはどんなふうに生きていたんだ?」
「・・・普通だと思う。私の国には貴族とかはないけど、でも、格差はあったかな・・・。普通に生きてた。
龍馬に・・・、あ、浮気した男ね。会って、きっと結婚して、仕事をやめて、そしたら子ども作って、、生きてくんだと思ってた。」
「龍馬、その男はどんなヤツだったんだ」
「んー、優しかった。デカくて明るくて、よく笑うヤツだった。まぁ、でも、どうしようもなかったけどね。・・・・初めてだったんだ。私はキツい見た目だったから、一緒にいようって言われたの。初めてだった」
「そうか。」とノアは相槌を打つ。その声があまりにも優しかったからだろうか。ふと、涙が出てきた。
「親友と浮気されて、言われた。『お前は1人でも大丈夫だろう』って。その時、思った。彼の『女性像』に私は当てはまらなかった。って。彼は、『私』を見てたのではなかったんだって。か弱い私を求めていたんだって。」
ノアの手がそっと私の涙をすくった。
俯きかけていた顔をあげ、笑ってノアの手をどかす。
「やめな。・・・心の中にいるあなたの大切な人と、私は違うから。」
私の一言に彼は固まった。
この言葉は、彼への宣言だ。「婚約者」であり「取引した者」であり「相棒」でもあるが、全ては許さないという。これが、私が彼に初めてした、拒絶の言葉となった。