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Take Over Parents  作者: 深い海のお魚さんなのですよ
8/9

水蛇の魔法使い

あの少女を保護すること5ヶ月。

未だ目覚める気配がしない。

死んだように寝ているのか、もう死んでしまったのか。

…いや、後者はない。

何故ならば、こうしてスースーと寝息をたてているのだ。

「…さて、今日も講義の時間だ」

そう言って支度をし、家を後にする。


「…エメ、エメ起きなさい。隊長さんは今日も忙しいんだからな」

「あらシカシックさん…?えぇ今、起きるわ…」

むくりと体を起こす。


「…?」

夢、かしら。

…身体が重い。

随分長く寝てたのかしら、手足が動き方を忘れているみたい。

生まれたての鹿みたく、ガクガクと脚を揺らしながら床に立つ。

「どこかしら、ここ…」

レンガ造りの内装、誰かの寝室 みたいな感じで、一人用のベッドが後ろにある。

小さなテーブルにはドロドロに溶けた何かのスープが置かれており、その近くに置かれていたチューブから、寝ている私にそれを直に注入していたということがわかった。

指でチョンッとし、少し舐めてみる。

「…美味し、いのかな?」

栄養があるっぽい味はしたけど、うーん。

なんとも言えぬ味であった。


壁伝いで寝室から出ると、書斎のような広い場所に出る。

足の踏み場などないような床を進む。

「なんだろう、この本」

周りの棚や床に並べられてある、沢山の本。

気になって適当に一つ、手に取る。

「『毒の種類と効果について』…?何この物騒な本…」

他を見渡すが、棚の殆どが毒に関することで。

机の上に数冊、他とは異なる本が置かれている。

「『教師の立ち振る舞い』……ん?」

ここに住んでる人はどこかの先生なのかな?

他になにかないのかと探すと、ガラスでできた実験器具のようなモノが置かれている机があった。

奥の棚ではぷかぷかと何かが浮かんでいる容器が置かれてーー。

「ひっ…あ、頭!?」

何かの生物の頭が、こちらを見るようにくるっと翻る。

他にも、何かの臓器が所狭しと並べられており、恐怖を感じる。

「…ひょっとして、私は実験台にされるために…?」

いや、それはない。

鳥さんが言ってた、彼は医者だって。

「ええ、きっとだいじょうぶ…なはず」

それでも身体が震える。

…ちょっと、外の空気でも吸おうかな。

そう思ってドアノブを捻るが。

「…開かない」

おかしいな、鍵穴はないし、内側から鍵はかけれるようにできてない。

なのに、扉は開かない。

「待つしかないわよね…」

ぐぅ〜とお腹が鳴る。

少し、お腹が空いたわ。

少し無礼だけど、食べ物がないか探す。

寝室に繋がる通路に入ると、扉があった。

ドアノブを捻り、中に入る。

「…あら」

先ほどとは違い普通の、ごく一般の生活空間。

奥には台所があり、寛げるスペースも存在している。

早速、冷蔵庫のような棚を開ける。

中を見ると、リンゴが複数入れてあったのを確認する。

「家主さんすみません!」

そこから二つばかり頂戴して、水で洗いかぶりつく。

「…なんか、むぐむぐ、悪いことしてるみたい…」


「さて、今日の講義は終わりだ。各々気をつけて帰るように」

教師としての1日が終わり、教室を出る。

「せーんせっ!今日は私があの子の見舞いに行ってもいい日だよね?」

後ろから肩を急に掴まれる。

「…目上に対しての行動ではないぞキヤラ。あぁ、今日もどうせ、寝ているだろうけどな」

サン・キヤラ、どの教師に対してもこの態度で、躾けてくれと私に何度も他の先生方に言われ続ける原因。

きちんと改めるように言っているのだが…。

「寝ててもあの子、可愛いんだもん!ほらこの写真!最高にキュートでしょ?」

ぐいっと携帯の画面を見せる。

「…いいから行くぞ」

あんなこと、するんじゃなかった。

ーーーーー。

戻って5ヶ月前。

あの子を拾った私は、いろいろな手続きを受けて彼女を保護した。

側から見れば幼女を家に連れ込んだ男。

聞こえ方が、いかにも犯罪者だ。

「実は私、昨日子供を引き取りまして」

そう授業の初めに言うと。

早速犯罪者だとか聞こえてきた。

抜かりはないからとそう言って、その次に見舞いに行ってもいいかと言う話になって。

クラス全員でローテーションのような形でそうなって。

ーーーーー。

今に至る。

「今日は起きてるって先生大丈夫私子供の扱いに慣れてるんで」

次から次へと言葉が出てくる。

何者なんだこいつ。

「まぁいいが、そろそろその態度を直さないと、見舞いにも行かせんぞ」

「…すみません、以後気をつけます。なので、見舞いにだけは行かせて…ください、ください」

そうこうしているうちに家に着く。

封印を解き、解錠する。

「…どうなっている」

ここは、私の家、だよな。

「わあすっごーい!先生いつの間にこの部屋片付けたの?!実際はこんなに広かったんだあ!」

人の家に上がって早々、はしゃぎ回る生徒。

いや、しかしそれを叱るよりももっと非現実的なことが起こっている。

「一体、誰が片付けてーー」

そこで〝もしや〟と思い、寝室に駆け込む。

「ーーいない」

布団が丁寧に畳まれており、あの子の姿はない。

「キヤラ!あの子を探せ!まだ家の中にいるはずだ!」

大声で生徒に探すように促す。

きちんと鍵をかけておいたので、内側からも出ることはできないはずだ。

解き方も私のものであったし、ドアを開けて外に出たということはまず無い。

ならばこの家のどこかにーー。

「いたぁぁぁ!」

リビングから大声が聞こえたのを認める。

そこに急いで向かう。


「せんせ、せんせ…!」

テーブルの下を覗くように、生徒が屈んでいる。

まるで、子猫を見つけたみたいな反応で静かにそう言いながら、手を招く。

恐る恐る覗き込むと。

「あ…」

あの少女であった。

「…目が覚めたかい」

笑顔を作り、警戒を解かせようと試みる。

「…」

彼女は首を縦に振る。

横には皿に乗ったリンゴの芯。

冷蔵庫のリンゴを食べたのか。

「リンゴ、美味しかったか?」

彼女はこの言葉にビクッと体を震わす。

勝手に食べて、申し訳なく感じているのだろう。

すると、震える唇で少女が喋りだす。

「あの、勝手に中のり、リンゴを食べてしまって、た、大変、申し訳、ございません…」

震えながら、小さい声で丁寧に土下座をする少女。

何か罪悪感を感じるのだが。

「先生、私今、背徳感を感じています」

「そうか、黙ってろ」

「…別にいいんだ、あんなに寝てたんだからお腹も空く。その元気があれば、大丈夫だろう」

「そうだ、親御さんはいないのか?君を家に返したいのだが」

そう質問すると、顔を上げ、とても困った顔をする。

「わ、私、もう家に帰れなくて…その、危ない、から…?」

…事情がよくわからない。

家に帰れない?危ないから?

少し掘り下げてみたいが、聞くのは無神経だと思い、やめた。

「え?私よくわからないんだけど、何で帰れないの?」

「!バカ!そこに闇があったらどうすんだよ!」

ガツンと生徒の頭を殴る。

「あ!殴った!体罰だ体罰!」

そう主張する生徒を尻目に、少女に語りかけようとすると。

クスッと、笑っていた。

「…ふっ、すまないなうちの生徒が、無理にでも話さなくていいからな」

「いいえ、面白いものを見せてもらったもの。私も話したくなってきたわ」

ふふふと笑いながらそう少女が言う。

「私はー」


「うぐ…ひっく…えぐぅぁ…いい話だなぁぁぁ!」

うるさく生徒が隣で泣く。

あれから、テーブルの下だと何だからソファーで語ろうと提案して座らせた。

様々な出会いと別れを聞いた。

にわかには信じがたい、だが、幼いながらの説得力に、信じざるを得なかった。

「…話してくれてありがとう〝エメ〟。私はここで毒の研究をしながら教員をやっているハイドラ、ハイドラ・ピスナだ、よろしくな」

「わだ、わだじは、ザン・ギヤラ…よろじぐ!エメぢゃん!」

若干引きながら、それでも姿勢を正し、少女は。

「はい、よろしくお願いします。ハイドラさん、キヤラさん」

そう笑って、名前を復唱する。


キヤラさんが家から出て行って、ハイドラさんと二人きりになる。

とても怖そうな人。

でも、どこか優しい顔をしている。

「さて、ヤツも帰ったし、夕食にでもするか」

ハイドラさんはそう言って指を振ると、台所で音が聞こえる。

しばらくすると、いい匂いと共に、料理がテーブルにコトッと置かれる。

「パスタ、かしら」

のような形に似ている何か。

とてもいい匂いがする。

「お食べエメちゃん、大丈夫、毒は入ってないさ」

フォークでくるくると麺を巻いて、口へ運ぶ。

「…美味しい!」

思わず顔が綻ぶ。

「よかった」

ハイドラさんは頬をつきながらこっちを見る。

「…ハイドラさんは食べないの?」

「私は、君が食べ終わったらでいいよ」

変な人ね。

一緒に食べるから美味しいのに。


「…困った、孤児か」

もちろん子育ての経験はない。

歳は、本人から9歳だと指を折り曲げながらそう言われた。

難しい年頃なのかどうかもわからない。

とりあえず、期間的に保護ではなく、養子として迎えた方が、後々楽だろう。

「明日は、役所にでも行くかな」

ソファーで力なく寝むっている少女を撫でながら、そう呟いた。



数日後。

「エメ、今日は学校に行ってみるか」

養子に迎え入れ、まだここに慣れていない少女にそう言う。

「学校?私行ったことがないからよくわからないけど、楽しそうだわ!」

何に対しても興味津々な彼女。

試しに町の方面へ行ってみると、彼女は目をキラキラさせて初めてみる光景を楽しんでいた。

あれなにあれなにと質問してくる彼女は、とても可愛らしい。

なので今回は、彼女の知らない〝学び〟を教えるために、学校へ一緒に出勤する。

勿論、許可は今日とる。


「え“、ピスナ先生いつの間に子供が!?」

そう、周りの先生たちが驚く。

「…だろうと思ったよ」

横で、彼女は小首を傾げると、一人の教師を筆頭に、可愛いコールが響き渡る。

あんなにお堅い教頭も、親バカである。

そんなこんなですんなり許可は下り、自分の教室へ案内する。

「大丈夫なのハイドラさん?私は最初の方からスタートじゃなくて」

「大丈夫、今回は体験のようなものだし、君が興味を持ったら入学も可能だ」

そう、ここは普通の学校と違い、年齢も実力も関係してこない。

教師が認める、或いは望めば、実力問わずそこに新しい学生を入れることも可能だ。

途中入学も何でもありだが、あくまでも〝魔法の〟学校であるからということだ。

…それでも留年と言う概念はあるのだが。

「ここが、私の受け持っている教室だ」

ガラガラと戸を開けて、中に入る。


ハイドラさんに背中を押されながら、室内に入る。

「ん…」

最初に目に止まったのは、段々状になっている机にむかうたくさんの生徒さんたち。

なんだかざわざわとしている。

一斉がこちらを見つめてきて、胸がドクドクと早鐘を打つ。

「あぁ!エメちゃんじゃーん!」

キヤラさんの声が聞こえたけど、いっそう緊張する。

困ってしまい、ハイドラさんの方を見上げる。

「…コラコラ、そんなにジロジロ見られちゃ可哀想だろ」

そう言ってハイドラさんは、左手で私の顔を隠すようにして教卓の前に立つ。

「さて、今日は体験授業に来た…というか連れてきた生徒がいる」

ほら、と小突かれて前を向く。

「あ、んと…エ、エメです。よろしくお願い、します…?」

ぎこちなくお辞儀をする。

すると、何故か教室内から拍手喝采が聞こえてきた。


キヤラさんの隣に座るよう言われて、そこへ向かう。

…みんな私より大きくて、大人のよう。

こんなところにいていいのかしら。

「エメちゃーん」

カスカスな声でキヤラさんはこっちこっちと手をこまねく。

席につくと、早速授業が始まった。

「さて、今日は基礎の〝構成源魔法〟を進めようか」

「良かったねエメちゃん、今日は簡単な授業みたい」

あの、私魔法も使えないし使えない素人なんです。

「槽の〝水〟台の〝土〟これらは生命に位置する魔法元素であり」

「は、はぁ…」

「〝風〟〝火〟はそれらに働きをもたらすものである」

…まったくもって内容が頭に入ってこない。

「〝雷〟は働きかけと同時に神秘性を帯びており、〝光〟〝闇〟もそれに類する」

「…頭痛くなってきた」

わからなさすぎる。

だからなんだということが多すぎる。

「〝バベルの塔崩壊〟の言語崩壊により一時魔法体系は崩落寸前となったが、人の探究心によって現在の魔法にまで至った」

「…エメちゃん、大丈夫?」

「話が…難しい…」

わからないことを叩き込まれているかのような感覚。

時計をふと見たが、そこまで時間は経っていない。

…これがいつまで続くのか。

「さて、体験入学者もいることだし、一度〝火〟の魔法を体験してもらおう」

そう思っていると、名指しされる。

「え、私魔法なんてできない…」

「大丈夫、人は誰でも魔法を使えはするんだ。しかも君にはちゃんと魔力もある」

そう励まされ、話の続きを聞く。

「さて、〝火〟の魔法を使う時は呪文が必要だ。〝世界〟に言い聞かせ、世界のその本棚から本を抜き取るように魔法は発露する」

「魔法の発現は奇跡、神に伝言をし、発動してもらうようなプロセスだ」

「…うん」

「発音を正しくしなくては発言はしない、さて、本題だが〝火〟の呪文は…そうだな、一番簡単かつ基礎の『火』だな」

ハイドラさんはそう言うと、右手に小さな火球を出した。

…あら、ハイドラさんったらいつ魔法を?

「いいかいエメ、発音は『火』だぞ?」

「えっと…違いは…?」

「?違いも何も、『火』だけじゃないか。ほら、合っていなくとも大丈夫さ」

ほれほれと促される。

火火火火って同じこと言ってるだけじゃない…。

どう発音すれば…。

もういいや!そのままで。

「えーっと、『火』?」

そう言うと、手ではなく床に、それもお料理でいう強火くらいの。

「…発音が微妙に異なる気がしたが…流石だぞエメ!」

床に点火した火をげしげしと消しながらそう拍手する。

「私、魔法使えるの…?」

両の手を見やる。

今まで何度も魔法を使う場面は見てきた。

まさか、私も魔法が使えるなんて。

「ハイドラさん、私魔法を学ぶわ!」



夕方、エメを家に帰した後、数名の教師と話をする。

内容は魔法の発音。

「えぇ、発音は崩壊後呪文の方の『FeueR』でした。火球を手のひらに浮かせて云々のほうの」

「それがどうやったら床を燃やすになるのかね?発音が違ったらまず発現はしないはずだ」

「地面に火を出すのでしたら、『firE』で良いはずですが、違うのでしょう?」

そう、どの発音にも当てはまらない。

この学園の教師は魔法のエキスパートであるが、やはりどの発音とも合わない。

「…今度、〝バベル〟方面の研究をしてた先生をそっちの授業に迎えたいのですが、宜しいですかハイドラ先生」

「…えぇ」

まさか、統一言語時代の魔法では…ないよな。




「さっきは凄かったねエメちゃん!」

帰り道、キヤラさんと一緒にハイドラさんのお家に向かう。

「そんなことないですよキヤラさん、マムさんはもっと凄いんだもの…」

「マムさん…?」

そう、岩石人さん達と暮らしていた溶岩の女王。

皆のママのような存在で、そして…。

「マムさん…」

…あれからどうなったのだろう。

激しい噴火が何回か起こって、もしかしてマムさんは…。

目頭が熱くなる。

それを察したのか、キヤラさんはぽんっと私の頭に手を置いた。

「いい人、だったんだね」

さすさすと頭を撫でられると、だんだんと切なさが込み上げてくる。

「よしよし、思い出させちゃってごめんね」

優しくて甘い声で囁いてくる。

「うぅ…ッ」

涙が、溢れて止まらない。

「ほら、先生の家にとうちゃーく」

そう言うとキヤラさんは、私の背中を叩いてドアの前までとばした。

「元気出してエメ!また泣きたくなったら、お姉さんに抱きついてきなよっ!」

そう言って大きく手を振った後、体を翻して去っていく。

「…ありがとう、キヤラさん」



「今日も来てくれてありがとなエメ」

「いえ!私も魔法に興味があるのだもの、毎日でも出れるわ!」

翌日、またハイドラさんに連れられて学校へ向かった。

でも今日の授業はどうやらハイドラさんが主役ではないみたい。

ガラガラとドアが開くと、怖い顔をしたおじいさんが入ってきた。

「どうも、『バベル時代』の魔法を研究をしているキブルギだ」

「今日は特別講師として来た、歴史の授業だと思っていつもの感覚で聞いて欲しい」

そう言うと、キブルギさんは長々と話す。

「『バベル時代』、即ち統一言語の時代、あの塔が破壊される以前の世界」

「その時代にも魔法は存在した。構成源魔法は勿論の事、様々じゃ」

「だがどうじゃろう、それらの魔法は存在は判明しているのだが使用はできない。再現も不可能」

「神々によって言語を剥奪された影響か、理解も発音も不可能なのじゃ。じゃが、幸いにもそれを絵で記したものがあった」

「構成源魔法をバベル時代にあった魔法に当てはめるとすると、火は主に調理、光源、焼却用。水は水源が近くにあれば使える、長めのホースのようなもの」

「土は隆起、陥没を起こす、または揺るがす。風は気候を操る」

「唯一、著しく異なるのは、雷は雲がある時限定でその雲から起こすことのできるもの。光は神のような存在が救済と制裁を執行するもの。闇は厄災をもたらすもの」

「現在では構成源魔法はここまでの情報しかないが、実際はもっと存在しているはずなのだ」

「…時にそこの、エメくんだったか」

「君のその首回りの〝マーク〟。文献にも記されていたバベルの民の証というものなのじゃが…君の魔法を一度、私に見せてもらえないか」

…?

長くて半分も覚えていないのだけれど、魔法を見せればいいのかしら。

「…私、まだ魔法を使って日が浅くて、できるかどうか…」

「いややるんだ、君ならできる。」

目が怖い。

とても強い執念を感じる、そんな眼だ。

やらなきゃいけない。

やらなきゃ、何をされるかわからない。

そんな眼。

「エメちゃん…」

横で、キヤラさんが私を心配するような声が聞こえる。

優しくお尻を摩る手…お尻?

「…っ」

無言で手を払う。

…やらなきゃいけないんだ。

「まずは私に光を、神を見せてくれッ!」

「『我、軽佻浮薄なる者』と!」

「…どうなっても知らないんだから!」


「『ライト』!」

エメちゃんが、私の横で大声でそう唱えた。

「…なにも、起こらな」

いや、起こっている。

光の線が視える。

私の知ってる光の魔法ではないナニか。

私の頭上にも存在するそれは、何かがコツンと当たった感覚とともに消えた。

「良い地、祝福あれ」

突如、頭の中でその言葉が反響し、多くの光が教室内を照らす。

「花弁の中、花開く時来たり」

その声と赤い光の後、少数の仲間達が突然として語り出す。

「宇宙の魔法とはー」「私は最近とても良い使い魔がー」「このゲームの裏技はー」等。

一頻り言い終えると、皆スッキリした顔で席につく。

「悪地、不浄なかれ」

そして、キブルギ教授から黒い光が差す。

それが収束すると、たちまち白い光が立って消えた。

その時のキブルギ教授の顔は、とても穏やかで優しい雰囲気を醸し出していた。

「…私は何故こんなにも盲目だったのか。神よ、感謝いたします」

そう言うとキブルギ教授は、ハイドラ先生の制止を無視して教室を去った。

「エメ、ちゃん?」

隣にいた少女は、何もわからないと言うかの様な顔で震えていた。



その後、私は教員達にこう告げた。

「何もなかった、ただの魔法だったよ」

彼女はただの、魔法使いだ。



ーーエメが来て、あれから3年が経った。

普通にうちの学校に通うようになり、友達を作り、日々を過ごしている。

魔法を学び、考え、実践する。

家事を学び、考え、実践する。

交流を学び、考え、実践する。云々。

ともかく熱心に行動に移す、模範的な子になった。

ーここにきて1年が経った時には、恥ずかしげにお父さんと度々言うのだから変な気持ちになり。

2年が経った時には、自然にお父さんと呼ぶようになり少し歯痒かった。

てか周りがうるさくなった。

…のだが。

「エメ、悪いが少し仕事を手伝ってもらえないか」

3年が経った今はー。

「…一人でできる仕事じゃん、私も予定があるんだから」

「少しでいいんだ、少しー」

そしてドアが閉じる。

「…だけでもいいんだけどなぁ」

来てしまった、反抗期が。

「うぅむ、きちんと教育してたつもりなんだがなぁ」


心境の変化があったのは、12歳の誕生日が終わって5ヶ月後。

ーー正確には誕生日以前にも兆候はあったかもしれない。

突然私を避けるようになった。

学校で声をかけると「話しかけないで」と睨まれ。

勉強中に声をかけようとすると「気が散る」とキツく言われ。

家にいる時もあまり話しかけてもらえなくなり、代わりにキツい言葉が飛んでくるようになった。

「久々に話がしたいんだ」

そう言って、エメが座っているソファーに腰掛けて心根を聞こうとしたのだが。

「…お父さんには関係ないじゃん」と言われて自室に戻られた。

なにかしただろうか。

そんなことに悩まされて研究に没頭できなくなった。

キヤラにも他の生徒にも頼んだのだが、「別に普通だった」と返ってきた。

他の先生にも相談したが、「此処からが踏ん張りどころだ」と言われて背中を押されるだけ。

「…ッゲホッ!」

そんなことを考えていると、できるはずのこともできなくなる。

「なんだか、寂しいな」

「ドンマイ、先生」

ーお前はどこから入ってきたんだ。

「…ん、キヤラじゃなかったか」



「私は独りで居たいのに」

最近、頻繁にお父さんが話しかけてくる。

やれ学校は楽しいかだの今日はどうだっただの。

毎日が煩わしくて堪らない。

ーーなんなんだこの気持ちは。

今までなんともなかったのに。

急に、お父さんが邪魔で仕方がない。

独りになれる場所を探しては、時間を過ごす日々。

束縛されることのない、私が楽しい日々。

友達と遊んで、趣味に耽って、少し外に出て。

それがしたいのに毎日やってくるあの時間。

「…1人にさせてよ」

ボソッと口から漏れ出した。

頭がムカムカして、何故か腹が立って。

「あぁぁもうッ!」

髪を髪を掻き乱し、ダンッと地面を踏む。

イライラは少し収まるが、やっぱり溢れて止まらない。

顔を見るだけでも否定的になる。

…もしかして、嫌いなのかもしれない。

そう考えていると早速、予定の場所が見えてくる。

今日は友人達と、街でお買い物をする日なのだ。

ふと後ろを振り向くが、お父さんの姿はない。

…邪魔されなくて良かった。

そう安堵していると、向こうから友人達が手を振っているのが見えた。

それに答えるように街の中へ進んでいく。

「ごめんね!待たせちゃった…?」


夕方、用が終わって各々解散する。

今日は楽しかったなぁ、家に帰ったら早速…。

「…」

話しかけてこないように自室に入れないかな。

うきうき気分が冷め、お父さんのことでまた頭が一杯になる。

…誰かこの現象を止めてくれないかな。

「エメさん」

「…ムアちゃん?」

ムーテラ・フォン・アレス、お父さんの教室の生徒で、私の友人。

とても優しくて、皆の姉的存在。

というかむしろお母さんのよう。

面倒見がよくて、何より包容力がすごい。

あとおっ…胸もすごい。

「どうしたのムアちゃん、どこか寄りたい所でも」

「ハイドラ先生のことで少しお話しがしたいの」

…どうしてその名前が出てくるの。

思わず、あからさまに嫌な顔が出てくる。

「…立って話すのもなんですし、あそこのベンチに座りましょう」

そう言われて、大人しくベンチに座る。


「…で、アイツがどうかしたの?」

脚を組んで、ムスッとした顔で話す彼女。

顔はこちらに向けず、空を仰ぐが眼だけは睨むようにこちらを見据える。

こんな顔をする子ではなかったのに。

「大した話ではないのだけどエメさん、アナタ少し…どころかかなり先生に冷たくありません?」

そう話を切り出す。

「なんでそう思うのかしら?」

次は腕を組む。

「今日、あなたと会う前に直接先生の元に訪れたの。最近先生も元気がなさそうでしたし」

「なんでアイツのとこになんか…ていうか来てたんだへぇー」

言葉に苛立ちが乗り始める。

でも気圧されてはダメよ私。

「アナタが出た後にね…」

これもー。

「こっそーりと家に入ったら、先生ったら実験に失敗してるんですもの。その時にこう言ってたわ」

エメちゃんのー。

「「なんだか寂しい」って」

ため、なんだから。


「…寂しいわけないじゃん」


此処で初めて顔を合わせてくる。

「アナタは私じゃなくて、アイツに味方するんだ…なんで?」

「…今まで、私が来る前までアイツは1人で暮らしてたんだよ?寂しいなんて気持ちが、アイツにあるもんか」

足を震わせて、声が強っていく。

イライラしてるんだ。

「アイツが悪いんだ、私は悪くない。なにもしてないんだもの、こうなったのもアイツのせいなんだ」

「…先生は、あなたに何をしたの?」

チッと舌打ちが聞こえた。

「…知らねぇよ」

ボソッとキツく言われる。

…でも引き下がらない。

そういうわけにはいかない。

「先生は今まで1人だった、その通りよ。でもそれは、先生の寂しさは、あなたのせいでもあるのよ」

「ハ?」

明らかに苛立ってる顔。

眉をハの字にしてこちらを睨んでいる。

「私が何をしたっていうの、私のせいなの?」

「そうよ」

「そんなわけないじゃん!」

大声でそう叫ぶと同時に勢いよく立ち上がる彼女。

その眼は、完全に私に敵意を向けている。

それでいいの。

今の私は、あなたにとっての敵だ。

「…先生はね、あなたが来る前は何に関しても無関心で、授業も台本を読むかのようだった」

「キヤラさんがちょっかいをかけてる時も、なんら楽しそうではなく寧ろ、邪険そうだった」

「そんなわけー」

「でもあなたを保護してから少しずつ変わってきたのよ?その話を聞いて私たちは先生の家にお邪魔する機会ができたし、回数を重ねるごとに先生も人が変わって来たような気がした」

「毎日人が隣にいる日々、人の面倒を見なければいけない日々が、先生の心に変化をもたらしたのかもしれないわ」

「そしてあなたが目を覚ました翌日、とても嬉しそうに報告していた。その眼は本当に、無事を喜ぶかのようで」

「やめてよ」

「私たちと話す機会も多くなって、あなたのことを嬉しそうに話すの」

「でも最近は、どうしたらあなたとまた話せるようになるのかーとか、授業も覇気の無い感じだし」

「やめてよッ」

もう一押し…。

「私も、私たちもそれが心配で」

「やめてよッ!」

ダンッと地面を踏む音で、静寂が訪れる。

鳴いていたカラスが逃げ出す羽音が、よく聞こえてくる。

「まるで私が悪いみたいじゃない!なんで私が悪いみたいな感じで話すわけ?!」

「アナタが、あの人を困らせているからよ」

もっと。

「そんなわけない!アイツが邪魔だから、邪魔になったから、話したくなくなっただけだもん!それで困るなんてー」

「だから困ってる、悩んでる、先生を傷つけてるの」

もっと吐かせないと。

「話してないからなんなの?腫れ物扱いしてるからなんなの…?邪魔で邪魔で仕方がなくなったんだ!前も孤独だったんだから平気にしてる方が普通だもん私悪くないもん!」

「じゃあなんでその現状を直そうとしないの?」

彼女の心情を、吐かせないと。


「もう戻れないんだもんしょうがないじゃない!私は親が居ないんだよ?!アイツが勝手に親になって、私を縛って、アイツを好きになる権利も嫌う権利も、私にあるはずなんだ!アイツは私の父親なんかじゃない!こんな思いするくらいならいっそのこと、アイツなんて居なくなってしまえばどれだけー」

「っ!」


バチンッ。


その音だけが、周りにこだまする。

長い長い静寂。

夕暮れの陽が私を照らしてきて、眩しく感じる。

それでも、それでも、彼女を見つめていなければいけなかった。

「…え」

叩かれた頬を抑えて、意外そうな顔をする彼女。

無理もない、私はそんな他人を傷つけるようなことはしないと、周りに思われていたのだ。

しょうがないんだ、あんなことを言うんだから。

「…それだけは言っちゃダメでしょ」

じんじん痛む手を余所に、彼女に詰め寄る。

「邪魔になった?親じゃない?居なくなって欲しい?今まで育ててくれたのに、それが恩人に対しての言葉なの!?」

言葉が厳しくなる。

感情的になる。

「アナタを思って、彼がアナタをどんだけ心配してきたか知らないでしょ?…アナタが思ってる以上に、ハイドラ先生はアナタの事を思ってくれてたのよ!?」

怒りで涙がこみ上げてくる。

「それなのになんなのアナタは、そんな思いを無下にした。それが悪くないだなんて、アナタ最低よ!」

そう叫んで、彼女を突き飛ばす。

「イタ…」

突き飛ばされて尻をついた彼女に、私は手をかさなかった。

むしろ、追い詰める。

「突き飛ばされた程度で痛いってよく言えるわね、あなたに突き放されてから半年間、それ以上の痛みを先生は受け続けてたのよ」

「うるさい…うるさいうるさいうるさい!」

うずくまる彼女。

「そうやって私まで否定するのね、要らない要らないって捨て続けた先に、あなたは何があるか知ってる?」

「ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!」

髪を乱暴に掻き乱す。

「真の〝孤独〟なのよ」



なんで私が悪いみたいなことを言うの?

なんでお父さんの味方をするの?

私はこんなに苦しんでるのに。

だから逃げ続けてきたのに。

なんでそんなに、私をいじめるの?

聞こえないはずなのに、空っぽからそうだそうだと、私の主張を否定する声が聞こえてくる。

「…みんなしてなんで、私をいじめるの…」

「私はこんなに苦しいのに、苦しんでたのに、酷いじゃない、あんまりじゃない」

「ただただ独りになりたいことが、そんなにもいけないの…?」

ムアちゃんはこんなひどいことしない子だもん。

私にこんなことしないはずだもん。

「だって、だって、ホントはこんな筈じゃなかったんだもん…」

でも、そう思う自分が。

「いつか謝ろうって、ごめんなさいしようって、でもなんかできなくて」

だんだん、情けなくなってきて。

「機会を逃しちゃって、でも、そんなこと知らなかった、お父さんが困ってるって」

馬鹿馬鹿しくなって。

「…ごめんなさい」

彼女の優しい相槌が、心にきて。

「ごめんなさい…今まで、素直になれなくて、ごめんなさい…」

涙が出てきて。

「パパ、ごめんね、うぐ…ごめんなさい…ッ!」

「うわぁぁぁぁっ!」

強く、彼女に抱きしめられて。

「…やっと、言えたじゃない」

本気で他人に言い合えて、蟠りが取れて。

「先生にも、言えるといいね」

今まで、ごめんなさい。

お父さん。




グスッと鼻を鳴らし、とぼとぼ歩く。

家に帰ったら、謝ろう。

そう思って、家の前に着く。

震える息でスゥっと空気を吸って、気持ちを整える。

「よしっ」

ノブを捻る。


「おかえり、遅かったじゃないか」


後ろ向きで、お父さんはそう言った。

「お父さん、あのね…」

言うんだ、言わなきゃいけないんだ。

躊躇いがある、バクバクと心臓が鳴る。

でも、言うんだ。

「今まで、その、ご、ごめんなさい…」

頭を勢いよく下げて謝罪する。

やり遂げて、心が落ち着く。

そして聞こえてくる。


「…それだけか」


あれ。

「私は君に尽くしてきた。衣食住を与え、君に苦のない暮らしを提供してあげた」

「そんな恩人に対して君は、その存在を否定したんだ」

なんで。

「何に対してのごめんなさいなんだ?一回のごめんなさいで何回分、私の苦労について謝罪したんだ?」

やっと気がついて、やっと許してもらえるって思って。

「もしかして君は、たった一回の謝罪だけで済むと思ってるのか?」

くるっと、お父さんが体を向く。

その眼はとうに、愛を向ける眼ではなく。

「バカにするのも大概にしろよクソガキが」

勢いよく席から立ち、こちらに向かってくる。

「!?」

その異様な雰囲気に思わず後退りしてしまう。

「あ、あの、今まで無視してごめんなさい、バカにするようなことを言ってごめんなさい」

目の前にきて、立ち止まってる。

「えっと、えっと…!」

「ーだけかよ」

…え?

「それだけかよ!!!」

怒号の後、頬に鈍痛がして後方に飛ばされる。

ビンタではない、グーで殴られた。

「…お父さん?どうしてー」

「お父さんじゃねえんだろ?他人様なんだろ?だったらすみませんでしたじゃねえのかよ」

「なんで、殴って…」

「早く謝れや!!」

また殴られる。

骨に響くような痛み。

本気で殴ってるのかもしれない。

…わからない。

「…すみませんでした」

「頭が下がってねぇぞ」

なんで、あんなに優しかったのに。

「すみませんー」

「声が小さい」

許してもらおうって思ったのに。

「すみませんでした…!」

「…なぁ、知ってるか?謝罪の最上位はな、頭と手を床につける土下座ってのがあんだよ。会釈しただけじゃあ誠意が伝わんねぇなぁ?」

なんで、こんなこと。

「…すみませんでしたっ…!」

「…謝るくらいなら最初からすんなよッ!」

突然、暴力が襲う。

蹴られ、殴られ、髪を引っ張られ。

「苦労したのに仇で返される、された側の人の気持ちを、お前はわかってんのか?!!」

「…ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!殴らないで…!」

痛いのに、どうしちゃったんだろう。

「これも教育なんだよ…躾には体罰が一番効率がいいんだよ…ッ!」

「うぐッ!ひぐっ!ごめん…なさい、すみまぜんでじた…もう、じないから…!や、やめて…」

何が間違ってたんだろう。

「痛いから…殴らないで…!お願い、じまずっ…!」

ーーすみませんでした。

「すみませんでした!ずみませんでじたっ!もうじないがら!許じてっ!お願いしまずっ!」

けれど、拳が飛んでくる。

「なんでも、なんでもしまずがらぁぁぁぁぁッ!」

けれど、暴力は続く。

「じ、死んじゃう…よぅ…た、助けで…」

逃げようとしても、痛くて逃げられない。

無言が続き、恐怖のみが残っている。

「イヤだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」


パチンッ!


「…なーんて嘘だから!そんなことしない…よ?」

「先生!上手くいきまし…てないですね」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

「すみませんでした、もうしません、許してください、お願いします、なんでもしますから、申し訳ありませんでした」

「これは…先生、やり過ぎ」

協力してくれた生徒にそう言われて、確かにとうなずく。

「いやぁ、幻覚を解除してこっちこそって言ってギュゥって抱きしめるプランだったのだが…少々過激過ぎた」

「少々どころですかアレ」

彼女が一点を指差す。

部屋の隅で、譫言のように同じ単語を繰り返す少女。

「あー、たしかに少々じゃない…かも?」

「カモじゃないです!アナタこそ謝罪するべきです…よっ!」

ドンっと背中を押されて、うずくまる少女の前に来る。

「おっとと…えーっと、エメ?もう大丈夫だぞー?」

「っ!ヒィッ!?な、殴らないで…引っ張らないで…もう、許して…」

「…先生、幻覚も現実に起こってるものって思わせるから幻覚なんです。例え嘘だとしても、いきすぎると〝毒〟なんですよ?」

ブルブル体を縮ませて、腕で顔を守る彼女を見て、心が痛む。

「信じ込み過ぎて身体に痣とか出ちゃってるし…これからはやめましょうね」

「いや、ほんっとうに、マジでゴメン」





殴るなんて思わなかった蹴るなんて思わなかった引っ張るなんて思わなかった叩くなんて思わなかった傷つけるなんて思わなかった。

あの恐怖が脳裏に焼き付いて忘れられない。

痛い。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

どうしてそんなことするの?

「エメ」

ごめんなさいしたのに。

「エメー!」

丁寧に謝ったのに。

「エメちゃん!」

また、あの顔が目の前にー。

「!?!?」

ガシッと、抱きしめられる。

「いやー、幻覚を強くし過ぎた…大人気ないことした、こっちこそごめんな、もう謝らなくていいよ」

今まで暴力を振るってた人が、豹変するかのように静かになった。

「幻…覚…?」

「あぁ!安心していいんだ!だから、戻ってこい!怖い人じゃないから!」

幻覚…だったのかな、もしかして本当にー。

「…本当にって思ったでしょエメさん?でもアレは本当に幻覚だったのよ」

そうだったのか。

もう、あの怖いお父さんじゃないんだ。

「もう、怖いの、しない?やってこない?」

「ーあぁ」

じゃあ、いいや。


「ただいま、お父さん」

「あぁ、おかえり、エメ」

精一杯の笑顔で、笑って見せた。

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