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Take Over Parents  作者: 深い海のお魚さんなのですよ
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エルフ〜

ーしかし困った。

匿ったはいいが、この子に一体どうしてあげたら良いのか。

彼女の親達の死体を埋め、血を拭き取り、何もなかったかのような状態にした後、目隠しを取ってやった。

「?」

少女は首を傾げる。

「ママ?」

「ま、ママだよぉ…」

…どうすれば良いのだ。

「おい其処の、子供の扱いはわかるか」

仲間の1人にあやし方を尋ねる。

「全く、隊長はなにも分かってないんですから…」

彼は、少女の前で屈んだ。

「ほーらみてて?」

彼は両手で顔を隠すと、

「ばあ!」

声と同時に両手を広げ、変顔を露わにする。

すると、少女はキャッキャと笑う。

「ほう」

この程度で笑うのか赤子というのは。

…2歳は赤子なのか?

もう立派な子供なのでは?

「あ!そういえば隊長」

彼は何かを思い出したかのように尋ねる。

「人間の言葉なんですけど、どう教えれば…」

そういえば、彼等は言語学とか何とかの為にここに家を構えていたそうな。

普通に我らと話しをしていたが、彼女は違う。

人の子であり、きちんと人の言葉で喋らねば、人間として十分に生きられまい。

「…!そういえばバベルの欠片はあったか!?」

「その手がありましたか!持ってきます!」

バベルの欠片。

世界がまだ一つの言葉で統一されていた時の時代の名残り。

これを身に付ければ他言語も聞き取れ、且つ会話も可能だという。

「この場合、言葉を覚えさせたらどちらの言語で喋ることになるのか…」

バベルの欠片による言語の学習に関してはまだ情報は少ない。

森精語になるか、はたまた人間の言葉になるか。

彼らの言葉を覚えているのだし、大丈夫とは思うのだが。

「持ってきました!」

彼は小さな小さな欠片を持ってきた。

何の変哲もない、ただの石ころ。

これが言葉を統一させてくれるのだから凄みがある。

「では早速ーあ」

落としてしまった。

全く、私とした事が貴重なものを落とすとは。

それを拾おうとした瞬間、少女にとられてしまう。

「あ!」

咄嗟に取り返そうと身体が反射するが、相手は子供だ。

さっきの勢いでは跳ねかねなかった。

「そ、それは大切なものなのぉ、早く返して、ね?」

言葉は聞こえているはず。

だがこちらを見るだけで、少女は言うことを聞かない。

「隊長、まずいんじゃ…」

「あぁ、まずいことになった」

どう取り返せば…。

そうあたふたしていた瞬間彼女は口を開けてそれを口に入れようとする。

「や、やめ!」

しかし、遅かった。

入れるや否や直ぐに飲み込む。

「ああ!隊長!」

しくじった。

異物を飲み込んでしまった。

死んでしまったら、あの人たちに合わせる顔がない!

「は、早く吐き出して!」

焦った私は少し乱暴に抱き上げ、背中をポンポンと叩く。

しかし欠片は出ず、聴こえるのは泣き声のみ。

諦めていたその時、彼女の周囲に光が迸る。

「な、何だこれは!」

彼女を取り囲む謎の光。

それが頭部に収束すると、光が消える。

「隊長…その紋章は…」

紋章?

何のことだ?

彼は彼女を指していた。

恐る恐る彼女を見てみると、そこには。

首に胸と背中、両手首に両足首に変な紋章が浮かび上がっていた。




「シカシックさん!見て見て凄いでしょう!」

できた花冠を、耳長の隊長さんに見せる。

「おお!上手くできているじゃないか!」

「えへへ」

褒められちゃった。

いつも私の為に頑張ってくれる隊長さん。

でもこの花冠は。

「パパとママのプレゼントなんだ!」

「…そうか」

悲しそうに隊長さんは下を向く。

パパとママが死んで3年になるらしい。

今日はその命日。

「私を守ってくれてありがとうね、パパ、ママ」

花冠を添え、石でできた墓の前で手をあわせる。

「…さて、今日はお前の誕生日だ。とびっきりのものを用意するぞ」

腰をよいしょと上げ、私の後ろでそう言う。

「やったぁ!私、ケーキがいいなぁ」

甘い甘いケーキ。

何度頼んでも中々つくってもらえなかった。

今日は作ってくれるかな?

「さぁて、どうかな」

「もう!教えてくれてもいいじゃん!」

私はむくれるが、教えてはくれなかった。

「なんなのよもう…」


「大きくなったものだな…」

彼女を家に戻し、墓の前でそう呟く。

「あなたたちの娘さんは凄いよ」

あの紋章が出て以来、読み書きや言葉はそつなくこなしている。

試しに宛先を人間の街でこそっと住んでいる仲間に送って見たところ、人間の言葉で書けているそう。

しかし驚いたことに、こちらの言葉にも見えたとのこと。

それも、あの欠片を飲んだ影響なのかは定かではない。

「あぁしかし、長かったなぁ」

時に我儘に、時にイタズラを、時に泣き喚き。

色々なことを、仲間達と共に越えてきた。

だが、基本は私が育てる羽目になった。

あの隊の中で唯一の未婚者だから、経験しといて損はない、だそうだ。

「母親というのも、大変なんだな」

彼らの墓をそっと撫でる。

「あんなにお野菜が嫌いだなんて思わなかったよ…肉はあんなに好んでるのに」

「でも今じゃ、野菜も好き嫌いなく食べれているぞ」

我らエルフは野菜第一肉偶にで食事をしている。

自然を賜る者として、肉は本能が欲した時に食べるのが習慣になっている。

なので悪戯に動物は狩らない。

狩っても保存しておくか直ぐ頂くかになる。

手がかかるもんだな、人間は。

墓の前で屈んでいると、半鳥人がくる。

「よぉハーピー、アンタもお祈りかい?」

「ちゃんとフアサって名前が有るんですけど、まあいいわ」

羽ばたきをやめ着地すると、跪いて墓の前で手を合わせる。

…翼を合わせるかこれは。

「…ワタシがもっと早く気づいていれば、こんなことにはならなかったのでしょうね」

「そんなことないさ、お前はよくやったよ。だって、あの子が生きているじゃないか」

彼女はもっと早く助けられていればと、ここに来ては最初に必ず口にする。

誰も予想していなかったことで、間に合わなくて当然なのに、負い目を感じている。

「でも、これを言い続けないと同じ事が起こった時に直ぐ反応できないでしょ」

あれからは怪しいものが現れる度にいち早く彼女は反応できるようになった。

今ではもう、ここで一番のセンサーだ。

「あぁ、頼りにしてるぞ」

肩をぽんっと叩き、あの子の誕生日の準備に向かう。

「送ってやろうか?」

「いいや、歩いてむかうさ」


此処「森人の地」は、あちら人間の街よりかは発展してはいない、しかしあちらで言う商店街のようではあると言われているくらいには発展している。

世はつまり、売り場がそう見えているということだ。

家は巨大な幹に、ロープで木同士を繋げ、橋をかけている。

商店街は地面に、木材で造られている小屋の様な作りが遥か先へと続いている。

上は生活圏、下は労働圏となっている。

この前も、ここで一緒に散歩していたっけな。

「また、連れてくるかな…」

買い物の品を探しながらそう呟いた。


『テレビってなに?』

昔、彼女にそう言われたっけか。

この地には電力というものは存在はしている。

大々的に電力は、森の怒りを買うということで引けてはいないが。

発電機を個人で所有するのは良いらしい。

彼女の家にも、風車がポツンと立っている。

「買ってあげたいのだがなぁ…」

エルフの町では技術力が疎く、電化製品そのものは少ない。

人間の街から配布された、携帯電話というものくらいしか私は持っていない。

充電器、小型の発電機を渡されたはいいものの、使い方がわからずに放置してたっけ。

「でもやっぱ、子供はすごいよなぁ」

子供の順応性はすごい。

モノを見て触るだけで使い方をなんとなく把握する。

脱帽ものだ。

以来使い方を覚え、偶に貸しては私も使い方を学んでいる。

「さて、そろそろ着くか」

甘味材料屋。

材料を書いたメモを再確認し、店へと入る。

「いらっしゃい、あら隊長さん!今日きたってことは、ケーキの材料かい?」

店主が元気よくこちらに気づく。

「やぁ、まぁそうだな」

「じゃあ安くしとくよ!今度は失敗しないといいな!」

ガハハと笑う店主。

そう、彼女の誕生日になると毎回ここに来て材料を確保している。

そして料理をしに家へと向かうのだが。

「…うるさいやい!」

レシピを見ているのに何故か失敗するのだ。

その度に他の者に『作ってやろうか』などと言われるのだが。

「今度こそ…」

絶対に、私1人で作ってやる。



1度目は小さな小さなお友達。

耳の長いリスのようなお友達。

今でも可愛がっています。

2度目はもふもふなお人形さん。

そういえばもう一つ、弓矢も貰ったかしら。

危なさそうだったから一度も使ったことはないのだけれど。

お料理は鶏さんのお肉が毎回。

とても美味しいのだけれど、何故かケーキはないの。

周りのみんなに聞いてみたのだけれど、『さてね』って教えてくれないの。

今日は何をくれるのかな。



「隊長、今のところは完璧です…」

「あ、そこの分量はですね…」

「ああ危ない!そこは…」

私の家に複数の人達。

後ろの方で指導を受けながらケーキを作ってゆく。

「シックさん、今度は上手くいきますよ」

「そ、そうだよな…?」

後ろから励ましの声を受け取る。

料理を作るだけなのに、なんなのだこの人の数は…。

1回目は1人居ただけなのだが。

2回目は5人になっていて。

今回は9人にもなっている。

プレッシャーがヤバイ。

「大丈夫です!隊長さんは、スポンジを作るのがへ…得意じゃないだけなんですから!」

そこはバッサリ下手と言って欲しかった。

「あとはオーブンに入れて…」

轟々と中で火が上がる窯に生地を入れる。

毎回ここで黒炭になるのだ。

火の扱いは全くわからん。

しかし、今回は9人もいるのだ。

当然失敗なんか。

「うお!なんだお前たち!?」

窯に生地を入れた瞬間、後ろにいた者たちが一斉に前へ詰める。

「ちょっと火が強すぎません?もう少し弱めときますね」

「窯の中はきちんと綺麗にしてるかしら…」

「美味しく焼けますように…」

…私より真剣じゃないか?

この時、この一軒から良い香りがしてきたと言う。


「今日も大丈夫そうかな」

ここで一番高い木の先で佇む。

夕暮れ時、夜目がきかないワタシにとってはここで活動限界だ。

あとは『羽根たち』が働いてくれるしかない。

「さて、今日はあっちの方に刺しといて」

飛び立とうとした瞬間、羽根の一つが震えているのを感じる。

変化を感じたようだ。

「この方向、急がなくちゃ」

「今度は間に合うからね」

また、あの子の家に何か起きるのか?

変化は変化で、良い方の変化であればいいのにと思いながら羽ばたく。



「できたぞ…!」

家の中で甘い匂いが広がる。

少し不格好ではあるが、ケーキは出来上がった。

「形はともかく…できましたね!隊長」

「あぁ!あとはあの子に持っていくだけだ」

包みは用意していなかったが、梱包の魔法で保存しておく。

「よし、向かうか!」

隊に収集命令を出し、街道を闊歩する。

まるで見せびらかすかのように、ケーキを両手で持つ。

町からは謎の歓声。

感涙に咽ぶ者も少なからずいる。

「いやケーキできただけなんだが」

そうツッコミながら、あの子の元へ向かう。



あの子の家が見えた瞬間、あの半鳥人フアサが急に飛び出してきた。

「うわびっくりした…驚かせるなよ危ないだろ」

「…」

真剣な顔でこちらを一瞬睨んでいたが、すぐに直し表情を崩す。

「なぁんだシックか、じゃあ変化は…え、ケーキ!?」

ケーキを見るや否や、半鳥人は仰天する。

「そんな驚かんでいいだろう…さ、向かうぞ」

あの子の家へと向かう。

家の前では、あの子にあげたカーバンクルが迎えてくれた。

キュウと可愛らしい泣き声と共に、ドアを開ける。

「いや待て!心の準備ってのがぁ!」

しかし遅かった。

家には、ちょこんとあの子が座っていた。

「んん…まぁなんだ」

「誕生日おめでとう、エメ」




「誕生日おめでとう、エメ」

シカシックさんが、ケーキを持ってやってきた。

「まぁ!素敵なケーキ!」

白くて赤い、まん丸なケーキ。

頑張って作ってくれたかのような、傾きがある不格好なケーキ。

「ありがとう!ママ!あ!」

「いけない、間違えちゃった…シカシックさん?」

あのいつも厳しそうな人が、目の前で泣いている。

後ろでも『隊長、隊長』と声をかけながら、部下さん達も泣いていた。

「あの、何か悪いことでも…?」

口元を手で押さえながら首を横に振る隊長さん。

何故かしら。


少し事件はあったが、ようやく落ち着いた。

「しかしママとは…うっ…」

思い出すとまた泣きそうになる。

なんなんだあの破壊力は。

部下も半鳥人も泣かすとは、まさか魔法の類?

それはともかく、無事滞りなく誕生日を迎えられそうだ。

「飾り、食品、室内、皿、プレゼント、良し!」

部下の一人が指差し確認を終える。

よし、やるか。

「それでは…えー、この度は……いや長いしいっか」

「では簡潔に…エメ、5歳の誕生日おめでとう!」

部屋では一斉にクラッカーがパンッと鳴り響く。

彼女の顔がワァッと明るくなる。

あ、目頭が熱い。

「すまん!ちょっと空気吸ってくる!」

勢いよく扉を開け、そしてすぐ閉める。

「はぁ〜〜〜!」


お部屋が、うるさい音と共に紙吹雪が舞い散る。

シカシックさんはなぜかお外に行ってしまったのだけれど。

「じゃあ、いただきます!」

ケーキを頂こうと、ナイフを取ろうとしたら。

「ああ危ない!俺が切るから、エメちゃんはお皿を前に」

ちゃんと自分で切れるのに、カホゴなのね部下さんは。

丁寧に三角にケーキを切って、お皿にそっと乗せてくれた。

早速フォークを差し込むと。

「まぁやわらかい!」

スッと、しかし何かに当たったけど、綺麗にフォークが入る。

上のイチゴがコロッと転がってしまったけど、この一切れをパクッと。

「ん!甘い!」

まるで口の中で幸せが広がるような。

隊長さんの愛が感じられました!




ワーワーと部屋が響く。

「何事もなくてよかったわ…」

羽根があんなに反応するなんて、ケーキはそんなに変化があるものだったのね。

あの羽根は、著しい変化が領域内で発生すると振動してこちらに伝えるという特性を持っている。

「ケーキにそんな…一応警戒しとかないと」

夕方、まだ明るく、周りが視認できる。

…あの子は笑顔で、彼女が作ったケーキを食べている。

「良かったわね、ママさん?」

ふっと笑うと、突然羽を摘まれる。

「あら、どうしたのエメ?」

下を向くと可愛い天使。

片手で持っている皿をぐいっと見せる。

「アナタも一口どうぞ?」

フォークをエルフらに強引に渡され、仕方なく一口もらうことに。

「あら、おいしい」

「ふふ、良かった」

いい味してるじゃないの。

これなら安心してこの子のママになれるわね。

そう思っていた時、外の羽根がブルッと震えた。

「…!」

異常に気がつき、窓の方をキッと勢いよく向く。

全身の羽が逆立つのを感じる。

間違いない。

「アイツだ」

そのことを伝えようとした瞬間。

ドアが勢いよく開く。

「お前ら!戦闘準備だ!武装次第、戦闘を開始する!」




「さて、行くぞお前ら」

再充填完了、必ず殺す。

あれから仲間は集めた。

他種族を嫌う者、殺しを生業とする者、その道の自信がある者ー。

数えて15名、銃を携える。

「本当にこんな数で、小娘一人ごときを殺るんですか?メギさん?」

「そうだ、これは三年分の報復だ」

無き左小指部分を摩り、あの日を思い返す。

あの鳥野郎にさえ邪魔されなければ、この苛立ちは消えたのに。

部下の顔の横を掠めるようにして発砲。

「…思い出すたびに俺らに向かって撃つのはやめてください…」

すまんといい、前に向き直る。

「では、『ドア』を出す」

息を整え、呪文を唱える。

「我が指を贄に、扉よ繋がれ」

右小指が消え、扉が現れる。

「いくらなんでも、指くらい俺らが」

「いや、俺が殺したいから自分で呼び出したんだ」

「自分でやるからこそ、だ」

連続して小指が消えた。

「それほどまでに子供を殺せと、上等だ」

この発言に、部下は少し引いていた。

しかし気にしない。

ドアノブに手をかけ、開く。

地面から約5メートル、我ながらギリギリであったのだな。

「よし、全員飛び降りろ」

今こそ、復讐の時。




空中から扉が現れる。

「これはまずい!」

感がそう伝える。

勢いよくドアを開け、部下に告げると、いち早くフアサが外へと飛び出す。

装備を整え、加勢に向かおうと振り向くと。

フアサがその1人を倒していた。

しかし、どんどんと黒服の奴らは降下していく。

「今加勢する!」

弦を引き絞り、照準を合わせる。

そして、彼女が足蹴にしていた人間を射抜く。

まず1人。

「!おいフアサ!待て!」

リーダーと思しき者を見るや否や、勢いよくそいつに向かって羽ばたく。

一斉掃射の音、しかし無事。

「しばらく持ってくれよ…」

矢を当てようと射出するが、加護のせいで弾かれる。

「チッあのバカ!」

舌打ちを鳴らすと、後ろから装備の整った部下達が現れる。

「行くぞ、フアサを援護するぞ!」

そう叫び、前へ詰める。

瞬間。

タァンと音と共に、フアサが撃たれる。

…加護が切れたのか。

頭を貫かれたのか、頭部が勢いよく後方へ行き、体が反る。

地面に倒れた瞬間、彼女は大きく口を開け。

「ーーーーーーーーー!」

言葉にならない甲高い声を森中に響かせ、脱力する。

「おい!じきにお仲間がくるぞ!その前に、エルフ共を蜂の巣にしてやれ!」

ハーピーは死際に奇声を発し仲間に知らせるという本能を持つ。

発声器官が残っている限り、自動的にそれは働く。

自らの記憶を乗せて叫ぶそれは、ハーピー達の記憶に刻まれるのだそう。

「…お前ら、よくも…!」

私の矢を合図に、部下達も掃射する。

しかし、奴等には効いていないようだった。

「魔法使い様に教えてもらって助かったぜ、ちょっと身体に負担がかかるが、防御魔法とのいは便利だねぇ」

普通の人間が魔法だと。

「余程、命を擦り減らしたいようだなぁ!?」

私は彼らに向けてそう言う。

普通の人間が魔法を使えば、人体に影響が出る。

当たった分だけ魔力を消費する防御魔法。

このまま矢が当たり続ければ自然と倒れてくれるだろう。

しかし、そんなもの構うまいと吶喊してくる。

「…!命知らずが!」

弓を引き、矢を放つ。

まずはあのバリアを無くさなくては。

このままだとあの子が。

「ぐはっ!」

後ろから声が聞こえる。

肩を射抜かれたらしい。

「怯むな!射続けろ!」

3本同時射出、しかし怯まない。

どのような覚悟で吶喊してくるんだこの人間は。

「目標2名沈黙させました!」

あと13、しかし弓で撃つにはもう距離が。

「弓矢が好きだね嬢ちゃん達?」

目の前で静止した男は、懐からナイフを取り出し斬りかかる。

後ろに引き、矢を放つ。

しかし拳で跳ね返された。

「俺があの子を殺せなかったことで、イライラが何年も何年も何年も何年も続いてるんだ。仕事もオーバー気味になって、依頼主から『そこまでしなくても』と言われる程になってしまってよ」

「だから頼むよ、あの子を殺させてくれよ嬢ちゃん?」

「殺させるかよ逆賊ども!」

周りは乱戦状態。

統率はおろか、命令もろくにできない状態だ。

誰か頼む!あの子を逃してくれ!



部下さん達がお家から出てってしまった。

窓を覗き込むと、怖いお兄さん達。

フアサさんが乱暴を働いていると、疲れたのかその場で寝ちゃった。

「怖いなぁ…」

怖くなってその場で蹲る。

すると、ゆっくりと扉が開く。

「だ、誰!?」

「はぁ…私だ…」

隊長さんだ、良かった。

「あれ!?すごい傷!大丈夫?」

心配して声をかけたのだけれど、問題ないと言って私の手を握る。

「逃げよう、ここから」

優しい手が私の手を包み込む。

怖かった私は、早くこの場所から離れたかった。

「うん、行くよリスちゃん」

リスちゃんを肩に乗せて、ふわふわの人形を脇に家から離れる。

もちろん、隊長さんの弓矢も背中に。

「お引っ越ししなきゃだね」

「あぁ、そうだな」

後ろでは、フアサさんのお友達と部下さん達が争っている。

私がここから去ると、後ろから大きな声で。

「誕生日おめでとう!良い人生を!」

と聞こえた。

手を振りたかったけど、隊長さんは前に進ませてくる。

「シカシックさん、私まだバイバイしてない」

「いいんだ、早く逃げるんだ」

後ろを振り返らず、どんどん進んでゆく。

黒い服のお兄さん達が増えた気がしたけど、特別な日なのだし、そういう時もあるのよね。

そんなことを考えていると、後ろから足音が聞こえてきた。

「シカシックさん、後ろに」

瞬間、手が離れる。

怖いお兄さんを、隊長さんが受け止めている。

「お前だ、お前は殺す!」

あ、覚えてる。

朧げだけど、あの声は。

もしかしてパパとママは。

「エメ!走れ!」

シカシックさんに言われて我に帰る。

何度も振り払われるけど必死に止めてくれるシカシックさん。

「でも!でも!!」

困っていると、小さな長方形の箱が目の前にコロコロと投げられた。

「誕生日プレゼントだ!君が気にいると、私は嬉しい!」

「それを持って早く、逃げて!」

プレゼントを持って、私は走った。


「どけよ、ガキが見えなくなるだろうが」

「いいや退くもんか、殺させはしない」

ナイフとナイフの鍔迫り合い。

力はほぼ互角。

弓は先程折られ、額と脇腹、腕、脚にキズ。

正直言って苦しい。

対して相手は魔法が切れたものの無傷。

防御魔法が切れたのに、何とタフな。

「こんなことをして、森の怒りを知るがいい!」

鍔迫り合いの最中、見てしまった。

彼女の家が燃えている景色を。

もう、彼女は戻れない。

戻るところなんてどこにも無くなったのだ。

「この畜生がぁ!」

ナイフを弾き、勢いよく刺す。

肩を貫く。

「ふふ、やるなじゃねぇか、でもなぁ、こっちにも執念ってのがあってよぉ!」

「ゴフッ!」

左脇腹を思いっきり殴られる。

掌に装備されたメリケンサックスによる殴打は、私の肋骨を容易く折った。

血が口から痰のように出てきた。

「はぁ…はぁ…」

ちょっとまずいかな。

「一度刺せたからって、いい気になるなよ!」

だらんとさせた右手から、鞭のような大振り。

これを躱すが、再度血が吹き出る。

肺に刺さったか。

治癒魔法を持続的にかけているが、間に合っていない。

「疎かにするんじゃなかったな…」

魔法の授業をさぼっていたことを悔やみながら、体制を立て直す。

どうする。

この男、案外倒れないぞ。

銃は空、弾倉の予備はこっちで対処した。

だが、ステゴロがここまでとは。

私は隊長、この森を守るための力。

なぜここまで押されている。

答えは簡単だ。

信念が負けているからだ。

体を奮い立たせろ。

あの子を守るんだ。

「森の精よ、今一度我に力を」

身体に光が収束する。

隊長特権、『深緑の纏』

「…ちょっと危ない雰囲気だねぇ、でも、怯まないからな?!」

左からの斬撃。

大振りではない、しかし致命傷を与うる程の力。

抜かりはなく本気で殺す一撃だ。

しかし、私は避けられる。

「へぇ!まだ避けれんのね」

「…辞世の句でも読んでおけ、己が自然に還るからな」

空に一閃。

もちろん外してなどいない。

「は!空振りじゃねぇかー」

避けた彼の足元から、木の根が勢いよく生えてくる。

「な!」

絡まるようにグルグルと捻り合いながら、上へと伸びていく。

「咲かせ、醜い緑の葉を」

やがてヤツの声は消え失せ、そこには新たに大きな木が立っていた。



精によると、家の方面の敵は壊滅、現在消化中とのこと。

犠牲者は半鳥人が12、我が部下は20とのこと。

途中湧いて出てきた増援にこっぴどくやられたらしいが、扉がまた出てくる前に魔法部隊が対処したようだ。

…あの時パーティーに参加した部下は外に待機していた者含めて30名。

「結構やられたんだな」

彼らを悔やみながら歩みを進める。

痛む身体を引きずり、前へ前へと。

すると、1人の少女が見えてきた。

「エメ!」

大きな声で、多少血は出たが叫ぶ。

こちらに気づいたか、少女はこちらへ走ってくる。

「シカシックさん!」

勢いよく、労らずに飛び込んでくる。

「もう大丈夫、一緒に帰ろう。私の家がまだあるのを忘れていたよ」

やはり彼女を孤独ですることはできない。

逃げても、何処へ向かえばいいのか、彼女はわからないだろう。

「ええ!シカシックさん!私のママ…」

恥ずかしそうに最後の言葉を言う。

困ったな、ママか。

悪くない響き。

「そういえばエメ、誕生日プレゼントがまだだったね、貸しなさい」

長方形の箱を取り上げ、中身を開ける。

「ネックレス?」

そう、キラキラと輝く首飾り。

「自然があなたを守るように祈りながら作ったの」

緑色のエメラルドのような石は自然の塊。

森が息をするたびに出る水が、他の草木に染み渡り、大地にて蓄積される緑色の結晶。

それを、彼女の首にかける。

「どう、ま、ママ?」

「うん、似合うよ」

…帰ったら、ママらしいことでもしてみるかな。


「…グッ」


背後に鈍痛。

「シカシックさん?苦しいよ…」

後ろを見せないよう、彼女を胸にギュッと抱く。

「何?前が見えないよ?」

耳を塞ぐようにし、後ろを振り返る。

「…殺す、お前も、そのガキも」

圧死させたはずの彼は、満身創痍の体で佇んでいる。

「防御魔法も、捨てたもんじゃないなぁ?おかげで…生きてるぜ」

息を切らしながらヤツは言う。

「実は、予備の銃は懐で温めててなぁ…爪が甘いぜ嬢ちゃん。…ガキと一緒に死にな」

瞬間、加護が付与されていることがわかる。

しかしこの至近距離。

弾は外れず、しかし貫通はしない。

だが、体に穴を開けることはできるらしい。

タァンという音が響く。

一発づつ、死ねと言いながら背中を撃たれる。

その度に鋭い痛みが全身に走る。

「くっうぅ…!」

血は、吐くものか。

彼女が怖がる。

死ぬものか。

彼女が悲しむ。

我慢しろ、奴は死ぬと、森が教えてくれている。

深緑の纏は、まだ切れていない。

弾が切れるまで、我慢しろ。

ー深緑の纏は自然の力。

自然の声が聞こえ、自然を感じる。

体には、癒しと大木のような硬さを。

森の怒りを自身が担い、執行する。

自然の頼みを聞き入れ、実行する。

人々の頼みのため、行使する。

使用者の目は自然の眼。

対象が両目で見えない限り、これは発動しない。

振り返ってもせいぜいが片目。

撃ち終わらねば、身体を翻した時にこの子に当たってしまうかもしれない。

耐えろ、耐えろ、耐えろ。

「8発目!よし…丁度弾切れか、まぁここまで撃ったら流石に死ぬだろう。なんせ、背中が蓮の実のようだからなぁ?」

…今だ。

意識が朦朧とする。

しかし、この両目でしっかりとヤツを見据える。

すると、大量の蔓が彼に巻き付く。

「なんだ、この蔓は…くっ…だめだ、体力が…」

振り解く力も尽きているようで、抵抗せずに蔓に埋れていく。

全身が蔓に絡まり果てたのを確認し、彼女を離す。

もう奴は出てこれないだろう。

「養分に、なるがいい」

そこで、体が一気に脱力する。

動けない身体で、何かを悟る。


「…ここまでのようだ」


「彼らの存在を知ってしまった私たちは、また彼らの侵入を許してしまうだろう」

「ここは危ない、仇討ちの為にいつ輩が来てもおかしくはない」

「だから、逃げなさいエメ」

彼女は心配そうに眺める。

「でも、でもシカシックさん!」

「ママの言うことが聞けないの!?」

怖気付く娘。

無理もない。

この日、初めて彼女を叱ったのだから。

「早く行って、きっと、貴女なら、大、丈夫…」




隊長さんが、ママが言ったようにひたすら走る。

ママは寝てしまったんだって、小さな声が聞こえる。

死んでないから安心してって声が聞こえる。

でも、もう戻ってはダメって、声が聞こえる。

「あれ?」

涙が溢れる。

もう逢えないと思うと、涙が止まらない。

「もっと、一緒に痛かったのに…ママ」

ママのような人だったのに。

走っていると、小さな声が、雨が降ると告げる。

雨宿りするところなんて何処にもない。

もうどこにも…。

…ざあっと雨が降ってくる。

悲しくなる。走りが歩みになる。

俯いて、泣きたくなる。

ふと、横を見ると洞窟が見えた。

ここで雨宿りをしよう。


「…寒いなぁ」

縮こまりながらそう呟く。

暗くて冷たい洞窟の中、私一人がいるだけ。

「いえ、あなたもいたわね、リスちゃん」

それにふわふわの人形に。

「隊長さんの、弓矢」

また寂しくなってきたその時、奥からゴロゴロと音がしてきた。

慣れない腕で弓を携える。

リスちゃんも警戒してくれる。

そこに現れたのは。

「おおっとヒトの子かい、こんなところでそんなずぶ濡れに…こっちへおいで、あったかいから」

岩の姿をした大きな人

あまりの優しさに驚く。

もっと恐ろしいひとじゃないかって思ったのに。


言われるがままに奥へ進むと、暖かいといくか、もっと奥へ行けば暑いと感じるくらいの熱気。

「あ、一応挨拶しとかないと。ごめんね、またついて来て」

手を引かれ、暑いところへ向かう。

…あれ、暑くない。

「暑いでしょうから私から離れないでね」

このヒトがそうしてくれてるの?


最奥へ到達すると、今までのヒトよりも大きな、真っ赤っかなヒトがいた。

その下はグツグツと音を立てるマグマ。

「女王さま、今日は相談があって参りました」

女王と呼ばれたその真っ赤っかのヒトは振り返ると。

「あら、人間の子じゃないの」

熱そうな顔を近づける。

怖くて少し、身体を引く。

「あらあら怖がらせちゃったかい?ごめんなさいね」

「アナタは…そう、エメって言うのね」

「!なんでわかったの?」

当たってる、なんで?

「なんでも知ってるわよ?だって大地が言ってるんですもの…え、そんな…」

「…安心してねエメちゃん、アナタは私が、責任を持って守ってあげるからね」



「それでいいのよね、エルフのママさん?」

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