不慣れな体
動く事すら億劫になるような鈍重な思考と、それを忘却させる程の四肢への激痛に、未だ馴れない義肢を酷使して起きあがる。
激しい発汗と荒い呼吸に自分でも驚愕するが、隣で閉じた瞳を擦る少女を起こしてしまった事に気付いて反省する。
「ふあ…どうしたのじゃ…?」
「起こしてしまいましたか…すみません、少し痛みが走ったんですよ。今は痛みも引いたんですけど」
実際は少し所じゃ無いし痛みも引いていないが、心配をかける訳にもいかないし適当に噓をつく。
痛みは癒える所か目や耳にも広がっているが、それよりもまずは。
「お腹、空きました」
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鉄板の上で焼ける肉と跳ねる油の音、少し血の残った牛肉とガーリックバターに垂らしたソースの匂いが混ざった独特の匂い、中心は赤いがしっかりと焼けていると思わせる焼け具合に、バツ印に切り開かれた部位にバターが置かれた馬鈴薯。
それら全ての要素に舌鼓を打ち、隣に置かれたナイフとフォークで牛肉を一口サイズに切り分けて口に運ぶ。
奥歯で噛み締めるとそれに呼応するように肉汁が溢れ、にんにくの風味が強いガーリックバターとソースに混ざって味をがらりと変える。
馬鈴薯を四分の一に切り分けて口に放り込み、口直しにお茶を口に含む。
食べ物の味なんてインスタントのものか賞味期限切れのなまものか精液程度しか知らないが、それでもこれがとても美味しいものだと言うことは理解できる。
「美味しい…肉って火を通すと美味くなるんですね…」
「いや…肉は火を通して食べるものじゃよ…」
なに、肉とは生で食べるものでは無かったのか!?
…なんて冗談は置いておいて、火を通した肉の味は知らなかったので新鮮だった。
少しのソースを残して全てが消えた鉄板にナイフとフォークを起き、渡されたナプキンで口を拭く。
「ご馳走様でした」
「うむ、全て食したのは良い事じゃ。それでは、仕事を始めて貰うぞ?」
勿論だ。元より私に未来も過去もない。ここから離れて野垂れ死ぬくらいなら、それならこの人…スカーレットさんに全てを任せよう。
物語の娼婦は、悪役に属するのが常だ。