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罰ゲームで告白してきた美少女ギャルと付き合うようになった件  作者: 夜依
美少女ギャルとのイベントラッシュは甘さマシマシな件
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第13話

「甘酒あるな。飲む?」

「美味しいの? 私、飲んだことないんだけど。っていうか飲んでいいの?」

「度数が低いから、飲酒にはならないよ。味はそれなり。まあ、温まるとは思うけど」

「じゃあ、飲んでみよっかな」


 その言葉に頷いて、たくさんある屋台のひとつに並ぶ。少し早めに夕飯を食べたせいで、両隣から漂ってくる屋台特有の食欲をそそる香りに腹の虫が小さく鳴いた。


「この時間ってお腹空くよね。他にも買う?」

「いや、ガッツリ食べたら明日の朝食べれなくなりそうだし」

「おせちにお餅にお雑煮って感じなの?」

「そんな感じ。まあ、さすがに買ったやつだけどな」


 おせちの二人分って中途半端な量の色々を作ることになるから、と付け足せば少し驚いたような顔をされる。

 しかし、芽衣のそんな顔も長くは続かなかった。なにか言いたげな視線は甘酒への興味に変わったからだ。

 あっという間に最前列になっていた俺たちは二人分の甘酒を頼んで、それを受け取る。


「……美味しい」


 適当に座れる場所を探しながら甘酒を口にした俺を見て、恐る恐る口にした芽衣は固まり切っていた表情を溶かしながら感想をぽつりとこぼす。


「和って感じの甘さだね。なんかほっとする」

「まあ、気に入ってもらえたなら良かった。っと、あそこ空いてるな」

「ほんとだ」


 屋台が並ぶメインの通りから少し外れたところ。まばらに設置されたベンチに腰を掛ける。喧騒と共に行きかう人々の流れを一歩引いたところから眺め、甘酒をちまちまと口にする。


「なんか、壮太っぽい場所だね」

「えっ?」

「いや、ちょっと引いて眺められる感じとか。……ごめん、忘れてちょっと恥ずかしい」


 まあ、そういうことならと視線を空へと向ける。夜空には満天とはいいがたい星空と欠けた月が浮かんでいる。

 だいぶ喧騒の方へと引っ張られていくことが増えた気がするんだけどなぁ。


「少し変な気分」

「なにが?」

「今年最後に顔を合わせるのも、来年最初に顔を合わせるのも壮太なのが」

「確かに。でも、まあ、それが当たり前になるといいよな」


 そう口にした瞬間、一気に恥ずかしさが増してきて視線を再び空に逃がす。先ほどは見えなかった流れ星が流れていくのが見えた。


「絶対そうしよっ!」


 元気のいい返事に口を開こうとした瞬間、ひときわ大きく鐘の音が響き、空には一陣の光が登って、そのまま花となって開く。少し遠くの喧騒は遅れてきた花火の音と共に一気に盛り上がり、慌てて時計を確認すれば、長針と短針はすでに重なっていた。


「あー、あけましておめでとう。今年もよろしく」

「こちらこそよろしくね、壮太」


 重ねられた手を絡めるように握り返して、空を見上げる。


「夏祭りみたいだね」

「確かに、そうかもな」


 あの時と恰好や気温、場所こそ違うが、空気感は確かにあの時とそっくりだった。

 少し思い出に浸りながら見上げた花火は綺麗でいつまでも続くような錯覚にとらわれる。しかし、それもそう長くは続かず、空には煙だけが残される。


「終わっちゃったね」

「メインじゃないからしょうがないだろ」

「まあ、そうなんだけどさ。夏祭りみたいとか言っちゃったから、もっと続く気がしてさ」


 俺もそう思ってた、そんな風に呟いてみたが、それは喧騒にかき消されてしまう。


「人、増えてきたね」

「この時間から来る人もそれなりにいるんだな」

「そうみたい。そろそろ帰ろっか。あんまり長居するのも悪いし」

「はいよ」


 少し冷たくなってきた芽衣の手ごとコートのポケットに入れて、この場を後にする。



「ちょうどいい時間だったみたいだね」


 神社を出てからしばらく歩いたが、駅前まで続く道は人で埋め尽くされていた。それは道路越しに眺めているだけでも、人混み酔いしてしまいそうなほどだ。


「そうだな。来年も同じくらいでよさそうだ」

「もう次の話しして、鬼に笑われるよ」

「いや、集合時間はギリ今年だからセーフってことで」


 ふふ、なにそれと笑い出した芽衣に、駄目か? と聞いてみれば全然と首を横に振って答えた。


「年の始まりに、年の終わりの約束をするって、ずっと一緒にいられそうだし」

「そう言われるとそういう気がしてくるな。まあ、そうじゃなくても一緒にいるつもりだけど」

「うん」


 いつの間にか先ほどまでの喧騒は消え、世界に二人っきりのような感覚に襲われる。少しあたりを見渡せば、もう駅前の大通りは過ぎていて、芽衣の家へと向かう途中の住宅街の中だった。

 無意識のうちに進めるほど慣れた道なのかと思わず笑いがこぼれる。


「えっ、なに、どうしたの?」

「いや、実はな――――」


 一年の計は元旦にありとよく言うが、もしそうなのだとしたら、芽衣の隣で笑っていられる年になりそうだ。いや、まあ、そうじゃないのだとしても、そういう年に二人でしていきたいが。

 だから、まずは手始めに、揃って鳴いてしまったお腹を軽く満たすために、コンビニにでも寄ろう。肉まんでも分けながら、美味しそうに食べる芽衣も見たいし。

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