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罰ゲームで告白してきた美少女ギャルと付き合うようになった件  作者: 夜依
美少女ギャルとのイベントラッシュは甘さマシマシな件
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第8話

 目の前にやってきたゴンドラに乗り込んで、芽衣の手を取り軽くエスコートをする。二人を乗せたゴンドラは間もなく扉が閉められ、ゆっくりと空中散歩が始まる。


「壮太、今日はありがとね」

「まあ、楽しんでもらえたなら何よりだ。これで終わりじゃないけど」

「え?」

「クリスマスだしな。今渡してもいいんだけど、少しは景色を見てからな」


 そんなやり取りをしている間もゴンドラはゆっくりと上を目指して進んでおり、地面からはだいぶ離れてきた。正面の窓には先程通過した高層ビル群が写り、足元では先程まで見上げながら歩いてきた夜景が所狭しと咲いている。


「綺麗だね」

「これを二人占めはなかなかに贅沢だな」


 そう言いながら芽衣の方へと視線を向けてみれば、ビルから溢れる明かりと、下のイルミネーションに照らし出され、世紀の天才が描き出す絵なんかよりも、幻想的な光景がそこにあった。思わず息を飲んで、メインだったはずの景色もほったらかしてしまうほど釘付けになる。

 しかし、諸行無常という言葉が語るようにそれも長くは続かない。まあ、今回はより良いものに変わったのだが。


「どうしたの?」


 視線に気づいてちょっと照れたように微笑みながら、こちらに振り向く芽衣。返すべき言葉もすっかり忘れてしまった俺は別に、とだけ返して名残惜しくも視線を逆の窓へと向ける。海には観覧車の電飾が映し出され、舞う雪も同じように街の光を反射し、立体的な光の景色が見えた。


「こっちも綺麗だね」

「まあ、そっちよりか落ち着いた感じだけどもな」

「それがいいんじゃん。みんな違ってみんないいじゃないけどさ」

「さようで」


 いくらか言葉を交わしていれば、ゴンドラはようやく頂点へと至ろうというところまで進んでいた。覚悟を決めて鞄の中の箱を掴み、隣に座る彼女の名を呼ぶ。


「芽衣」

「なに?」

「メリークリスマス」


 右手の箱を少し開いて、注意が疎かになった芽衣の手のひらに乗せる。

 箱を隠していた俺の手が退くと芽衣の視線は予想通り、というか、聞いていた通りにそれに釘付けになった。


「ねえ、壮太。壮太が付けて」

「はいよ」


 先程渡したばかりの箱から光を反射するそれを取り出して、すぐそこの薬指に優しく嵌める。第一関節、第二関節をゆっくりと進み、付け根のところでピッタリと止まる。


「良かった、ピッタリだ」


 しっかりと嵌ったことを確認し、安堵から言葉を溢したところで、自分の右手の同じ位置にもお揃いのそれをそっと嵌める。クリスマスプレゼントはペアリングだ。


「ありがと」


 短い言葉と共に向けられた笑顔が、今日見てきた景色のどれよりも見たかったもので、手放したくないと改めて思ってしまうほどのものだった。

 時間はゆっくりと流れていくように感じられたが、小さく呟かれた言葉と共に細い腕が俺をしっかりと抱き締める。


「えっ、ちょっ、芽衣さん?」

「いや?」

「別にそういうわけじゃないんだけども――」


 頂点を超えゆっくりと下りていくゴンドラは他からもあまり見られることはないのだが、やはり視線が気になってしまう。

 とはいえ、その不安げな視線を浴びてなお、言葉の続きを発することはできず、代わりにそっと髪をなでてから、そっと手をまわす。


「あっ」


 突然何かに気づいたような声と涙をこぼしだした芽衣。

 ひねりのない言葉で、どうした? と少し腕に力を入れて抱き締めながら聞いてみる。


「えっ、あっ、その、びっくりしちゃって。唯織に指輪はやめときなよって言われたんだけど、それが重すぎるって意味かと思ってたから。だから、壮太が用意してくれてたのが、それだけで嬉しくてたまらないのに、ペアリングだったからさ、もう感極まっちゃって……」

「ああ、そういう。まあ、そこまで気に入ってもらえたのなら良かった」

「気に入ったっていうか、もう最高だよ! そのお返しには足りないかもしれないけど、これ」


 泣き笑いする芽衣から言葉に小さな箱が二つ添えられて返ってくる。


「開けてもいいか?」

「うん。一個はさっき見てたやつなんだけどね」

「じゃあ、そっちから」


 少し細長い箱の梱包をそっと外し、ゆっくりとそれを開けてみれば中からは眼鏡が出てきた。雑貨屋をふらついていた時に、かけてみたりしていたものの一つだ。


「似合ってたから買ってみたんだ。今度はそれかけてデートしよ」

「まあいいけど」

「じゃあ、次の開けて。もうすぐ着いちゃうから」


 言われて周りを軽く見回せば半分ほどの高さまで来ており、ちょっとした空の旅は、あと数分で終りを迎えるらしい。

 急かされるがままにもう一つの箱を開ければ腕時計が姿を見せた。外からの灯りだけで照らされているから分かりにくいが、それはシンプルながらも洗練されたデザインで、芽衣プロデュースの私服はもちろん、制服にも合いそうな一本だ。


「ありがと、芽衣。大切に使う」

「うん。毎日使えるように制服にも合うようなの選んだから、そうしてくれると嬉しいな」

「まあ、制服とこれをセットで使うのは年明けてからだけどな」

「それは言わないでよ」


 悪い悪いと軽く返せば、ゴンドラのホームが見えてきた。


「ああ、もう終わっちゃうね」

「思ってたよりあっという間だったな。後半はあんまり景色見れなかったし」

「また今度来ればいいよ」

「それもそうだな」


 長いようで短かかった二人きりの時間はとりあえずここまで。ゆっくりと開いた扉。また芽衣の手を軽く取って地に足をつける。

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