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罰ゲームで告白してきた美少女ギャルと付き合うようになった件  作者: 夜依
遅くなれば後悔ばかりが膨らんで
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語るアテのない昔話

「はぁー」


 口からこぼれたため息は、私が思っていたものよりもずっと大きいものだった。先程見た光景はそれだけ衝撃的だったということだろう。その資格が無いのに雨音くんを諦められてなかったのかと、自己嫌悪が襲ってくる。彼と久しぶりの再会を果たしたのがついこの間のことだ。

 湊ちゃんから聞いていたとはいえ、彼女さんに優しい笑顔を向ける雨音くんは幸せそうで、私が望んでいた結末なはずなのに私の心を締め付けてきた。

 それから数週間。この間の再会に比べれば、ほとんど間もなかった再会は私の心にとどめを刺すものだった。

 向こうはこちらに気付きもしないで、話に夢中。断片的に聞こえた言葉から推測されるのは親公認の仲となったことや、その先を考えていること。

 どこかで糾弾を求めていた私には、丁度いいくらいなのかもしれないが。


「雨音くん……」


 自分の感情に振り回されながら瞳を閉じるとあっという間に意識は遠のき、懐かしい夢を見た。


 ***


「おはよ」

「ああ、うん」


 適当な相槌だけ打って読書に戻るのは昨日の席替えで隣の席になった雨音くん。クラスの中心というよりかは、隅の方で自分の世界に生きているような人。今日読んでいるのは、分厚いハードカバー。曰く家にあったから持ってきたとか。国語の教科書を数行読むだけで眠気に襲われる私には到底読めそうもない代物だ。


「それ、面白いの?」

「まあ、それなりに」


 他の男子は私とたくさん話そうと話題を広げようとするけれど、雨音くんはそういうことを全くしない。別に嫌われているとかそういうわけではなかったと思う。


 隣の席になってから、私はたくさん彼の一面を見てきた。勉強がすごく得意で、授業内容をすぐに終わらせて他のことをしていたり、かと思えば運動がそんなに得意じゃなかったり。冷めているようだけど、仲のいい篠崎くんとは年相応に笑いながら話したり、妹ちゃんの話になると人が変わったように喋ったり、どれも私しか知らないことだ。



 1ヶ月というのは楽しければあっという間に過ぎるもので、私しか知らない一面ばかりの隣人ともあと少し。次の席替えまであと数日となったある日のことだ。

 その日は確か日直の仕事で帰るのが遅くなってしまった。活気づいて部活に勤しむ生徒たちの声を背に帰路を急ぐと、途中の公園で私の思考の割合を日に日に占めていく彼の姿があった。小学校に上がる前くらいの女の子と話している彼は、今まで見たことも無いとても優しい笑みで女の子の話を聞いている。


「あれ、姫野?」


 視線に気づかれたのか、女の子と手をつないだ雨音くんが声をかけてきた。少し話を聞いたところ、帰り道に泣きじゃくるこの子と会ったらしい。宥めて話を聞く限りだと迷子らしく、怪我もしていたので、その手当をして今から交番に行く所だったらしい。私は盗み見た彼の笑みをもう一度見たくて、付き添いを買って出た。


 それがきっかけだったのだろう、私と彼の距離感が縮まったのも、彼への気持ちが強くなりようやく自覚したのも。

 次の席替えで私達の距離は、遠くもないけど話すほどは近くないといった微妙でありふれたものになった。それでも、何かのきっかけを見つけては彼と話した、周りというものも特に考えず。


 月日はめぐり、日めくりカレンダーの厚さも四分の一くらいになった。私はついに手紙にすべてを託すことにした。これが、大惨事になるなんて知らずに。

 親友の湊ちゃんにも相談しながら書き進めるも上手くまとまらない。最終的に出来上がったのは消しあとやらでぼろぼろになった便箋の束。残った枚数はわざわざ数える必要もないくらいに少なくなったので、妥協の末に校舎裏に来てくださいと精一杯緊張を押し殺した可愛い字で綴った。





「姫野さん、昨日は申し訳ございませんでした。身の程を知らず、分を弁えず、呼び出しを無視してしまい申し訳ございませんでした。今後は身の程をわきまえ、二度と関わることがないようにします」


 休んでしまおうかと思ったりしたものの、そんな勇気も出なくて、寄り道、回り道の末に3時間目からの登校になった私を迎えたのはクラスの子からの心配の声。

 それから間も無く、謝罪コールに包まれてやってきたのは、昨日私が待ちわびてついには姿を見せなかった人。目があったと思えば、深々と頭が下げられる。次の瞬間には教室を包んでいたコールが嘲笑と野次に変わる。

 深々と下げられた頭がようやく上げられた時、彼の顔には私の知る笑顔も、目立ちにくいけど確かに豊かだった感情もなく、代わりにすべてを見限ったような諦めたようなそれだけが残っていた。


 呆然としていた私は、彼を助けるための声すら出せず、代わりに出てきたのはこの場で彼を最も追い詰めるであろう涙だった。湊ちゃんをはじめとするクラスの子に慰められ、彼には悪意の乗った罵詈雑言が向けられる。やがて悪意は伝染していき、1週間と経たずクラス中に蔓延り彼は共通の敵へとなっていった。


 相手の来ない手紙を貰っていたこと、面倒事を軒並み押し付けられていたこと、他にも挙げていけば、片手では数えられない程。


 ***


「まただ……」


 いつも通り雨音くんが嫌がらせを受け出したところで夢から覚める。もし少しでも私が肩代わりできたなら、そう願ったこともあったけど、彼に近づくことすら許してくれず、彼は私を責めることもなかった。


 私が涙の代わりに告白を、そこまで行かずとも庇うなりしていたのなら、彼はあんな目に合わなかったのではないかと自責の念が襲ってくる。

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