ふたりのこれまで
帰り道、目を閉じると、先ほど見ていた花火の光や音が鮮明に浮かび、次いで芽衣への告白が思い出され顔が思わず熱くなる。そういえば、先ほど少しだけ触れた、芽衣と話すようになったきっかけを思い出してみるか。あれは今から4か月近く前の事だ。
桜が舞い散る春。芽衣に呼び出された俺は屋上で告白をされた。
関わりも接点も全くないギャル風の金髪美少女がなぜ俺に告白を? と思いながら、罰ゲームか? と聞いた。すると、そうなんだけど、と予想していた答えがかえってきた。俺は、俺の観察眼も濁ってないもんだ、みたいなことを思いつつ、まあ、いいけど、と許す趣旨の返事をした。けれど、それはどうやら気になる人に告白する、といった罰ゲームだったらしく、告白に対する返事だと思った芽衣と俺の間には、勘違いが生まれた。そのあと、芽衣がそう気づくまで、そのすれ違いは続いたらしい。
今思い出すと、笑えてくるような話だ。無駄に疑った結果ずいぶんと遠回りをしたのだから。夜道で押し殺したように笑う俺は、なんというか危険人物っぽいな。
そんなことを考えていると、携帯が鳴りだす。
祐奈には遅くなるって連絡をしたが、いったい誰からだ? と思いながら画面を見ると篠崎の文字が。
篠崎は俺の中学生の時からの友人で、顔がよく運動神経もよい、モテ男だ。ただ、なんというか頭が非常に残念。まあ、頭までよかったら絶対に友人になることはなかっただろう。
「もしもし」
とりあえず電話を取ることにした俺は、携帯を耳に当て、意味は知らんが、電話でのおなじみの挨拶をした。
「おっ、今回は繋がったな」
「何の用だ?」
「いや、告白しそうな感じだったから、結果を聞こうかと」
「そうかい。付き合うことになったよ」
「おお! おめでとう!」
電話越しに聞こえる声が大きくなり、心の底から祝ってくれてるのは分かるのだが、少しうるさいので電話を気持ち離す。
「ありがとよ」
「しかし、長かったよな。最初にそういう話題があがってから4、5か月たってるだろ」
「そうだな」
「いきなり廣瀬が雨音に話しかけてきたところからだもんな」
まあ、そうだな、と肯定しておく。篠崎は屋上での一件を知らないので、そういう認知になっているが、言い触らすようなことでもないので、このまま黙っておく。
「そこから結構いろいろあったよな。最初は雨音父親疑惑だっけか」
「芽衣の一番下の妹、朱莉ちゃんと俺、芽衣の3人が写ってる写真のやつだな」
篠崎は、俺と芽衣の話を順を追って振り返る気らしい。まあ、帰り道はまだ長いし、電話代は向こう持ちなのだから、付き合ってやるか。
「普段噂なんか信じない篠崎がいきなりお前、父親になったのかって聞いてきた時は流石に驚いたな」
「いや、実際に写真を見ちゃうとな」
「そういうもんか」
篠崎と、篠崎の彼女の若宮さん、そして小さな子が仲睦まじく移っている写真を想像してみる。篠崎が責任を取れない行動をするとは思えないが、確かに少しは驚きそうだ。
「次はなんだ? お前らのデートに遭遇しちゃったところか」
「あれは母さんと祐奈の仕業だ」
「祐奈ちゃん、お前の妹とは思えんよな」
失礼だな。俺とは似ても似つかぬほど可愛いが、一応血を分けた兄妹なんだぞ。
「まあ、それはさておき、そのおかげで今のグループがあるよな」
「芽衣と若宮さん、俺と篠崎のグループだな。確かにそうかも」
「このグループで結構いろいろやったよな」
「そのあとの学校生活にしろ、夏休みにしろ殆ど出かけるって言ったらこの4人だったしな」
少し記憶をたどってみるが、やはりそうだ。そう考えると、あのデートは結構大事なターニングポイントだったのかもしれん。
そのあと少し夏休みの話で盛り上がってしまったが、話を戻す。
「そうだな。で、このグループになって勉強会したり、誕生日会やったりしたよな」
「ああ、したな。芽衣の誕生日に色々されたり」
「それはお前が適当な恰好なのが悪い。どうせその時あげたワックス残ってるんだろ?」
「まあ一応」
「あの廣瀬の隣に立つんだから、その辺多少は気をつけろよ」
分かってる、と答える。
さすがに適当のままは駄目だと思ってるから、明日の朝にでも祐奈に頼むつもりだったし。自力で出来ないのは、あとで覚えるってことで、どうか許してほしい。
「誕生日会の後は俺以外全員風邪引いたな」
「そういえば、廣瀬の見舞い行ったとか言ってたな」
「ああ、まあ」
そこでは、芽衣の昔話を少し聞いたのが印象深かったな。芽衣への印象がガラッと変わった一つのきっかけと言っていいだろう。
「それから、お前の誕生日があって夏休みだな」
「夏休みはさっき話したが、そんなもんだな」
「嘘つけ、廣瀬家と遊園地に行ったんだろ」
「まあ、そこは特に進展なかったと思うぞ。下の子の相手が主だったし」
「そうか。でも、よく平然と行けたな」
確かにな、そう言いつつ、思わず苦笑いしてしまう。
「そして、最後は二人っきりの花火大会か」
「それはそうだけど、それはいいだろ。もう家着くし」
「ああ、そうか。じゃあ、おやすみ」
「おう」
そう言って、俺は電話を切り深呼吸をしてから家の鍵を開ける。俺の予想が正しければ、この疲れ切った俺に質問攻撃をしてくる祐奈が家で待ち構えているはずだ。