父と娘
「何を呆けた顔をしておる。剣を持たぬか。」
この家の主人が鬼の形相でこちらを見ている。
(やるしかない、、、のか、、、、でも、、、僕は剣を握ったこともないし、、、どうしたら、、)
心の声が漏れそうになる。そんな中、ふと思いついた。
「娘がどうなってもいいのか。」
私は、咲の首に剣を当てた。
(最低な行動だとわかっている、それでもまだ死にたくない。)
そんな思いを胸に、生き残る最善の道を探す。
しかし、
「ふん、お主中々考えたようだな。」
主人は、動じない。
「ほ、ほんとに殺すぞ」
私は、恐怖におののきながらも、脅しを続けた。
咲から聞こえる吐息が私の中恐怖と罪悪感を増大させる。
「貴様にできるかの?足が震えておるぞ。」
主人はやはり動じない。
(く、くそ、、どうしたら、、)
このまま続けても意味がないことは明らかであった。
「神様、、、助けて下さい」
私は消え入りそうな声で泣きながら叫んだ。
(たたたたたたたたた)
突然子供が走ってくる音がした。
「私を呼んだのは誰かな??タケル君かー。可哀想に、、、何十倍も老けちゃって、うふふ。」
「その声は、、、」
「呼ばれてきちゃった、アタシ、ダキニちゃんで~す。」
陽気に現れたのは、私をここへ連れてきた謎の少女だ。
「どうして私をここへ連れてきた。何で私を選んだ。」
私はずっと気がかりだった疑問を投げかけた。
「答えてあげなーい。うふふ。今はとりあえず助けてだけア・ゲ・ル。答えてる暇も無さそうだし。」
ードスッー
低く鈍い音が突然響いた。謎の少女が主人の腹にパンチを食らわせたのだ。
「昂ぶるな、かつてを思い出す。娘によく似ておるが、容赦などせぬぞ。か弱いガキをいたぶるより、中々楽しそうではないか。」
主人は、中々興奮している様子だ。私は今のうちに逃げるしかないと思い、咲を解放し、ドアへ走る。
しかし、ドアへ手をかけると突然腕を掴まれた。
「く、くっそ、逃げれないのか、、、」
私は絶望の声をもらす。
「ワタクシも連れて行って下さい。」
咲だ。咲が消え入りそうな声で私に懇願する。
「お姉様のあんな姿見たくなかった。きっと悪魔に取り憑かれたのですわ。きっとこに宮殿を出れば、お姉様を戻す手立てが見つかるかもしれない。それに、ワタクシもこの宮殿に残るのは危ないと思います故。」
咲にこんな絶望に満ちた顔を見てしまって、見捨てることはできない。しかし、私は彼女にひどいことをした、それに咲を守る手立てもない。
「君はここに残るべきだ。お父様だっている。それに、姉が辛い時は、寄り添ってあげるべきじゃないか?」
私は、こう言うしかなかった。
ーア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ー
突然、宮殿内にうめき声が響いた。
「お姉様の声、、、ですわ。」
咲は声の方へ走りだした。
「女の子にあんな顔させて逃げる訳に行かない。」
私は、そう心に決め、咲を追って走る。
長美の元へ辿りつくと、そこには、変わり果てた長美がいた。身体中傷だらけで、意識も遠くなっている感じだ。
「お父様、どうしてここまで。」
咲の声が響く。
「こうするしかなかったのだ。あまりの性格の変わりように、長美だと気づけなかったの私の落ち度だが。」
主人は答える。そして、立ち上がり、
「先程を無礼を働いてすまなかった。私は長美と咲の父の岳だ。折り入って頼みがある。聞いてくれるかね?」
態度の変わりように、私は驚きを隠せない。
「は、はい。」
「咲と共に、旅をし、長美がこうなった理由を探して欲しい。長美が変わり果てた日に、突然現れた君には、運命を感じる。ここへ来たばかりの君に重大な頼みごとをするのは気が引けるが、受けてくれるかね。」
状況を考えれば、当然の要求だ。
「どういうことですの、お父様。お姉様がこんな状況なのに、ここを離れろ、なんて正気ですの。」
「咲、すまないとは思うが、状況が状況だ。君はここへ来て間もない彼を1人でほっぽり出せるのか?」
「仕方ない、、、ですわね。」
旅立ちの日
「僕のためにごめんね、、咲。僕はこのままじゃ皇位には就けないし、迷惑かけてばっかりでほんとにごめん。」
松葉杖で支えられながら、立つ長美の姿はとても痛々しい。
「そんなことないですわ。お姉様は身体を治すのに集中して下さい。」
泣きそうになりながらも、姉を慰める咲も辛さが滲み出ている。
「咲、少しだけ、時間をくれるか?」
「はい、お父様。」
咲と岳は、神妙な顔つきで何か話していた。




