princes
遂に武力行使の日が来た。
立派な服を着せると勝てるとでも思ったか、その日の甲冑は豪華だった。
俺は拒んだ。いつもの軽装で良い。
勝てる自信はあった。が、勝ちたくも無かった。
人を殺める事はしたくなかった。
複雑な感情の中、馬に揺られる。
それからは風のように事が進んだ。
飛び交う悲鳴と剣の擦れる音、馬の嘶く音。
泣き声。
破れた服の裾が事の悲惨さを物語っていた。
城の前までたどり着いた。
長かった物の、おかげで感情は掠れ、消えていった。
血の赤と、汚れた肌の茶色しか無い視界の端、
薄い桃色のレースが映った。
その瞬間、護衛の兵がそれを取り囲む。
それ、と目が合う。
合った。
忘れていた事を申し訳なく思った。
その澄んだ紫の瞳がこちらを見ていた。
目を見開く相手の様子で確信を得た。
小さく首を傾げると、相手は微かに微笑み、眉を下げ、微笑み、を繰り返した。
戸惑うのも無理は無かった。
あの日会った相手は敵国の姫だった。
このまま時が止まれば、とお伽噺の様に一瞬だけ願ってみる、
うちの兵士が傷付いた。
願って、自身も困ったような表情を向ける。
相手の護衛が傷付いた。
続々と敵を倒していくうちの兵士に誇りは感じなかった。怯える姫の顔は見たくなかった。
いよいよ向こうの護衛が一人になった時だった。
こんなにも癒しは与えられないのだろうか。
俺と姫が何をしたんだ。
『とどめは王が』
敵国が何だ?
『最後まで守り抜きます、由香王女』
尚も困った様な顔を浮かべる様と、真剣な従者の姿に、我慢が効く筈が無かった。
最期に名前が聞けて良かった、
俺も目敏く観察するな、この状況下で。
とどめを差す。