King
「ここに、松闘家の王位を継承する事を……」
誓います、だろと心の中で毒づきながら跪く。
頭に王冠を授けられた、その時から重い責任も背負うことになった。
少なくとも、この国の情勢は背負う。
敵国に攻め入る事を目標とする派閥と、平和に交渉する事を目標にしている派閥。
国は割れる、収める立場は俺だった。
内乱を避ける為、事なかれ主義の父は前者に決めた。
王とはまた名ばかりか、決定権は父にある癖に。
関係無い民の命を奪う事は必要なのか?
痛みは同じく筈だろ、敵国とは言えど向こうに友達が居る人も、想い人が居る人もあるだろう。
馬鹿じゃねエか、と呟いてみる。この口調は誰から学んだでもなく、勝手に身についた。
最も、他の誰にも聞かせた事はない。
剣の腕も上げさせられ、馬術も戦術も上がった。
次第に感情を燃やす事は諦めた。
持つだけ無駄だった、兵士は戦い死んでいった。
敵国を滅ぼさない限りは俺も見限られる。
やはり王位は立場上の物だけであり、俺に権利は一切無い様だった。
培ったのは、兵士の信頼だけだった。
朝、目覚めると父が入ってきた。
開口一番、
『最大の名誉だ、王。自ら戦地に赴き、私の代わりに滅ぼしてこい』
と言った。
王自ら死にに行けと?この国も腐った奴が治めている。
どうやら俺が死んだら弟が王位を継承させられるらしい。
召し使いがそう噂しているのを聞いた。
ただ、俺が死ぬ事は無いという噂も聞いた。
それほど強くも無い、性格も温厚ではない。
皆俺を知らなかった。
本性等バレて堪るか。
その晩、いつか行った森を夢に見た。
花の道、鳥の声、全部鮮明に覚えているのに
どうしても話したあの少女の顔だけが思い出せない。
それで良かった、筈だと前に思った。忘れるべきだと思っていた。
霞んだ夢の中で、柔らかい笑い声が残った。