序章
隣国と我が国は敵対していた。
何故かと聞いても、父は語らなかった。
理由も解らず戦うのか、と嫌気がさした。
『王子、そろそろ』
使者が声を掛けに来るのももう飽きた頃だった。
いつも通りにいつもと同じ馬、コース、散歩とは名ばかりの視察の癖にな。
森に入った辺りでいつもと違う道に行きたい、衝動が起きた。
これまで反抗もせず素直に業務は果たした、民の人気もかっただろう。やる事はやってきただろ、羽目くらい外させてくれ。
そう思いながら森の小道へと逸れた。
初めて見る景色、鳥の声をこんなに近くで聞いたのはいつ以来か。
子供に戻ったように花や鳥を追い掛けた。
帰れない。帰りたくないが、それ以前に道が分からない。
王位継承も目前と言うのにこれでは怒られる。
多少焦っているとどこからか歌声が聞こえた。
『~♪』
気持ちよく響く音に心を奪われる。優しい音楽は苦手だったが、何故だろう。
近寄ると驚かれる、若い…女か?
「…あの」
『え…!?あ、はい,!』
いきなり驚かせてしまった、高い位置からは失礼だと思い馬を降りる。
鳥の声が響く中、言葉が見つからず一瞬の沈黙が流れる。
「…道、分かりますか」
『あ…えっと…どこから来たんですか?』
目線が逸れる。秘密で来ている立場上、公には出来ない。
「**国、
…ここは国内か分かりませんが『**国!?』
思わずぽかん、として見ると慌てて相手は取り直した。
『あ、ごめんなさい…この道をこう…まっすぐ行って…』
細かく教えてくれた上に親切だった。
顔立ちが綺麗な人だった。
心優しく温かい人物に、会ったのは久しぶりだったからかもしれない、が確かに俺には魅力的に映った。
またいつか出会えたら良いのにな。
と思えた人は初めてだった。
…色恋沙汰は御免だ、どうせ俺は政略結婚だろう、無闇に惹かれては困るな
と、思っていた俺はまだ恵まれていたのだと思う。