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フォワード・マーチ  作者: 達py
あとがき
1/1

ノスタルジア




  ーーどうしたの?



  ・・ひっく、ぐすっ



  ーーイヤなことでもあったの?



  ・・…あたしって、そんなにおかしい?



  ーーどうして?



  ・・…空気読めないって。気持ち悪いって。宇宙人だって。



  ーー君が、かい?



  ・・間違ったことなんて、あたしは言ってないのに…



  ーーぼくはそんなこと、思ったことないけどなぁ。



  ・・…ねぇ、あたしって変なの? みんなと違うの?



  ーー変かどうかはよく分かんないけど、みんなとは違うんじゃない?



  ・・…やっぱり、そうなんだ…



  ーー何で悲しそうな顔するの? 違うのってそんなにイヤ?



  ・・…だって、違うって理由でみんないじわるする…みんなと同じがいい…ふつうでいたい…



  ーー”ふつう”って、どんな?



  ・・…え? どんなって…ふつうはふつうだよ…



  ーーうーん、よく分かんない。けど、みんなと違うって事をイヤがる必要はないと思うけど。



  ・・どうして? みんないじわる言うんだよ? 楽しくないよこんなの…



  ーー例えばさ、ぼくがいつもこうやって河川敷でリコーダー吹いてるのは、”ふつう”なの?



  ・・……ううん



  ーー確かにいじわるな事を言う人もいるよ? あいついつも河原でリコーダー吹いてんだぜー、だっせーって。



  ・・……



  ーーでも、だから何?って思うんだよね。別に誰かに迷惑をかけるわけじゃないし、何よりね、ここで吹いてたら時々、全然知らない人が上手だねってほめてくれるんだ。



  ・・…この前も、言われてたね。



  ーーうん。するとね、すごくうれしくなるんだ。だれかにほめられたくてやってるつもりじゃなくてもね、好きでやってる事に笑顔で向き合ってくれる人たちがいるって思うと。



  ・・……



  ーーだからぼくは思うんだ、みんなと同じようにすることが、絶対良いわけじゃないって。だってこのうれしくなる気持ちを、いじわる言ってくるヤツはきっと知らないし。チームワークも大切だし、みんなと仲良くするのも大切だけど、それと同じだけ”みんなと違う”ことも大切にしなきゃ。



  ・・みんなと違うことも…大切、に…



  ーーねぇ、今からぼくの家来ない? 一緒にピアノひこうよ。



  ・・ええ? 無理だよ、あたしピアノひいたことないし…



  ーーじゃあ今日が初めてピアノをひく記念日だね。



  ・・…君のせいで、あたしの記念日もう覚えられないんだけど。



  ーーあははっ、それは絶対大げさだよー、そんなに記念日作ってないよー。



  ・・もうっ



  ーーあれ、行っちゃうの?



  ・・…君が言ったんでしょ? ……ピアノ、教えて。



  ーー…ふふっ、良いよー。




     ・     ・


     ・     ・


     ・     ・



「…どうしたの?」



 男の子に声を掛けられ、夢から覚める。あの当時のまだ幼い顔と比べてもやっぱりこの人は変わらないなって、改めてそう思った。



「…あたしが学校の授業以外で初めて音楽した頃のこと、ちょっと思い出してて」



「へぇ、初めて? いつの事なのそれって?」



「小学4年生の時、河川敷でリコーダー吹いてたあなたが一緒にピアノ弾こうってあたしを家に誘った時。憶えてない?」



「あぁ、めっちゃ懐かしいー! え、あれが初めてだっけ?」



「そうよ、そう言ったもん!」



「そこまでは流石に憶えてねぇw うっわぁ、思い出しただけで恥ずかしい、何で河川敷でリコーダー吹いてんだ俺…」



「確か、家で吹いたら隣の家の人に怒られるから、でしょ? 2人でピアノ弾いた時もカンカンに怒鳴ってきたけどね、あのおじさん」



「よく憶えてんなぁ…あったあった、めっちゃ恐かったあの人」



「ねぇねぇ、あの時連弾した曲、今やろ? 2声だったから出来るよね?」



「えーっと…曲なんだっけ?」



「嘘ぉ、それまで忘れてるのぉ!? あたしにとって思い出の曲なのにっ!」



「ごめん、ごめんて! ポカポカ叩かないでってか楽譜あんの?」



「もぉ、あたしにとっては大切な曲だからいつも持ち歩く楽譜ファイルに閉まってるのっ。ほらっ」



「……あ、これ俺が書いたんか。どうりで汚ねぇ手書き譜なわけだ」



「まずそこに注目するのね…」



「うーん、ちょっとアレンジして良い? この低旋律、ユーフォじゃ吹けないし」



「あ、そっか。ピアノ用に書いたもんね」



「うん、ついでにそっちの旋律も書き直して良い? サックスらしいのにしてみたい」



「…すごいね、相変わらず。何で仕事断っちゃたの?」



「…うーん、何でかな? その気にならなかったから?」



「えぇ…そんな理由で蹴ったの? あなたって…」



「良いじゃん。俺はまだみんなと一緒に音楽してたいんだよ」



「…チームから離れたら、あなたって本当に自由よね」



「そう? ねぇ、試しにここ吹いてみて?」



「え、いつの間に? もう書いたの?」



「試しだよ試し、ちょっとだけ」



 そう言って、今会話していた間にさらっとに書いた手書きの数小節の譜面を受け取り、目の前の譜面台に飾る。


 あたしに譜面を渡した後、彼は膝元に寝かせっぱなしの銀色に光るユーフォニアムを起こし、構える。その楽器で奏で出した旋律は、まさしくあの連弾した時のメロディ。ううん、あの時の何倍も華麗に歌い上げられる。


 首のストラップから提げていた金色のアルトサックスを両手で抱え、黒いマウスピースと本体と同じ金色のリガチャーに挟まれたリードを口元へと持っていき、唇で咥える。

 彼が書いた旋律を見ると、なぜだろう、今すぐにもこの楽器で音にしたい衝動を掻き立たせる。その好奇心をそのままに、サックスに息を吹き込む。




 彼は本当によく理解している。


 それは楽器の特質とか、作編曲の仕方とか、勿論それもそうなんだけど。



 他人との関わり方が、あたしはとても不器用で。

 それで何度もトラブルを起こしてしまった。去年だってそう。


 今だから言えるけれど、あたしは本当に人の事をちゃんと考えられない、不器用な人。



 今こうやってあたしがサックスを吹き続けていられるのは、紛れもなく彼のおかげ。


 あの頃から変わらない。


 音楽がある日々。


 音楽を「音楽」と心から思える日々。


 そのスタートも、彼がきっかけ。



 あたしにとって音楽は、楽しさを作り出してくれるものであり、優しさを与えてくれるものであり、仲間を紡いでくれるものであり、「私」をカタチにしてくれるもの。

 まるで、彼のよう。




「ねぇ、聞いても良い?」




 うん? と彼は吹いてるそのままの体勢でこちらに目を向ける。







 ーーあなたにとって、「音楽」とは、どんな存在ですか?



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