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カブを焼き殺したことで、取り巻きたちは我先にと酒瓶を放り捨てて逃げ出した。
先ほどまであおに突っかかってきていた冒険者は、その場で腰を抜かし、ガダガダ震えている。
あおにひどい仕打ちをした仕返しに、思いっきり顔に蹴りを食らわした。
「……あれみたいになりたくないならもう関わってくるな」
鼻がひしゃげ、歯が数本抜け落ちて流血しながらが気絶した。
一部始終を見ていた周りの住民たちは、悲鳴をあげて自分たちから離れようとする。
彼らが駆け出して離れた先では娯楽に興じているものは誰もおらず、突然崩壊したラームの街を呆然と眺めている。
そこに、彼らが血相を変えて逃げ出している様子を見て、カブとのやり取りを知らない住民たちは、大人数が逃げ出すほどの何かが起きていると思い込み、同じように逃げ出す。
まさにドミノ倒しのように次から次へと訳も分からず逃げる人々で、収拾がつかなくなっていく。
中には逃げ遅れて後ろの人に押し倒されて踏まれる者や、家族で集まって逃げることが出来ず、離れ離れになる者が続出する。
なんとか収めようと声を張り上げる者もいたが、逃げ惑う人々の波に勝つことができなかった。
ラームの街よりある意味悲惨な光景が目の前で繰り広げられていくのを眺めていると。
「……なんとかしなくていいの?」
「馬鹿言え。さっきまであんなにおれたちのことをボロカスに言ってた奴らなんてどうでもいい。あおは何とかしないかなくていいのか?」
「私も遠慮する。ギルド長がラームの街のこと、住民のことを一番に考えてナニかに対しての打開策は街の破壊しかなかったのは明白。もし破壊せずに暮らしていたら一生ナニかに怯え続ける生活が始まっていた。それに、水みたいになれるんだったらいつか空気中に霧散していたかもしれない。それを考えるとやっぱりギルド長の選択は間違っていなかった。なのにあんな仕打ちをされたらもう無理。」
自身とあおは神様でもなければ仏でもないので、そこまで慈悲深くはない。
先程まで石などを投げつけられて悔しく、惨めな思いをさせた彼らのことは、もう放っておくことにした。
このまま夜まで騒いでレイスに襲われて死んでしまえと強く思った。
「同じだな。……これからどうする?もうこの国にはいられないだろ?」
「南のソレーユか北のカルタのどちらかに行く」
「キナコ邸宅跡を通ってタザニアには向かわないのか?」
「キナコ邸宅跡は四カ国でお互いに見張りあって不可侵を誓っているから近寄るのは無理」
「そうなのか。じゃあ、あおの行きたい方でいいよ」
「そう?……ならカルタに行く」
「分かった。……なんだか逃避行みたいだな」
あおの顔が真っ赤になった。
「これは、駆け落ちじゃないから真剣に取り組むように」
「あ、ああ」
あおは顔を隠すように俯きながら北に向かって進み始めた。
今まで逃げることを考えていたから逃避行だと言ったが、なぜ駆け落ちになったのか。
おれはあおに惚れてるから駆け落ちでも全く問題ないが……あれ?
なんであおが駆け落ちだなんて言ったんだ?
話の核心に触れそうになったところで、早く着いてこいとばかりに振り返って手招きをしてきた。
その顔はまだ赤いようで、もしかしたらもしかしているのかもしれないと胸が踊る。
だが、お互いに直接言葉にしたわけではないので、嫌われないように鋼の心で平常心を失わないようにしようと心に決めた。