50
「てめえらふざけんじゃねぇ!なんで街をこんなめちゃくちゃにしたんだ!」
「そうだそうだ!」
「ギルド長が死んだら終わるはずだろ!」
あおといい雰囲気になっていると、周りから罵詈雑言が浴びせられた。
その中には見知った顔もちらほら見える。
「おれたちはこれからどうやって生活していけばいいんだ!アイテムボックスに入りきらなかった家財道具は家に置いて来ちまったんだぞ!」
その声に、周りもそうだそうだ!と便乗する。
「……領主様やギルド長からは荷物を持って逃げろと言われたはず。もっと言えばラームの街を破壊することも伝えられてたはず。それをやらなかったのはあなた」
「それでも!指示を出した二人が死んだのになんで街を壊すんだ!次の領主やギルド長から指示が出るまで待つべきだろう!」
「ギルド長が亡くなる直前に最後の指示だと断ってラームの街の破壊を頼まれた。……それが恩人の頼みなら、可能な限り叶えてあげるのが義理だと思う」
あおの言葉を聞いて声高に非難していた冒険者は言葉を詰まらせた。
現世では徐々に見なくなってきたが、この世界では、こういった義理人情を重んじるのだろうことが窺えた。
「だ、だが!街を壊されておれたちはどこで暮らせばいいんだ!」
「それはわからない。ギルド長は領主が用意していると亡くなる直前に言っていたけど……」
「分からないなら街を壊すなよお!」
「私たちのラームの街を返して!」
あおが俯き何も言い返せなくなったのを見て、再び罵詈雑言を浴びせ始めた。
微動だにせず、ただ俯き続けていると、石や卵、生ゴミなどを投げつけてきた。
「お前たちいい加減にしろよ!」
このひどい仕打ちに遂にキレてしまった。
「何が荷物が無いだ!何が街を返せだ!何もせずに逃げ出したくせに好き勝手言うな!そんなに嫌だったんなら領主やギルド長に従わずに街にいればよかったんだ!なんでお前たちは街から出た!?なんでこんな所で賑やかに過ごしていたんだ!?何もしていないくせにこんな仕打ち許されると思ってるのか!」
肩で息をするほど思いを全て吐き出した。
自身がここまで強く言い返すとは思っていなかったようで、一瞬時が止まった。
「あっれー?あの時おれに一発ぶん殴られて伸びてた名ばかり賢者じゃないか?」
自身がギルドに近寄らなくなった最大の原因であるカブが、取り巻きを引き連れてこちらに向かっていた。
その全員が手に酒瓶を持っており、顔はほんのり赤みがかっている。
「青鬼の腰巾着があんま調子に乗ってるとまたぶん殴っちゃうぞー」
ガハハハと取り巻きと共に笑う。
「……おれは魔法使いだからな、殴り合いはアンフェアだ」
「そうかそうかー、なら殺し合いでもするか?街を勝手に壊しやがって、このゴミクズがあ!」
カブはいきなり手元の酒瓶をこちらに投げつけ、腰に引き下げた剣をを抜く。
自身はあおがいつしかやっていたように、身体をかなり低くして躱す。
猿真似であったが、うまく躱したようで、頭上をかなりのスピードで通り過ぎていく。
しゃがんだままカブを視界に捉え、リザードマンたちにやったようにファイアを唱えた。
すると、カブの頭部が燃え上がり、糸が切れたように倒れると、そこには炭だけが残る。
初めて対人戦をして人を殺したが、なんとも呆気ない戦いだった。
これならレイス退治の方が辛いんじゃないかと思ってしまうほどに。