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翌日、ギルド長の言付け通りに日が十分に上り、昼には早いだろう時間帯にギルドに着いた。
ここに来るまでの間に、露店は人が一人もおらず、街の人は皆街の外に向かっており、昨日よりも落ち着きを取り戻していたが、顔色が良くない者が多数見受けられた。
その誰もが手も何かを持っていたのは印象的だった。
この世界で会った人は皆、ファッション以外には小銭を入れる袋しか持っていなかったからだ。
酒場を含めて、ギルドにはローブや大きな帽子をかぶった、いかにもな魔法使いとギルド長がいたが、いつもお世話になっている受付の人たちはだれもいなかった。
「遅かったな、お前達で最後だぞ」
ギルド長が苦い顔をしている。
「昨日まで声を掛けていたほとんどの冒険者や身内にことごとく振られてしまってな。ここにいる八人で実行することになる。……もしかしたら、失敗するかもしれん」
ギルド長はどうすればいい、と頭を抱えてしまう。
既にいた五人も伏し目がちだ。
「……街から避難しているから何もしないでやめる事は出来ない。噴水を中心にできる所までやるべき」
あおも無茶を言っていることを自覚しているのか、表情が固い。
どんよりとした空気が漂いだした時、ギルドの入口が勢いよく開けられ、刃物を持った人たちが押し入ってきた。
「おれたちの街を壊そうとするんじゃねえ!」
一人だけスカーフを身につけたリーダーと思われる青年がこちらに剣を向け、迫ってくる。
その後ろから青年を先頭に、様々な種類の刃物をこちらに向けて襲いかかってきた。
突然の出来事に誰もが状況を飲み込めず、身動きができなかったが、あおだけは抜剣しギルド長を守るように青年達と刃を付き合わせた。
甲高い音が響き、レイス退治をした時によく目にした舞を踊るように滑らかな動作で、刃物を手にしている腕を切り落とす。
その刀身は微かに赤くなっていることから、フレイルを使用していることが窺える。
フォルテの腕を切り落とした時のように血飛沫は一切上がらなかったが、断面は焼いたように凝固していた。
全員を無力化すると、あおは剣を納めギルド長にどうするのかと目で訴える。
だが、ギルド長を含め魔法使いたちも何が起きたのか分からず混乱している様子だ。
そして、彼らが自分たちを襲ってきた理由に思い当たると、顔を青ざめだす。
「こ、これからやることは、街の人々の将来を守るために仕方の無い行為なんだ。領主もこのことは許可している。それに反抗するということは許されることではないんだぞ!」
まるで自分に言い聞かせるようにギルド長は声を荒らげる。
「おれたちの街を捨てた領主は既にいなくなってもらった!あとは実行犯のお前がいなくなれば、これまでの平和なラームの街が戻ってくる!そのためにおれたちは立ち上がったんだ!この売国奴め!」
青年はアイテムボックスを使用して左手で投げナイフを取り出し、ギルド長に向けて投擲した。
念入りに作戦を立てていたのだろう、他の人も同じようなタイミングて投擲する。
あおが防ごうと再び剣を抜きギルド長の元へ駆け出そうとする。
だが、一歩踏み出そうとした状態から数瞬動けなくなる。
その動けなかった隙にナイフはギルド長との距離を縮め、ダーツのように胴体に深々と突き刺さった。