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「この僕によくもこんなことをしてくれたな!ぶっ殺してやる!!」
フォルテは自信が殴った時に口の中が切れていたようで口内の血を吐き出し、両手を突き出した。
「炎天より注がれし陽の光__」
その呪文が唱えられるとあおの表情が強ばった。
しかし、一瞬の内にいつもの無表情になり、残像が発生させるほどの速度で迫る。
衝突する寸前に抜剣してフォルテの左腕を下から切り飛ばし、そのまま通り過ぎる。
これまでに見たこともないあおの動きに呆然としていると、切断面から勢いよく血が吹き出し、自身の服から足元に至るまで、かなりの量が掛かった。
魔法を行使するために相当な力を込めていたことが窺えた。
あおは剣を軽く振って簡単に血糊を落とすと鞘に収めた。
「あなたはその魔法が何を起こすのか分かってるの?個人間での喧嘩ならまだしも、魔法を使用しての私闘は法律で厳しく取り締まってる」
「あああ!おれの腕があああ!いだいいい!」
フォルテは痛みのあまり会話をする余裕がなさそうで、ひとしきり叫ぶと気を失ったのか倒れた。
先程までのナニかに加えて、私闘が繰り広げられたことにより、逃げ惑っていた人々の混乱を助長させることとなった。
そのため民衆は暴徒化する寸前まで混沌を極めた。
これが落ち着いたのは夕暮れ時だった。
また、この話は街全体にその日のうちに広がったそうだ。
「ギルド長が呼んでるみたいだからまだ帰れない」
フォルテを倒した後、あおと共にギルドに事情を話していたので、詳しい話を聞きたいのだろう。
だが、話せるようなことは全て話した気でいたので、どうやってやり過ごすかを考えながら執務室に向かった。
執務室の中には、身体中血だらけな上に、左腕に幾重にも巻いた包帯から重傷者のように見えるフォルテが、布を敷いただけの床に転がっている。
ギルド長は机から一枚の紙をもってソファに座り、自身も座るように促された。
「少し前にもある程度事情を聞いたが、本当にフォルテはそんな突飛な行動をとったのか?」
「私が保証する。間違いなく神罰級の魔法を詠唱していた」
「……そうか、にわかには信じられんが、青鬼が言うのならば本当なんだろう。まあ、分かった。フォルテについてはこちらで処理させてもらう。おそらくは今後会うことは無いだろう。……さて、そろそろ本題に入ろう」
ギルド長は持ってきた紙をあおに渡した。
何が書いているのかと覗き込むと、街全体の地図のようで、至る所に✕印が書かれている。
「そこに書いている✕は君らの見たナニかが確認された場所だ。今現在、この街はそいつらがかなりの数巣食っている」
……まじか。
おそらく、自身はとんでもないあほ面を晒しているだろう。
だが、生理的に無理だと感じたものがどこに居てもおかしくないと言われれば仕方がないことだ。
「実は数日ほど前……フーヌが噴水で存在の確認をした時から一般人に混乱を招かなくて済むように情報が漏れないよう、秘密裏に調べていたんだが、今回の件で隠しきれなくなった。よって領主より解決策を講じ、なんとかするよう依頼されたのだが、幾分数が多すぎる。そして、どこにいるのか検討もつかない上に、刺激を与えるとあいつのようになってしまうことから迂闊に手を出せん」
ギルド長はおそらく学者のことを言っているのだろうか。
バタバタと走る音が微かに聞こえてくる。
「既に腕に覚えのある者を数人退治に向かわせたが、上手く言っていないようだ。このまま時間が経つにつれて我々の生活が常に危険に脅かされる事になることは明白。__明日の明朝、街もろともナニかを倒す」
ギルド長の宣言に唖然とした。
その時、失礼します!と切羽詰まった声でギルドの受付をしている人が扉を開ける。
その手には一通の手紙を持っていた。
「返書が届きました!領主様からです!」
「やっと来たか。ご苦労、業務に戻ってくれ」
その言葉に従って退室したのを見届けると、手紙を開封した。
それほど時間が掛かっていないが、読み終えたようであおに渡す。
「……先程の予定通りことが進むこととなった。住民の避難のため決行は昼になるだろう。何人かにはこれから声を掛けに行く。そいつらとの打ち合わせのために少し早めにギルドまで来てくれ」
ギルド長は話はこれで終わりだ、と言い退室するよう促した。