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あおが眠り、学者がギルドに行ってからかなりの時が経ち、自身もうとうとし始めた頃、それは突然やってきた。
噴水からナニかが、凄いスピードで学者が持ってきた荷物にベチャッと音を立てて張り付いた。
その音にあおは目を覚まし、身体を起こすと周囲を警戒した。
これも日頃のレイス退治の成果と言えるだろう。
あおが飛び起きたので、自身も立ち上がり学者の荷物に恐る恐る近寄ると、そこには黒と緑のナニかがあった。
「!?」
飛び散った欠片がそれぞれ蠢き、一つにまとまろうとしているのを見て、いつしかのトラウマが蘇った。
後退りすると、自身の後ろをついてきたあおにぶつかる。
振り返ると、青ざめた表情をしていた。
おそらく自身も同じような顔をしていることだろう。
この間にも、それはもぞもぞと球体になっていく。
噴水の周りにいた人も自分たちの顔色から何かが起きていることを察して、噴水から離れたり、ギルドに駆け込む人が出ていた。
それが嫌悪感を感じる色の球体になる頃には、学者やギルドに滞在していたであろう冒険者が来ていた。
「一体何があったんだい?__ああ!僕の荷物に変な虫が!」
学者が振り払おうと、荷物から転がり落ちていた木の棒でそれを突っつく。
__パァン!!
水ヨーヨーが割れた時に鳴るような破裂音が周辺に響き渡った。
学者はそれの液体を正面から浴びてしまう。
液体はかなり強い即効性があるようで、髪や皮膚がぽろぽろと滑り落ち、衣類が虫食いにあったように穴が開いていく。
学者の急激な変わりように誰も言葉を発することができず、呆然としていた。
誰かが我に返り、悲鳴をあげた。
それをきっかけに蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出す。
我先にと逃げ出したことで、後ろから押されて転ぶ者や、逃げようとした方向から来た人とぶつかる者が続出した。
それから程なくして、怒号や悲鳴が至る所で聞こえ出す。
ギルドからも噴水から異変を感じたのか、職員が数人出てきた。
だが、冒険者や市民が避難すべく駆け込んだため、入口が人でごった返しになっている。
「みんな!落ち着いて行動するんだ!」
ギルドの方からそんな声が聞こえてきたが、誰も聞く耳を持たない。
「おれたちも逃げるか?」
「……それはダメ、あれを何とかしないと。ここまで騒ぎになれば街に被害が出る」
あおは武器を抜くと、刀身にレイス退治の時のように火を薄く纏わせる。
切りかかろうと姿勢を低くした時。
「エクリプス·クリムゾン·ファイア!!」
自身の背後からそんな声が聞こえ、分裂していたナニかが一つに集まろうと蠢いていた所に、火柱が立ち上った。
距離があるにも関わらず、身が焼けたのかと錯覚するほどの高熱を感じた。
振り向くと金髪のイケメンがマントを熱風により翻しながら、片手を突き出していた。