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良さげな依頼も見つからず、そのまま宿に戻った。
そろそろ宿に泊まりだしてから一週間が経とうとしていたので、受付に金貨を一枚支払いまた一週間泊めてもらうことにした。
その後、一日何をするでもなく、引き篭もり続けた。
翌朝、いつもより早く起きて食堂に向かう。
しかし、いつものように席はほぼ満席だった。
一昨日のことを知っている冒険者たちはじっと凝視してきたが、無視を決め込んだ。
あおを探してみると、カウンター席で地図と睨めっこをしながら、黙々と食べている。
「……隣、いいか?」
声を掛けると、地図から目を離し、こちらを一瞥すると、こくりと頷く。
席に座り、あおのように黙々と食事を摂る。
「……なんでカブから喧嘩を買ったの?」
「報酬額が少なすぎたからだよ。喧嘩に負けたせいでタダ働きになったけど」
はあ、とため息が自然と出てしまった。
「カブの噂、聞かなかったの?彼は軍人上がりで素行が悪く、徒党を組んで荒稼ぎしてる。関わりたくない人物」
「依頼を受けている間は良い人だと思ったんだけどな」
「それが嫌な所。今回は冒険者の中にも色んな人がいることを知るいい機会になったと思う。依頼報酬は授業料だと思うべき。それに、喧嘩で一撃でやられたから、これまで君を賢者だとよいしょしてた人がどんどん離れるから覚悟するべき」
あおは自身を慰めようとしてくれてるのか温かくも厳しい言葉をかけてくれる。
「……もし今日も宿で暇してるんだったらまた手伝ってくれない?」
話の流れを断ち切るように誘ってくれた。
「!? おれでいいのか?」
「知らない人よりも一緒に行ったことのある人の方がいいから」
「そういうことなら、よろしく頼む」
この時は、あおが救世主に見えた。
そして、この日を境にどこへ行ってもあおと共に行動するようになった。
あおと行動を共にするようになってから数カ月が経とうとしていた。
あの日以来、あおと常に一緒にいるもので、いつの間にか自身は青鬼の腰巾着または金魚のフンと呼ばれるようになっていた。
この日もレイスを退治してギルドに報告していた。
「噴水から気持ち悪いのが飛び出してきたんだよ!信じてくれよ!」
酒場の方からそんな声が聞こえた。
時間も昼頃であまり利用客もいないことからよく声が響く。
「黒と緑でさめっちゃ気持ち悪いんだよ!」
「なんだそれ?おれはこれまで一度たりとも見たことないぞ?」
「おれもだ。お前が見たそいつは、噴水に詰まったゴミなんじゃないか?」
「んなわけないだろ!飛び出した後、飛び散ったそれが蠢いて一つの塊になったんだぞ!?そんなゴミがあってたまるか!」
そう叫ぶと片手に持った酒を一気に煽る。
「それに、おれ以外にも見てるやつはいるからな!」
「ほー、お前以外に誰が見たんだ?正直そんな酒飲んでるやつの言葉は鵜呑みにできん」
「フーヌの旦那だよ!あの人も見たことがあるって言ってた!」
酔っ払った冒険者の話を聞いて、自身も似たような何かをかなり前に見た気がして遠い記憶を遡ってみるが、思い出すことは出来なかった。
冒険者たちの会話に聞き耳を建てている間に、あおが報酬を受け取ったみたいなので、ギルドを後にした。