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自身がギルドに着いた時には他の人は全員揃っており、始まる前のように何か話している。
受付の女性はおれが来たことを確認すると、カブに報酬の詰まった布袋を渡した。
「みなさん本日はお疲れ様でした。カブさんに渡したのが今回の報酬です。全て銀貨に崩してありますので皆さんで分け合ってください。それでは、またよろしくお願いします」
受付の女性がカウンターに戻ると、カブが近くの丸机にジャラジャラと音を立てながら中身を出した。
普通は硬貨をこんなに堂々と出さないが、先程キュレルに言われたことを思い出し、的を得ていたのだと感じた。
「さて、今回もおれが分配していくがいいな?」
カブがこれまでの優しそうな顔から有無を言わせない、怖い顔つきに変わる。
「異論もないことだし早速分配するぞ。まず、いつも通りおれと新人以外のメンバーに銀貨十枚ずつだ」
おおー!アニキ太っ腹!などと報酬を受け取った人達が騒ぎ出す。
とはいっても五人ほどなのでギルド全体の喧騒に比べたら、周囲が若干騒がしくなった程度だ。
「さて、カケル君はおれにやり方を教わったよな?」
「ああ、教えてもらったよ」
「ということは、おれに謝礼を払う義務があるんだ。だからカケル君の取り分は銀貨二枚だ」
「……それはいくらなんでも取りすぎじゃないか?せめて半分だろ?」
これは横暴だ。
いくら教えて貰ったとはいえあんまりだ。
「そうはいってもなあ、新人に教える側のことも考えてくれよ。あの時間で何カ所回れたと思ってるんだ?ん?」
カブが顔を近づけて凄んでくる。
とても目力が強くつい目を逸らしてしまう。
「目を逸らすってことは少しは申し訳なく思ってるんだろ?ならグダグダ言わず報酬持ってけよ」
銀貨二枚をおれに投げつけ、べちっと音を立てて床に落ちた。
「あっはっはっは。こいつ阿呆みたいな顔してやがる」
「ほんとだな!新人はどいつもこいつも顔芸がお得意だな!」
こいつら……ふざけやがって。
怒りのあまり手を出してしまいそうな衝動をぐっと堪える。
ここで手を出したら変な注目の浴び方をすることは想像に難くない。
カブを睨みつけ歯を食いしばっていると__「おっ?喧嘩か!?やれやれ!」
誰が囃し立ててくるのかと視線を向けるとルドガーだった。
ルドガーは酒場の方に向けて喧嘩が始まるぞ!呼びかけると、なんだなんだ、と自身とカブを酔っ払いたちが取り囲む。
そこに依頼報告に来た冒険者たちも加わる。
「死ななかったらどれだけ殴りあってもいいが武器と魔法は使うなよ!」
ルドガーが喧騒のどさくさに紛れて喧嘩のルールを教えてくれた。
行けー!やれー!とそこら中から声が上がる。
それをきっかけにして、余裕の表情のカブに向かっておれは鬱憤を晴らすつもりで、思いっきり殴りかかった。