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「街灯のこの爪を外して蓋を開けると、中に火を灯す場所があるからそこに向かってファイアを唱えるといい。初めは加減ができないと思うが、頑張ってコツを掴んでくれ。で、火を付けたらこの蓋を閉めて終わりだ」
火を付ける部分はただの紐で何度も使われているのか、かなり焦げている。
カプセル状の入れ物の中に、紐が立っているだけで蝋のような原料もないのに、一夜も燃え続けるとはどういった仕組みなのか疑問に感じる。
それが顔に出ていたようで、カブは苦笑いをした。
「君も物好きだね、普通は構造なんて気にしないんだが。まあ、この紐の元は魔石に繋がっているんだ。だから魔力で発生させた火は魔石の中の魔力がなくならない限り消えることは無い」
説明を聞いている内に、リザードマン退治に行った時にキュレルが撒いていた魔石を思い出した。
あれからそんなに日は経っていないのに、懐かしく感じる。
「それじゃあ、右側をやってくるから左側を頼むよ。邪魔してくる奴がいたらカケル君の方でなんとかしてくれ」
カブは人の波に逆らって街灯へ向かっていったのを見送ると、自身も任された街灯の方へ向かった。
街灯は露店の後ろにあるので、毎回一言断って付けて回った。
その度に、買っていかないかと声を掛けられ、仕事中だからと断り続けた。
「あれ?火の賢者様じゃないですか!?」
そろそろ折り返しに掛かろうとしていた時、誰かに声をかけられた。
視線を手元から外して周りを見るとキュレルが新しい仲間たちと一緒にこちらを見ていた。
「火の賢者ってあの最近噂になってる?」
「そうだよ!いつもアンリとムーに話してるリザードマンから私を救ってくれた命の恩人よ!」
「ふーん、この人がねー」
「ムーそんな疑わしいものを見る目はやめなよ。賢者様だって街灯の火付けしてるようにしか見えないけど、ほんとは違うことしてるかもしれないじゃん」
「街灯の火付けって依頼だろ?違うことしてたら違反じゃないか?」
「う、それはそうだけどさ……」
ムーと呼ばれた赤い髪を結い上げた少女が訝しげな表情で自身を見てくる。
対して、もう一人の少女__アンリはキュレルを庇うように賢者らしい行動をしているのだと言うが、見事に言い負かされた。
「賢者様は街灯で何をしているのですか?」
「見ての通り灯りを付けてるだけだけど」
自身の答えを聞いてムーは蔑むような表情に変わった。
キュレルたちは心無しかしょんぼりとしている。
「……賢者様はなんでそんな仕事をなされているのですか?」
「え?えーと、夜までにできる仕事を探したらこの仕事を見つけたからだよ」
「街灯の火付けの依頼を受けてる人が、どんな待遇の人が多いか知ってますか?」
「いや、知らないけど」
「それはですね、退治の依頼では体がついていかない、もしくは社会に溶け込めない人達です。そういった人達のリハビリの仕事なんですよ。基本的に街の中でできる仕事の内、ギルドやラームの街からの依頼には、そういう意味があるんです。それでは、失礼します」
キュレルは宿の方へ向かっていった。
「あーあ、やっちまったな。ま、そう気を落とさず頑張れよ、賢者様」
ムーはけらけら笑いながらキュレルの後を追い、アンリは浅く頭を下げるとムーについて行った。
この世界だけじゃなくて街のことも何も知らないんだと改めて感じた。
露店の近くで三人とやり取りをしていたこともあり、多くの人が自身を見て近くの人とコソコソ話していた。
早くこの場から去りたい気持ちを抑えて、任された仕事をこなしていった。
終わったのは日が沈もうとしている頃だった。