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定刻に近くなってきた頃、依頼の報告に来る人と酒場に来る人で、ギルドが大分騒がしくなってきた。
何杯目か忘れたが手元の果実ジュースを飲み干し、店主に金貨を一枚渡す。
お釣りに銀貨数枚を渡して来ようとしてきたが、この世界ではチップは当然なものだった事を思い出して、手で制した。
その様子を見ていた周りの冒険者達からおれもやってみてー、と声がちらほら上がる中、ギルドの受付に向かった。
受付の周りには同じ依頼を受けているだろう人が数名固まって話していた。
先程対応した受付の女性が自身が来たことに気づくと、カウンターから出て、数枚の紙を手に取ってこちらへやって来た。
「みなさんこんばんは、集まってくださりありがとうございます。早速ですが、こちらが今回火を付けていただきたい街灯のある場所です。今ここに来てくださった方で全員なので、担当区域を話し合ってやってください。終わりましたらまたここに集合してください。全員がいることを確認してから報酬をお支払いします。それでは、よろしくお願いします」
受付の女性は紙を近くにいた男性に渡して、説明をするとカウンターへと戻っていった。
「さて、おれはこの仕事を三十年続けているカブだ。長年持ち場を決める役を担わせてもらってるから今回も任せてもらいたいのだが、良いだろうか?……反対が無いようだから任せてもらう。持ち場についてだが、ここが良いという場所はあるか?」
カブはそう聞いてきたが、自身を含めて全員が首を振る。
「わかった。いつもより一人、リュックサックを背負ってる君は私のエリアを手伝ってくれ。みんなはいつも通りの場所で頼む」
カブのいつも通りという言葉に、自身だけに向けて自己紹介をしていたことに気づき、顔を繋げるという意味でも話に割って入って話せばよかったかな、と少し後悔した。
気持ちを切り替えるために軽く頭を振ると、出ていこうとするカブの後を追った。
「おれたちは大通りの露店エリアと脇道にある宿なんかの看板に灯りをつける。そういえば、君のことはなんて呼べばいい?」
「カケルと呼んでほしい。火の魔法しか使えないんだが大丈夫だろうか?」
「おお、君が火の賢者と名高いカケル君か。噂は常々聞いてるよ。そんな若いのに魔法の深淵を覗いているなんて信じられないな。っと、灯りは火の魔法で十分だ。出入口の門から始めるからそこで一度手本を見せる。それを覚えてくれ」
そこまでの間お喋りに付き合ってくれないか?とカブに誘われ、着くまでの間自身の珍獣ハンターの噂に尾ひれが付いて広まっているらしい。
最近では食事は普通の人の食べるものは口にしないとか、希少生物を倒すのが生きがいといった話が聞けた。
しかし、その人間性から友人はおらず、同士もおらず、と可哀想な奴だと認識されつつあることを知った。