35
「それでは、ここにお願いします」
教会の奥へと修道女に案内され、指し示された場所には、台の上に真新しい薪が数本積まれている。
その薪は水を吸っているかのように湿っているようで、水たまりが広がっている。
「あの薪には聖水が振りかけられて神聖なものとなっているので、並の魔法使いでは付かないので普段より強めにお願いしますね」
たしか魔法に強弱を付けられるのってとんでもなく少ないんじゃなかったっけ?
それを当然のように注文してくるとは、やはり宗教は怖いな。
個人的な主観と偏見でそんなことを感じた。
大きく息を吐くと薪に火が灯るよう念じながら、ファイアと唱えた。
すると、ゴゥ!と大きく火柱が上がり赤色から青色へと変化した。
いつも通りに赤い火が付くように想像していたので思わず、声を上げてしまった。
それに対し、修道女は目を爛々と輝かせ火を見ている。
「これまで何度か火を灯して頂いてきましたが、こんな美しい火を見たのは初めてです。……ああ、やはりこれこそが杏子様のお導きなのですね。__」
修道女はその場で跪き、火に向けて手を組むと、感謝の言葉を延々と言い続けた。
落ち着いたのか修道女は立ち上がるとこちらに鍛冶場で貰ったような木札を渡してきた。
「本日はありがとうございました。今後もギルドを贔屓に致しますので、その際には可能な限り受けて頂けませんか?」
「そうですね、その時に手が空いていましたらお手伝いさせていただきます」
あまり気が乗らないが、ここで嫌な顔をして厄介事になるのも嫌だったので、その場しのぎの回答をする。
そのまま、別れの挨拶を交わすとギルドに向かった。
依頼をこなすよりも、修道女の祈りの言葉を聞いている時間の方が長かったので、あまり依頼を達成した気持ちが湧かなかった。
「こちらが報酬です、お確かめ下さい。それにしても、教会の依頼を数時間で達成させるなんて流石ですね。これからの活躍を期待しています」
受付から報酬とギルド証を受け取ると、まだ日が出ているので、街中でできる依頼を見繕う。
すると、Cランクの依頼に、街中の街灯に火を灯すという、数十人募集している依頼があったので参加することにした。
受付してもらう際に、暫くしたら説明がされると言われたので、酒場を利用して時間まで待つことにした。
酒場のカウンター席に座り、これから仕事があるので、アルコールが入っていない飲み物を頼んだ。
飲み物が出され時間が来るまでの間、店主が常に話しかけて来てくれたので、時間を潰すのが苦ではなかった。
時折、冒険者たちも会話に混ざってきて自身の知らないことや、美味しい食事処、良いものを取り扱っている店など様々なことが聞けたので、時々酒場に顔を出すのも悪くないなと思った。
その代わりに、鍛冶場のことやリザードマンのこ、あおとの共闘についての話を聞かせることとなった。