30
翌日、目を覚ましたのは日が傾いてきた時間帯だった。
身体を起こそうとすると初日に感じた筋肉痛と軽い頭痛に苛まれた。
時間はまだ大丈夫だが、昨晩疲れすぎて身体を拭かずに寝たので体臭がすごいことになっている。
約束の時間まで身支度を整えるために費やした。
ようやく人前に出ても大丈夫だろうと思える仕上がりになり、少し約束した時間より早く受付に行く。
そこにはすでにあおが来ていた。
「あお、すまん。待ったか?」
これから宿泊しようとしていたのか四人の男女が自身を信じられないといった顔で見てきた。
「別に、大丈夫。ギルド行こっか」
おれたちは四人の横を通り抜け宿を後にした。
不意に扉を閉めるとき後ろを振り向くと、受付に捲し立てるように話す男性が見えたが、何を言っているのか聞き取れず、そのまま出ていった。
宿を出てギルドに向かう道中、冒険者の格好をした人達には先程の四人と同じような顔をされ、何も知らないと思われる人達には温かい視線を向けられた。
ここまであからさまだと、あおが実は凄いやつだと思い始めてしまう。
しかし、本人も周囲の反応に困ったような顔をしている。
さらに、道行く先に冒険者がいると横に逸れ、道を譲る者もいた。
もう、わけが分からん。
大通りの人混みも一切苦に感じることなくギルドに着いた。
わいわいと外にまで聞こえるような賑わいをみせるギルドに入ると、空気が凍ったように静かになった。
冒険者達は目を見開きおれたちの出現がありえないものを見るような表情をし、おれたちはその空気の変化がありえないという顔をした。
そうして数秒間お互いに誰も動けず固まっていると、珍獣ハンターと誰かが声を発した。
その声に我に返ったあおは肘で自身の横腹を軽く突くと、ギルドの受付に向かった。
おれもその後ろ姿を小走りで追いかけた。
受付にはいつぞやの学者が対応しているブースがあったからか、並んでいる人がいなかったからかは定かではないが、あおはそちらに向かう。
「これは意外な組み合わせですね。早くても昇格してから彼とは出会うとばかり思ってましたよ」
「同じ宿に宿泊していたのだから遅かれ早かれ出会っていた」
「しかし、あなたの二つ名を知っていれば率先して近づこうとは思わないでしょう?」
「……それは、君達が勝手に呼んでいるだけ」
「それがあなたの周りからの評価であり、能力の総称なんですよ。王国の賢者は聖女なんて呼ばれていい暮らしをしているようですよ」
「……それは本性を誰も知らないだけ」
「まあ、それも一因だと思いますがあなたの場合も同じはずなんですけどね」
やれやれ、と学者は肩を落とす。
「世間話は置いておいて、依頼は達成できましたか?__青鬼?」