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街まで行きと同じように歩くので夕方頃に着く予定だ。
昨日は歩いて寝る間を惜しんで戦い続けていたが、あおは慣れているのか特に変化はないようだが、おれはもう眠気と疲れでクタクタだ。
そんな状態でリュックサックを背負えるはずもなく、アイテムボックスに入れさせてもらった。
「……あんなに魔法使ってたのにほんとに何ともないの?」
「……あ、ああ、特になんともないけど疲れと眠気がすごいかな」
「吐き気とか脱力感はないんだ……君はもしかしたら本物の賢者なのかもしれない」
「普通はどれくらい魔法を使ったらそういう副作用みたいなのが出るんだ?」
「人にもよるけどだいたい一時間近く使い続けたら一般人のほとんどの人に発症する。でも、自分の魔力量を理解して使っていれば防ぐことが出来る。おそらくランクBからはそういう人ばかり」
そういうとあおは少し考え込み__
「……ほんとに副作用がないなら君は人類最強の魔法使いだね」
「他にも賢者って呼ばれてる人はいるだろ?」
「たしかに英雄杏子のキナコ邸宅跡を中心に東のヤラカ国、西のタザニア国、南のソレーユ帝国、北のカルタ王国の四カ国が共同声明として公示した賢者の十人はいる。だけど君みたいに火力のある魔法を自在に操って一晩持ちこたえた人は、誰一人存在しない」
あおはこちらの目を見据える。
「私のように刀身に薄く魔法をかけ続けてやっと長時間戦えるようになる。……君の魔力量は常人に比べて高いの? それならなんでアイテムボックスを使わないの?」
「魔力のことはよく分からないけど、アイテムボックスは生まれつきなのか使えないんだ」
「……じゃあアイテムボックスが使えない人は特定の魔法しか使えないようになっている可能性がある?」
返答を聞いてあおは小声で話すが、うまく聞き取れず、そのまま考え込むように上の空な返答しかされなくなったので、会話を止め黙々と街へと歩き続けた。
その道中にうさぎや鳥がいたから、食事と力加減をコントロールする練習も兼ねて、様々な温度で魔法を使えるようになったのはここだけの話だ。
いつの間にか空が赤みを帯びてきた頃、街の外壁が見えてきた。
「……やっと、着いた」
街が見えてきたことに安堵したために、これまで堪えていた眠気や疲労が一気に身体中を支配し、一歩歩くのがとても辛い。
「街に入ったら宿に帰って、明日ギルドに報告に行く。時間は今と同じぐらいに宿の受付で」
それだけ言い残すと、おれのリュックサックをどさりと地面に置き、小走りで街に入っていった。
なんとも言い難い感情に苛まれたが頭を振って気持ちを切り替えると、リュックサックを背負い、鈍い足取りで宿へと向かった。