01
心地よい風が頬を撫でる。
さらに青臭い草の匂いが鼻をくすぐる。
とても気持ちいい柔らかな日差しも相まって昼寝をしてしまいたい気持ちに身を任せたくなる。
だが、身体を締め付けるような感覚がないことに気づきガバッと起き上がった。
「お、おお!」
不可思議な部屋以来の肉体に感嘆の声が漏れた。
周りには草原の緑しか無く、見上げると青空に月が3つあり、まさにザ、異世界という感じだ。
自身の服装に視線を落とすとゲームでよく見た皮の鎧を着込んでいた。
腰には布で作られたような袋があり、その中をには銀の王冠マークが入ったコインが三枚入っている。
これがこの世界でのお金なのだろう。
何とも複製されやすそうな安価な作りをしている。
袋の中にはこれだけしかなく、このまま夜を過ごすには能力を貰ったとはいえ、どんな生命体がいるのかも分からないため強い恐怖を感じる。
ここがどこか見当もつかないが、人のいる所までひたすら歩いてみることにした。
しばらくすると街道のようなものが見えた。
それは人の手で作ったようで草や砂利が一切無く、無数の足跡や直線状に窪みが残っている。
現世だと私道として十分使用することができるレベルだ。
ただ、アスファルトが敷かれていない分、ここを車で走行したら地面の凹凸で、腰とタイヤを痛めそうである。
街道があるってことは少なくとも文化的な生活をしているのだろう。
このまま道なりに進んでいけばこの世界の街か村に着くだろうか。
道中に現世にいたうさぎや鳥などがいたが、狩りなどしたこともない。
そんな人間が捕まえられる訳もなく、早々に断念して空腹感を感じながら歩き続けた。
「あれは塀か?」
空が夕暮れのようで視線の先が眩しくなってきた頃に見つけた。
たしか小説とかでは日が落ちると通行料が高くなるものもあったような気がする。
この世界もそうかもしれないし急ぐか。
一日歩き続けて疲れ切り、空腹感を通り越して何も感じない身体に活を入れると、小走りで塀に向かう。
「とまれ!こんな時間に何用だ!」
塀の近くまで来ると塀の隙間があり、その近くに鎧を着込んだ人がいたので、そちらに向かっていた。
近くまで来るとその人が門番だったようで腰の剣に手を置きながら尋ねてきた。
「すみません、街を探していて道に迷ってしまってこんな時間になってしまいました」
現地住民と会ったらなんて言うか歩き続けている中で考えていた台詞を口にする。
「そうか、では銀貨1枚だ」
門番は剣から手を離しその手を突き出してきたので、恐らく袋に入っていたコインのことだろうと思い、一枚取り出して渡した。
「たしかに頂戴した、ラームの街へようこそ。もう少ししたら宿も一杯になる時間帯だから急ぐんだな」
「ああ、わかった。ありがとう。」
こうして異世界初の街に何事もなく到着した。
そして現地住民とのファーストコンタクトにも成功した。
異世界人は現世にいた外国人のような風貌をした彫りの深い顔立ちをしていた。