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ギルドから出ると、ゆっくり座ることのできるカフェのような店に入った。
高そうな服を着たご婦人やピッシリとキメた男性が多く、自分たちのような服装の人はおらず、場違い感が否めない。
周りからは訝しげな視線を感じる。
出て行こうとした時「いらっしゃいませ、二名様ですか?」と爽やかな笑顔の女性が来たので少し居心地が悪いが、奥に個室もあるということなので案内してもらうことにした。
案内された部屋の扉には金糸や銀糸を主に、小さな宝石が散りばめられて、非常に高級感のある装飾がされている。
扉を開け部屋に入ると一転してモダン調の落ち着いた空間が広がっている。
部屋の角には観葉植物や花瓶に色鮮やかな花が生けられていた。
部屋の中央にはとても大きなベッドが置かれ、この部屋はナニをする場所なのか主張している。
ベッドの横には二段になった邪魔にならない程度の大きさをした机が置かれ、その上の段には新鮮な色合いを魅せる果物の山と小皿、ナイフ。
下の段には水の入ったピッチャーとコップが置かれ、その横にはハンカチのような布もある。
「御用の際はこちらのベルを鳴らしてください。それではごゆっくりどうぞ」
女性は音を立てずに扉を閉める。
コツコツと足音が遠ざかっていくのを聞きながら初めて風俗に行った時のことが頭をよぎった。
キュレルも同じような気持ちなのかフードをいつもより深く被り俯いている。
「そ、そういうことをしに来たわけじゃないんだし、果物でも食べて気を落ち着かせないか?」
「いいですね!そうしましょう!」
反射のような速さで返答される。
緊張しているのか声量もいつもより大きく、木霊した。
普通の部屋ではありえないことなので、この部屋には反響するように設計されているようだ。
苦笑いを浮かべながら果物の近くに移動した。
__シャリシャリとりんごの皮を剥く音が部屋中に響く。
すでに小皿は皮を剥かれたりんごでいっぱいになっている。
皮は一本で繋がり机の脇にあったくずかごの中に何本か入っている。
皮を剥く手先をキュレルはじーっと見つめているが、心ここに在らずといった風で口は半開きになっている。
皮を剥き終わり、サクッと切り分け皿に盛る。
現世にいた頃はできなかったりんごの皮剥きや切り分けが、自身の想像する理想の形で実現している。
こんな所に異世界に転生する際に貰った剣の能力が活きるのは、流石に予想外だった。
それと同時にこの世界に来てから一度も剣を振っていないことに気づいた。