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ラームの街に着いた時には既に日が暮れておりおり、もう間もなく門を閉めるギリギリの時間だった。前回と同じように門番に銀貨をそれぞれ支払い街に入る。
大通りには普段通り多くの人でごった返している。人の波に逆らわずギルドまで流されていった。
ギルドと併設されている酒場では酔っ払いたちが武勇伝を語り、詩を歌い、はたまた痴話喧嘩を繰り広げていて混沌としていた。
「おっ! こんな所に彼女を連れてくるなんてセンス無いなぁ!」
酔っ払いの一人がおれとキュレルが入店したのを目ざとく見つけ出しおちょくってくる。そんな関係じゃないと否定するが、その必死さが裏目に出たようで、周りの酔っぱらいたちもなんだなんだとやって来て突っかかってくる。酔っぱらいの相手をするのに辟易としてきたので、何も言わないキュレルに助けを求めるが、フードを深く被って俯いている。もう無駄だと諦め、酔っぱらいを相手に口論し続けた。
それから一時間程経ち、同じような反応しか示さない自身に酔っぱらいたちもいじるのに飽きたのか少しずつ席に戻っていく。もう一刻も早く報酬を受け取り宿に帰りたいと思いながら、残り数人となった頃、俯き続けるキュレルを連れてギルドの受付に向かった。
「リザードマン退治お疲れ様でした、お預かりした冒険者証と報酬です。こちらに申請されていたチームメンバーのアルフォンさんとミリーさんはどうしましたか?」
冒険者証を作った時にお世話になったネコミミの女性が先程渡した冒険者証と小さな布袋を差し出してきた。
「……実は、この前に先輩冒険者の方々とリザードマン退治をさせて頂いたことがあったので同じように退治していた時に__」
先程まで俯きっぱなしだったキュレルが暗い表情で湖で起こったことを大まかに説明し、アイテムボックスから青の尻尾を取り出した。
「__賢者様がいたおかげで私だけ生き残ることが出来ました。これが他とは違うリザードマンを討伐した証拠です」
それを見たネコミミの女性は表情は変わらないが耳をピクピクと動かし一言一句聞き逃すまいと耳をそばだてている。それを見ていた他の冒険者たちも聞き耳を立てている。だが、多くの者は酒場からの声で上手く聞き取ることが出来ていないようでじりじりと近寄ってくる。
「今からギルド長に話してきますので明日また来て頂けませんか?」
「わかりました。賢者様もいいですか?」
「ああ、大丈夫だ。何時頃にこればいいですか?」
「二人一緒でしたら問題ないのでいつでもいいですよ。ただ、早すぎるとギルド長が来ていない可能性があるのでお昼前を目安に来てください」
「わかりました、それではまた明日来ますね」
では、と軽く挨拶してギルドから出ようと振り返ると、強面のおっさんや美人な女性、分厚い鎧を着た男性たちが半円状に層を作り、こちらを見ていた。
「……通してもらってもいいですか?」
海を割ったように人の層が割れ、その場を後にすると、ひそひそと冒険者たちが何かを話し出したが気に留めずそのままギルドを出た。
ギルドの外でキュレルが今回の報酬を全部渡してきたが何度も断り、半分に割ることを提案し続けたが、一向に首を縦に振らなかったので結局全部貰うことにした。また、お互いに寝泊まりしている宿屋を教え合ってこの日は解散した。
ラーレライの宿屋でこれまでと同じように明日の支度を整えて寝転がり、目の前でアルフォンやミリーが殺されたことを思い出し、戦うということは命のやり取りなのだと実感したが、自身にはそれでも生き残れる能力を持っていることも知ることができた。
これからは精神をすり減らすようなギリギリの戦いではなく、余裕を持って戦うことにしようと心に刻んだ。